米アップルは2020年9月15日(米国時間)にiPadとApple Watchの新製品を発表した。新しいiPadとApple Watchには、アップルに特別な思い入れのない人に対しても興味を刺激しそうな魅力が詰め込まれている。特にiPadは仕事の道具としても一皮むけた印象だ。
仕事に教育に、パフォーマンスを強化した標準「iPad」
iPadの新製品は2種類。10.2インチのRetinaディスプレイを搭載するスタンダードモデルの第8世代「iPad」と、最先端のSoC(システム・オン・チップ)を搭載してオールスクリーンデザインに一新された第4世代「iPad Air」だ。いずれも最新のiPadOS 14を出荷時から搭載する。
第8世代のiPadは2020年9月18日から販売を開始する。ストレージ容量は32GBと128GBの2種類、カラーバリエーションはシルバー/スペースグレイ/ゴールドの3色。Wi-FiモデルとCellular通信機能付きのモデルも選べるが、それぞれの価格は第7世代のiPadから据え置いた。最も安価な32GBのWi-Fiモデルは3万4800円(税別)。
外観は指紋認証機能のTouch IDを備えたホームボタンを残すiPadとして、第7世代のモデルから大きく変わっていない。注目はアップル独自開発のSoCである「A12 Bionic」チップ。そしてスタンダードモデルのiPadに、初めて機械学習や画像解析など高度な処理に特化するNeural Engineを搭載したことだ。
シリーズのスタンダードモデルに上位機の高性能なチップを載せて飛躍的なパフォーマンス向上を図る戦略は、20年春に発売された第2世代の「iPhone SE」にも採用されている(関連記事:新型iPhone SEが変える「今欲しいスマホ」の価値観)。その後、フィーチャーフォンからの乗り換えも含めて、初めてiPhoneを手にするユーザーにもiPhone SEが好評を博していることから、この戦略は一定の成果を収めていると考えられる。今回、iPadも多くのユーザーに親しまれているデザインはそのままに、この先少なくとも数年は快適に使える性能を担保したスタンダードモデルでラインアップの足場を固めてきた。
20年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、日本の文部科学省もGIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想を打ち立てて、その実現を目指すべくIT教育の普及に力を入れている。比較的安価に入手できるスタンダードクラスの「iPad」を在宅学習のツールとして一斉導入する学校も増えていると聞く。基本のパフォーマンスが向上した第8世代のiPadは、高度な電子教材を使ってスムーズに学べる環境を提供するタブレットとしてさらに注目を集めそうだ。
もちろん基本性能が底上げされているのだから、ビジネスツールとしての実力も十分。お手ごろ価格なだけに、在宅勤務のサブ機として、あるいはカフェなどでのリモートワーク用として、導入のハードルはかなり下がったに違いない。
なおこの新しいiPadも、第1世代のApple PencilとSmart Keyboardがアクセサリーとして使える。
ビジネスツールとしても一皮むけた「iPad Air」
第4世代のiPad Airは20年10月の発売予定だ。ストレージ容量は64GBと256GBの2種類、カラーバリエーションはシルバー/スペースグレイ/ローズゴールドの他、iPadシリーズに今までなかったスカイブルーとグリーンを加えた5色に広がった。
Wi-FiモデルとCellular通信機能付きのモデルに分かれ、最も安価な64GBのWi-Fiモデルは6万2800円(税別)。第3世代のiPad Airよりも8000円値上がりしている。Wi-Fiは最新規格の11ax/Wi-Fi 6対応だ。
iPad Airはデザインがとてもフレッシュになった。ホームボタンを廃して端末の縁(ベゼル)を狭くし、画面占有率を高めたオールスクリーンデザインになっている。iPad Proのルックスに近づいているが、実は顔認証によるFace IDには対応していない。側面に搭載する電源ボタンに指紋認証センサーを埋め込んだTouch IDにより、画面のロック解除や電子決済などが行える画期的な技術を搭載した。生体認証機能が顔認証によるFace IDのみの場合、外出先でマスクを着けたまま画面のロック解除がスムーズにできない場合がある。ぜひ新しいTouch IDを次期iPhoneにも採用してもらいたい。
SoCは最新の5nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)プロセスにより製造された「A14 Bionic」チップを、アップルの製品として本機が初めて採用した。A12Z Bionicチップを搭載する「iPad Pro」とはCPUとGPUのコア構成が異なるため、特にグラフィックス処理のスピードと精度は上位のiPad Proのほうに軍配が上がると思われるが、実機の体感スピードでiPad Airがどこまで迫れるかが気になるところだ。
メインカメラはLiDARセンサーを持たないシングルレンズ仕様で、ディスプレーの仕様も細部はiPad Proのほうに贅(ぜい)が尽くされている。しかし、アップル製品のファンなら欲しくなるiPad Airに進化を遂げていると感じた。
また20年春に発売された、打鍵感のスムーズなMagic KeyboardがiPad Pro 11インチのものと共用できたり、iPadの本体にマグネットで装着して充電ができる第2世代のApple Pencilに対応したりした点など、ビジネスやクリエイティブツールとして見ても、iPad Airは一皮むけた印象を受ける。販売価格も手ごろであることから、ノートPCの買い替えや買い増しを検討するビジネスパーソンの琴線に触れるヒットモデルになるかもしれない(関連記事:iPad ProにMagic Keyboardは必要なのか?)。
Apple Watchは上位とスタンダードの2モデル発売
Apple Watchは上位の「Series 6」とスタンダードモデルの「SE」が発表された。20年9月18日に全種類のモデルが一斉に発売される。
Apple Watchの新製品にも最新のwatchOS 7が搭載される。20年6月の世界開発者会議「WWDC 20」でwatchOS 7が発表されてから、新機能の睡眠アプリや手洗いタイマー、その他充実するワークアウトのメニューが注目を浴びて、健康管理に最適なウエアラブルデバイスとしてApple Watchに関心を寄せる人の声が筆者の周りからも多く聞こえていた(関連記事:20年秋登場のwatchOS 7 Apple Watchにビジネスチャンス到来)。Apple Watchはさらに機能を研ぎ澄ませたSeries 6と価格を抑えたSE、入門機として販売を継続するSeries 3の3シリーズ展開となった。
ハイエンドモデルのSeries 6は本体に内蔵するセンサーを強化。ユーザーの心拍や動作を検出できるセンサー、常時計測の高度計やコンパスの他、血中酸素濃度の測定にも新たに対応した。血中酸素ウェルネスアプリを使ってオンデマンドに、または1日を通して継続的に測定したデータを、ウェルネスやフィットネス系の用途に役立てられる。
スタンダードモデルのSEはSeries 6と同サイズのワイド表示に対応するディスプレー、転倒検出機能やコンパス、常時計測の高度計などを搭載。もちろん心拍計測やフィットネストラッキングの機能も充実している。
Series 6の中で最も安価なモデルが4万2800円(税別)で購入できるのに対して、SEの最安値のモデルは2万9800円(税別)。価格差の1万3000円をどのように受け止めるかは人それぞれだが、Series 6のほうはケースの素材をアルミニウム/ステンレススチール/チタニウムの3種類から選べる他、新しいカラーバリエーションのブルーとレッドがアルミニウムに、グラファイトがステンレススチールに加わった。特に文字盤だけでなくハードウエアにも個性を反映できるSeries 6は、既存のApple Watchユーザーにとっても大いに物欲をそそられるだろう。この辺りの商品企画のうまさは、さすがアップルと思わせるものがある。
iPhoneを持たない家族にもApple Watchが使えるようになる
Apple WatchのwatchOS 7には「ファミリー共有設定」という新機能が加わる。Apple WatchはiPhoneと1対1でペアリングして使わなければならないデバイスだったが、ファミリー共有設定を使うと、1台のiPhoneにユーザー自身と家族のApple Watchが複数台ペアリングできるようになる。電話やメッセージ、トランシーバーアプリで連絡を取り合ったり、位置情報をトラッキングしたりなども可能になる。
それぞれの機能を利用するためには、ペアリングする家族のApple WatchがCellular通信機能を搭載するSeries 4以降の端末であることと、キャリアが提供するApple Watch向けの通信契約を結ばなければならない条件がある。だが、家族を見守るためのデバイスとして、子供やシニア層にもApple Watchの普及を促す起爆剤になりそうなサービスに寄せられる反響に注目したい(関連記事:コロナ対策やサブスクに注力、アップルが新Watchを投入)。
(画像提供/アップル)