コロナ禍を受け、さまざまなイベントがオンラインに対応している。eスポーツブランド「RAGE」もその1つだ。2020年8月に実施した「RAGE ASIA 2020」では出場選手をネットで結び、完全オンライン化を実現。バーチャル空間で試合を観戦できる「V-RAGE」なども活用した。

完全オンラインのeスポーツイベント「RAGE ASIA 2020」が開催された
完全オンラインのeスポーツイベント「RAGE ASIA 2020」が開催された
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 CyberZ(東京・渋谷)、エイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日の3社が協業するeスポーツブランド「RAGE(レイジ)」は2020年8月29、30日、初の国際大会となる「RAGE ASIA 2020」を開催した。大会は完全オンラインで実施。観客はもちろん、出場選手もチームの拠点やそれぞれの自宅からオンラインで参加することになった。

 同大会はRAGEとしては初の国際大会であると同時に、司会者席に解説席をCGで合成した動画配信やバーチャル空間「V-RAGE」での動画配信など、新たな試みをした大会でもある。

 RAGE総合プロデューサーを務めるCyberZ eスポーツ事業管轄取締役の大友真吾氏は、「RAGE ASIA 2020は、RAGE初の国際マッチ。オフラインで開催するなら、かなり派手なステージづくりをしようと考えていましたが、残念ながらオンライン開催になりました。その分、オンラインでもCGなどをフル活用し、従来のオフラインイベントに負けないような豪華なステージづくりを目指しました。RAGE ASIA 2020を見た人たちが、あの舞台に立ちたいと思えるようにしたかったんです」と、同大会に込めた思いを語った。

アジアから競合が続々参戦

 RAGE ASIA 2020は、1日目の8月29日に『荒野行動』(中国ネットイース)、2日目の30日に『APEX Legends』(米エレクトロニック・アーツ)と、いずれもバトルロイヤル系ゲームの試合を行った。大会名にあるとおり、アジアの強豪と日本チームが対決する国際大会となっており、『荒野行動』には中国、韓国、台湾、香港から、『APEX Legends』には中国、韓国、日本から、いずれも計20チームが参加して対戦した。

 参加チームはいずれも強豪ぞろい。特に『APEX Legends』は国際大会で活躍している韓国のT1、Crazy Raccoonというトップチームが参加したため、ファンの注目度は高くなった。CyberZによると、OPENREC.tv、YouTube、ABEMAといった動画配信サービスでの総視聴数は2日間で170万を超えたという。

配信画面では、司会とゲストのいるブースに、実況解説席を合成して表示するなど、未来感のあるスタジオを演出した
配信画面では、司会とゲストのいるブースに、実況解説席を合成して表示するなど、未来感のあるスタジオを演出した
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 今回目を引いたのは、派手で見栄えのするステージ演出だけでなく、初めてeスポーツを見る人や海外の選手やチームを知らない人でも分かりやすくする工夫が多分にあったことだ。

 その1つがチームや選手を紹介するビデオ映像。事前に選手のインタビューを行い、どういうチームなのか、どんな選手なのかを視聴者に知ってもらおうというものだ。さらに、大会前の8月21日にはRAGE ASIA 2020の事前特番を、9月11日には大会の模様を伝える特番を放送。このあたりには、これまで数多くのスポーツ中継を行ってきたテレビ朝日のノウハウが生かされていた。

 もう一つが、V-RAGEだ。RAGE ASIA 2020は一般的な動画配信サービスだけでなく、バーチャルSNS「cluster」を使ったバーチャル空間でも配信した。V-RAGEは20年3月にβ版としてイベントを配信したことがあるが、本格運用では、このRAGE ASIA 2020が最初となる(関連記事「コロナで無観客も来場者1万人 VRでeスポーツイベントを開催」)。

バーチャル空間を自由に動いて大会を観戦できる「V-RAGE」
バーチャル空間を自由に動いて大会を観戦できる「V-RAGE」
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 V-RAGEでは、会場の中央に大型画面が配置されており、みんなでそれを見て、サイリウムを振ったり、手をたたいたりして応援できる。今回は、バーチャルYouTuber(Vtuber)も参加しており、Vtuberが応援実況をする場面は、さながらオフラインの会場にいるかのような感覚を味わった。

 また、バーチャルならではの演出ができるのもV-RAGEの強み。優勝者が決定した瞬間、会場内には打ち上げ花火が上がり、派手なライティングと共に観客を盛り上げた。オフラインのイベントでは、消防法などの問題から建物内で打ち上げ花火を上げることはできないが、バーチャル空間であればたやすくできてしまう。

 CyberZの発表によると、V-RAGEへのアクセス数は2日間で2万人を超えた。大友氏は、「V-RAGEで提案するのは、一般的な動画配信とは違う楽しみ方。バーチャル空間ながら現場にいるような感覚で応援や観戦ができた」と手ごたえを語る。

オンラインの改善点も実感

 その一方で、初の完全オンラインでの実施には、改善点も見つかった。

 1つは、ネットを介したオペレーションだ。「運営していて、海外とのやり取りやオペレーションは思った以上に大変でした。オフラインであれば、現場のスタッフが選手やチームを対戦席まで誘導し、その場でオペレーションについて説明することもできますが、オンラインではそうはいかない。ゲーマー向けのコミュニケーションツール『Discord』を使いましたが、相手の状態を完全に把握できませんでした。最初から出場する20チームが決まっており、いずれもオンラインに慣れているチームだったので、なんとかなった感じです。オンライン大会は、参加者のリテラシーの高さに依存してしまうところがありますね」(大友氏)。

 V-RAGEについても、改善の余地を指摘した。今回、バーチャル空間内で動くアバターには、RAGE ASIA 2020のオフィシャルTシャツを着せることができた。しかも、そのTシャツは実物を購入し、後日郵送で受け取れるようになっていた。ただ、購入手続きをするには、V-RAGEの会場から出て、一度ECサイトへ飛ばねばならず、「せっかくバーチャル空間で楽しんでいるところを、現実に引き戻される感があった」(大友氏)という。

 また、アバターのカスタマイズについてもTシャツを着せ替えられるだけで、個性のあるスキンを使えるわけではない。「今後は、エモート(拍手やペンライトを振るなどの行動)をもっと増やすなどして、ユーザーが応援でアピールできるようにしたいです。こうした点を修正し、V-RAGEで見る価値を高めていきたい」と大友氏は今後への意気込みを示した。

V-RAGE内でアバターが来ていたオフィシャルTシャツは、ビームスがデザイン。実際に着られるものをECサイトで販売していた。購入すると後日郵送される
V-RAGE内でアバターが来ていたオフィシャルTシャツは、ビームスがデザイン。実際に着られるものをECサイトで販売していた。購入すると後日郵送される
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 RAGE ASIA 2020では、大会1日目の『荒野行動』で日本チームのαD Avesが、2日目の『APEX Legends』で韓国チームのT1が勝利を収めた。どちらもアジアを代表するチームということで、その戦いはパフォーマンスが高いものだった。特に『APEX Legends』は韓国、中国チームが強く、試合の展開も早かった。国ごとに戦略や戦術の違いが見えたところは、コアなユーザーも感心したのではないだろうか。『荒野行動』も激戦で、最後までどこが勝利するか分からず、目が離せない試合展開で盛り上がった。

「RAGE ASIA 2020」では『荒野行動』と『APEX Legends』の大会を実施した
「RAGE ASIA 2020」では『荒野行動』と『APEX Legends』の大会を実施した
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 大友氏は、「RAGE ASIAは今後も年2~3回程度、定期的にやるつもり」という。加えて、全世界を対象とした「RAGE World」も企画中だ。「もともとオフラインで開催できていれば、RAGE Worldになるはずでした。『そこでRAGEをやるの?』と驚かれるような会場も押さえていたんです」と明かす。だからこそ、「21年は可能ならオフラインでRAGE Worldを開催したいですね。RAGEを国際的なeスポーツイベントとして確立していきたい」と積極的な姿勢を見せた。

 新型コロナウイルス感染症の収束はまだ見えない中、他のライブエンターテインメント同様、eスポーツもまた、21年以降、どの程度の規模のオフラインイベントができるかは不透明だ。そんな中、オンラインでもオフライン以上のエンターテインメントをどう実現するかの模索が続いている。これを機に、オンラインでのeスポーツへの参加や観戦の裾野が広がれば、新たなエンターテインメントとしての道が開けるだろう。新規ユーザーが思いきってeスポーツをオンラインで視聴する機会になることも期待したい。

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