2020年11月の実施に向けて争いが激化する米大統領選挙。その渦中、民主党候補のバイデン氏がNintendo Switch向けゲーム『あつまれ どうぶつの森』で選挙キャンペーンを実施したというニュースが流れた。ただ、一部報道には勘違いにつながりそうな表現もある。選挙におけるゲーム活用について改めて解説する。
『あつまれ どうぶつ森』(あつ森)は、無人島でどうぶつたちとのんびりと過ごすというコンセプトが老若男女に受け入れられ、コロナ禍の巣ごもり需要の後押しもあって、累計販売数が2000万本を突破する世界的な大ヒットゲームになった。今回の選挙キャンペーンは、米民主党の大統領候補であるジョー・バイデン氏の陣営がその人気に目を付けた格好だ。
ではゲームの中でどのようにキャンペーンを展開するのか。『あつ森』には、プレーヤーがゲーム内で自由にグラフィックを描ける「マイデザイン」という機能がある。描いたグラフィックを2次元コードに変換してネットなどで公開すると、他のプレーヤーがその2次元コードをスマホアプリ「Nintendo Switch Online」で読み込み、自分のゲーム内にダウンロードして使える。この夏、米メトロポリタン美術館をはじめとする世界中の美術館が所蔵する美術品の2次元コードを公開したり、ファッションブランドが洋服のデザインを公開したり、東京消防庁が制服を公開したりしたのもこの機能を利用している。
バイデン陣営のキャンペーンも仕組みは同じだ。バイデン氏の名前やロゴなど4種類のグラフィックを用意。その2次元コードをネット上に公開し、プレーヤーがダウンロードできるようにした。バイデン氏の支持者たちが、自分の島にそれらのグラフィックを飾り、ゲームの中で自分の政治信条をアピールできるようにしたのである。
米大統領選挙でのゲームの利用はもはや常識
このキャンペーンは日本のメディアにとっても目新しかったらしく、筆者が確認した限り、「コロナ禍の中、米大統領選挙がバーチャル世界に進出した」といった切り取り方をする報道もあった。
しかし、今回の取り組みをコロナ禍の文脈でのみ受け取ると、間違った認識を生みかねない。米大統領選挙のキャンペーンにゲームが利用されたのは、なにも今回が初めてではないからだ。初めて利用したのは2008年のバラク・オバマ前大統領。レースゲーム『バーンアウト パラダイス』やNFLをベースにしたアメリカンフットボールゲーム『マッデンNFL09』(いずれも米エレクトロニック・アーツ)といったゲーム内の看板に広告を掲示した。
16年の米大統領選挙でも、ヒラリー・クリントン陣営がゲームを選挙活動に取り入れている。集会を開くタイミングに合わせ、会場となる公園内にある『ポケモンGO』のポケストップにモンスターを出現させやすくするアイテムを設置。家族連れの参加を呼びかけるキャンペーンを行ったのだ。
このように、新型コロナウイルス感染症がなかった時代から、民主党は選挙キャンペーンにゲームを活用してきた。これは、ゲームを楽しむ層に呼びかけるとともに、「ゲーム・カルチャーにも理解がありますよ!」という姿勢をアピールするための定番とも言える行為なのだ。今回のバイデン氏のケースが世界的ニュースになったのは、『あつ森』が社会現象になるほどの知名度を得ていたからにすぎない。
また、今回のキャンペーンを「ゲームとのコラボ」あるいは「ゲーム内広告」といった形で紹介する報道もあったが、それらも誤解を招きかねない表現である。08年のオバマ前大統領のように、ゲーム内に広告を掲示したのであれば、ゲーム運営企業に広告費を支払っており「広告」に分類できるだろう。けれど、今回のバイデン氏(や前述したヒラリー氏)の行為は該当しない。バイデン陣営は、ユーザーの1人として、誰もが無料で使えるゲームの機能を利用しただけだ。これを広告と評するのは適当ではないだろう。
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