「東京ゲームショウ 2020 オンライン(TGS2020 ONLINE)」がいよいよ始まる。約25年の歴史で初となるオンライン開催のイベントはどのような狙いで構築されたのか。見どころは何か。主催するコンピュータエンターテインメント協会の理事を務めるカプコンの辻本春弘社長に聞いた。
――オンライン開催への移行は、どのような経緯で決まったのでしょうか。
辻本春弘理事(以下、辻本氏) 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、世界3大ゲームショウである米国のE3(Electronic Entertainment Expo、エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)の中止が20年3月に決まりました。ドイツのgamescom(ゲームズコム)はオンライン開催となり、TGSもいつも通りの実施は難しいのではないか、とCESA理事会およびイベント委員会で検討の課題となりました。
未曽有の感染症だったこともあり、物理的なイベント開催を待ち望むファンのためにも、しばらく様子を見て判断をしたほうがいいという意見もありましたが、会場である幕張メッセとの調整や参加企業の準備期間などを考えると、5月のゴールデンウイークまでには結論を出す必要がありました。そのため、まずは物理的な開催は見送るべきだと判断し、さらに議論を重ねて最終的にオンラインでの開催を決めました。
無料にして多数の視聴者を集める
――オンライン化を進める上で困難だったことは。
辻本氏 最も悩んだ部分は、例年同様にいかに多くの方にご満足いただけるイベントとしていきながらも、予算を調整することです。各企業の出展料に関しても例年通りとはいかず、どのくらいの収入があり、どのくらいの支出があるかの見通しがまったく見当がつきませんでした。
まず入場料に関しては、1人でも多くの人に見てもらうことを考えて視聴は無料としました。視聴者が増え、これだけ多くの人が来ると示すことができれば、出展する企業も増え、新しいコンテンツが生まれていく。そうした相乗効果のサイクルを作り出していくために、まずは無料でやろうということになりました。
従来の出展ブースに代わる枠として用意したのが、動画を配信する公式番組です。出展企業にとっては、TGS2020 ONLINEのタイムテーブルに掲載されるため、露出効果は高いと考えています。
2019年は40の国と地域から655の企業や団体が出展しました。オンライン開催となったTGS2020 ONLINEは、200社ほど集まれば、という見方もあったのですが、実際には400社以上が参加します。注目したいのは、北米、欧州、アジアなど海外からの出展が国内を上回ったことです。
オンライン開催となり、海外からでも距離の壁を越えてコストを抑えながら参加できます。その点に関しては、オンラインこその恩恵と言えます。
――期間中に独自の動画配信を行うメーカーもあります。メーカーが公式番組で配信する利点はどこでしょうか。
辻本氏 TGSという枠組みを用意し、各社がそれぞれ動画配信するだけでは、好きなメーカーや好きなタイトルの番組のみを見て終わることが多いと思います。公式番組では、1つの番組の後にまた次と色々なメーカーが登場することで、新たな情報に触れる機会ができます。各企業は今まで獲得できなかったファン層にアプローチできる、そこは公式番組にしかない利点と言えます。
今回が初めてのオンラインなので、視聴者にとって見やすい環境を整えるため、できるだけシンプル化し、タイムテーブルは1つだけにしました。e-Sports Xと日本ゲーム大賞など一部は別の枠を用意しています。
26時まで公式動画を配信
――オンラインになったことの最大のメリットは何でしょうか。
辻本氏 会場を使用することによる時間制限がなくなったことですね。これまで物理的に開催していたTGSでは、10時から17時までという会場の制限を設けていました。オンラインでは、朝の開始時刻は同じですが、終了時刻は一番遅い番組で26時、夜中の2時まで行うものもあります。
夜8時以降をゴールデン枠と位置付けています。仕事や学校などから帰ってきて、ちょうどライブで見られる時間で、より多くの人が楽しめる時間帯です。さらに数時間程度の時差があるアジア各国のほか、欧米など海外からの視聴も期待できます。
公式番組はタイムテーブルに沿って、ライブで視聴してもらうのが一番良いですが、リアルタイムで視聴が難しい人もいるでしょう。そのために年内はアーカイブとして視聴できるように残しておく予定です。
――VR(仮想現実)空間での展開は候補に入らなかったのでしょうか。
辻本氏 検討はしたのですが、同時接続人数がどこまでなのか、費用対効果がどのくらいか、当時はまだ見えていませんでした。まずはTGS2020 ONLINEでどれだけの人が視聴してくれるのかを把握していきます。その上で同じ人数が来ても運用できるのか、また参加する各メーカーがVRに対応する技術力があるのかなど、来年以降に向けて考えていきます。
――最近のネット動画の文化に合わせて、YouTuberが公式動画に声を重ねて配信をするといった楽しみ方もあり得るのでしょうか。
辻本氏 公式番組はYouTube、Twitter、Twitch、niconicoなどの動画プラットフォーム上でも配信します。それらプラットフォームを通して、配信者が声を重ねるなどの配信をする可能性はあります。また公式チャンネルを視聴しながら、SNS上で感想を言うなど、視聴者同士がコミュニケーションを取り、みんなでもり立てていければいいですね。
――TGSのeスポーツイベントと言えば「e-Sports X」ですが、同じ期間に日本eスポーツ連合(JeSU)も大会を開催します。
辻本氏 e-Sports XはTGSの公式チャンネルのほかAmazon.co.jp上の特設会場でも配信します。その特設会場では、JeSU主催の大会「JAPAN eSPORTS GRAND PRIX」も配信されます。そうした意味では、いずれの大会もTGS2020 ONLINEの一環であることは間違いありません。JAPAN eSPORTS GRAND PRIXは国際大会の代表選考会も兼ねた大会で、コロナ禍において選手選考などの調整が大変だったこともあり、スケジュールが重なってしまった部分があります。
着実に30万人を目指す
――最後にTGS2020 ONLINEの見どころをお願いします。
辻本氏 オンライン開催となったことで、より多くの人に参加していただけるようになったと思います。TGS2019の来場者は約26万人でしたが、まずは30万人以上を着実に目指していきます。開催時間も10時から26時までといつもより遅くまで楽しめます。好きな人であれば、朝から夜までずっと見ていられるでしょう。ファンにとってたまらないゲームウイークになることは間違いありません。
ある種、いまだかつてないイベントだと言えます。これまで会場が遠く、なかなか参加していただけなかった方々も、家に居ながらにしてスマホ1つで見られます。グローバルからのアクセスも増えるでしょう。これは画期的なことだと思います。
新ハード関連の注目度も高いと思います。Xbox Series S/XやPlayStation 5に関しては各メーカーから対応ソフトの情報が配信されることを期待しています。何がすごいのかを認知してもらえる機会になるでしょう。来年以降、リアルイベントが復活したとしても、さらに発展した形でオンライン展開を進める可能性もあります。そのための一歩を踏み出す上で、TGS2020 ONLINEは大きな意味があります。
(写真/菊池くらげ)
- 東京ゲームショウ2020特設サイト
- 東京ゲームショウ2020公式サイト
(クリックすると「東京ゲームショウ2020」のホームページを表示します)