リンクアンドコミュニケーション(東京・千代田)は、同社が提供する健康支援アプリのユーザーを対象に、新型コロナウイルス感染拡大が体の状態や健康に良いとされる行動にどう影響したか調査した。外出自粛で1日当たりの歩数が大幅に減り、健康リスクが高まっていることが明らかになった。

外出自粛によって1日当たりの歩数が減少した
外出自粛によって1日当たりの歩数が減少した

2万7000人が調査対象に

 調査は、ヘルステックベンチャーのリンクアンドコミュニケーション(L&C)が提供する3つの健康支援アプリ「カロリーママ(現カロママ)」「カラダかわるNavi(現カロママ プラス)」「カラダかわるNavi for スポーツクラブ(現カロママ プラス)」のユーザー約2万7000人を対象に実施。外出自粛中の運動量(1日当たりの歩数)や体重、食事メニューの変化を分析した。

 まず歩数では、分析期間を「コロナ影響前」(1月12日~2月1日の3週間、新型コロナウイルスによる生活への影響がさほど大きくなかったと想定される期間)、「自粛要請」(2月23日~3月28日の5週間、政府や厚生労働省から自粛を要請された期間)、「緊急事態宣言」(3月29日~4月11日の2週間、4月7日の緊急事態宣言前後の期間)の3期に分けて比較した。

 その結果、コロナ影響前に2割だった「1日3000歩未満」の割合が、緊急事態宣言下ではほぼ3割に増えていたことが分かった。厚生労働省の調査では、日本人の1日当たりの平均歩数は6322歩(「平成29年国民健康・栄養調査報告」)。L&Cによると、これが3000歩未満になると、1日に消費したいエネルギー量に91キロカロリー不足し、エアロビクスなら17分相当の追加エクササイズが必要になるという。さらに調査対象者の1日当たりの平均歩数をビッグデータとして解析したところ、緊急事態宣言下には約1000歩も減少していることが分かった。

 一方、体重に関しては1月第4週を基準とし、2月第1週から3月第4週までの全8週間について週ごとの体重変化量を調査。これを19年の同時期と比較した。その結果、19 年は8週間で0.6キログラム減少していたのに対し、20年はほとんど減少していなかった。L&Cによると、アプリユーザーの約75%はダイエットやメタボ改善を目的としており、19年は正月休み後に順調に減量できていた。しかし、20年は新型コロナウイルスの感染拡大によって生活が変化した影響か、ダイエットの成果が表れにくくなったという。

 また、アプリに体重を記録する頻度と体重の変動にも関連性が見られた。入力が週2回未満の人はそれ以上の人と比べ、3月後半から顕著に体重が増加し、1カ月弱で約1キログラム増加する傾向があったという。「運動不足になりやすい今の時期は、体重の記録が体重管理において重要であることを示唆している」(L&C)。“コロナ太り”を回避するには、こまめに体重を記録するのが良さそうだ。

体重の入力頻度と体重の変動(n=1万6857人。このうち体重入力週2日未満は46%で7698人)
体重の入力頻度と体重の変動(n=1万6857人。このうち体重入力週2日未満は46%で7698人)

 これらの結果について、データ分析に携わった社会疫学者で東京大学大学院の近藤尚己准教授は、「自粛要請、緊急事態宣言など行動制限が強まるにつれ、(1日当たりの歩数が)3000歩未満の人が顕著に増えてきていることが『見える化』できた。これは衝撃的なデータ。外出自粛によって身体活動が顕著に減れば、心筋梗塞や脳卒中の増加、うつ病の発症、認知機能の低下など、間接的な影響も重大になる」と説明。「身体活動の減少を放置すれば、新型コロナ感染症が収束した後の『ツケ』となり国民全体が不健康になる。自宅にいても身体活動を増やせる工夫を社会全体で考案して実践していくべきだ」と警鐘を鳴らした。

 緊急事態宣言が解除された今もテレワークが続く職場は多く、今後もテレワークと通勤とを使い分けなければならないのが実情だ。近藤准教授はテレワークを推奨する企業に対し、「従業員の活動量を確認して、活動量が減少している従業員には運動を促してほしい。例えば、1日の中で時間を決め、社内SNSで20分間の運動を推奨したり、運動へのインセンティブを付けたりなどの工夫ができるのでは」と提案した。

 これを受け、L&Cは企業向けアプリ「カロママ プラス」を利用している企業ユーザーに対し、従業員がアプリに記録した健康状態を集計できる機能を付加したり、自宅で取り組める運動メニューの動画を配信したりするサービスを20年4月から提供している。

食事メニューにも変化

 今回の調査では、ステイホームによる家庭での食事メニューの変化も確認した。ユーザーが前述の健康管理アプリに入力した食事の内容を分析した結果、主食には家族で食事をする機会が増えた状況を反映したメニューが増えていたという。

 例えば、4月は、1月に比べて炊き込みごはん(+39%)、焼きそば(+36%)、ピザ(+25%)、チャーハン(+18%)、お好み焼き・たこ焼き(+17%)の登場頻度が10%以上増加。特に、朝食にお好み焼き・たこ焼きが出る機会は、4.7倍も増えたという。

 L&Cによると、これらのメニューに共通することは3点あるという。1点目は「一度にたくさん作れて、取り分けられる」こと、2点目は「子供が好きで、家族一緒に食べられる」こと、3点目は「短時間で作れる」ことだ。

 半面、おにぎりやすしなど、個食で食べられがちなメニューはそれぞれ、20%減、28%減となった。

朝・昼・夕食別、1月を100%としたときの4月の喫食状況(赤:20%以上増加、緑:20%以上減少)(n=1万5232人)
朝・昼・夕食別、1月を100%としたときの4月の喫食状況(赤:20%以上増加、緑:20%以上減少)(n=1万5232人)

 酒や菓子といった嗜好品の摂取状況にも変化が見られた。アルコール摂取量の減少傾向が顕著だったのは男性。1月は摂取量がずっと14グラム台だったが、2月以上徐々に減少し、4月には約12グラムにまで減少した。「自粛要請で接待や仕事仲間との会食が減少しているため、飲酒機会が減り、飲酒量にも影響が出ているのでは」(L&C)。ちなみに、女性は4グラム前後で推移し、増減はほぼ見られなかった。

 菓子の摂取量は男女とも微増。もともと摂取量が多い20~40歳代で1月に比べて4月で約5キロカロリー増加し、最も顕著だった。

性別、酒と菓子の摂取量
性別、酒と菓子の摂取量

(写真提供/リンクアンドコミュニケーション)

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