スポーツメーカーのデサントは、シャープが開発した蓄冷材を使用したフェースガードなど、スポーツシーンだけでなく日常生活の暑さ対策にも使える商品に力を入れている。コロナ禍での飛沫対策やテレワークの波にはまり、売れ行きは好調だ。
2020年は新型コロナウイルス感染症予防のため、真夏日であっても外出時のマスク着用が必須になる。マスクで口と鼻を覆うと呼気がこもり、暑さを余計に感じやすい。例年以上に暑さ対策が不可欠になるだろう。
そうした中、デサントがアスリート向けの技術を応用した暑熱対策商品を販売。スポーツメーカーが手がける機能性アイテムとあって消費者の期待値も高く、よく売れているという。
手のひらを冷やして体温上昇を抑える
2020年6月に発売した「CORE COOLER(コアクーラー)」は、「適温で冷やす」という新しい切り口の商品。冷たすぎないマイルドな冷却温度(12度)で手のひらを冷やすことで血液の温度を下げ、体温の上昇を効率よく抑える。氷や保冷材では難しい12度という適温を持続させるために、シャープが開発した特殊な蓄冷材を使用している。
夏場の体温調節といえば首や脇の下を冷やすイメージがあるが、近年の研究によると、腕や脚など頭部から離れた部位のほうが熱を効率よく外に逃がすことが分かっているという。中でも手のひらには体温を調整するAVA(動静脈吻合)血管という特殊な血管がある。このAVA血管を通る血液を冷やすことで、冷えた血液が体内をめぐり、体の中心部の体温が下がる仕組みだ。
もともとは夏場のランナーをサポートするために開発された商品。そのため、アタッチメント部分はランニングでの使用を想定して作られている。生地は蒸れにくいメッシュ素材。腕時計の装着や給水時の動作がスムーズに行えるよう、指と手首にアタッチメントがかからないデザインになっている。実際にマラソンや競歩の選考レースで選手9人が試作品を着用したところ、多くの選手が好成績を残したという。
こうした効果検証を経て、4月にクラウドファンディングサービス「Makuake」でプロジェクトを開始。わずか数時間で目標金額を達成した。最終的な購入総額は目標の20倍以上。6月の一般販売では、公式オンラインストアなど一部の流通で完売した。スポーツシーンだけでなく、通勤・通学での利用や、就寝時の暑さ対策など、幅広い目的で使えることがヒットにつながった。
使い方としては、運動中はもちろん、運動前に深部体温を下げるプレクーリング(事前冷却)が効果的だという。AVA血管は手のひらだけでなく、足の裏や頬にも通っている。また、就寝前に足の裏に着用すると、ほどよく体温が下がり眠りやすいそうだ。
応用商品としてフェースガードを発売
CORE COOLERの好調を受けて、20年8月3日には同技術を応用した「適温クーリングフェイスガード」を2000個の数量限定で発売した。蓄冷材が頬のくぼみにフィットするつくりになっており、体を動かしても蓄冷材がズレにくい。口元を覆うことで周囲への飛沫抑制エチケットにもなる、コロナ禍ならではのニーズに応えた商品だ。
発売に向けデサントは、ジョギングやウオーキングだけでなく「体を動かして作業する人、手で何かを持って作業する機会が多い人にもお薦めしたい。飛沫エチケットに気を配りながら、頬をクーリングするという新たな発想で涼しさをお届けする」として、スポーツに限らない幅広いシーンで活用できることをアピールしている。
新たなビジネス服も提案
これらの暑熱対策アイテムに加えて売れているのが、スポーツメーカーならではの縫製技術を生かしたビジネスウエアだ。
19年10月に発売した「“座る”を快適にするパンツ」は、初回販売分が1週間以内に完売した。その後も購入希望者は増え続け、発送まで数カ月待ちになる状況がしばらく続いたという。
とりわけ売り上げが伸びたのは20年の5月以降。5月と6月は、それぞれの単月売り上げが同年2月の単月売り上げと比較しておよそ4倍になった。「在宅勤務で座る時間が増えたこと、そんな中でも緊急事態宣言が解除されて外に出る機会も増え、フォーマルな見た目も必要になったことなどが影響したのでは」(デサント)と見る。

座ることに特化したこのパンツには、立ったりしゃがんだりする動作が多い野球のキャッチャーのために開発された3Dパターンと縫製技術を応用している。オリックス・バファローズや広島東洋カープなど、プロ野球のオーダーメードユニホームを製作している子会社、デサントアパレルの村岡工場が手がけた。
通常パンツは片脚2枚、両足で計4枚の生地を縫い合わせて作るため、縫い目が脚の脇にくる。これに対し、「“座る”を快適にするパンツ」では各脚1枚の生地を筒状にし、縫い目が脚の裏側にくるようにした。伸びても元に戻ろうとするキックバック性の高いストレッチ素材を使用することで、長時間の座り姿勢でもストレスを感じづらいという。
加えて、デサントジャパンが展開するフットボールブランド「アンブロ」からは、着たままサッカーができるほど動きやすい「Umditional SUIT(アンディショナルスーツ)」を20年9月上旬に発売する。20年1月に行われた「Makuake」での先行販売では、開始初日に目標金額を達成。最終的には目標の13倍である1300万円以上を集めた。
Umditional SUITのパンツにはフットボールや野球のウエアに用いる、膝を曲げやすく動きやすい設計を採用。リフティングやキックをするときの脚を上げる動作と、野球の守備で必要な腰を落とす動作に対応した2つのパターン技術を融合させた。ジャケットは腕回りの動きやすさにこだわり、身ごろから袖にかけて1枚の生地で仕上げている。
コロナ禍でテレワークや在宅勤務が定着する中、自宅で仕事をする上で動きやすく、かつビデオ会議などに参加する場合にはきちんと見える服装が「デジカジ(デジタル・カジュアルウエア)」として注目されている。
デサントでは上記の他にも、縫い目を極力抑えて動きやすさにこだわったポロシャツや、熱接着やレーザーカットといったスポーツウエアの技術を生かしたジャケットなど、スポーツウエアで培った機能性とデザインを兼ね備えたアイテムを多数展開してきた。いずれの商品もデジカジを目的に開発したわけではなかったが、結果的に時流にぴたりとはまった形だ。
現状デジカジに特化した売り場づくりをする予定はないというが、今後の市場の盛り上がり次第ではデサントの新たな主力カテゴリーに育つ可能性もある。
(写真提供/デサント)