「虎ノ門ヒルズ駅」開業に合わせてオープンした「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」。話題は、東京中の名だたる名店が入居した飲食エリア「虎ノ門横丁」やエリア初のスーパーなど、59店舗の商業施設を擁していること。オフィス街・虎ノ門にあえて大規模な商業施設を打ち立てた狙いを探った。
虎ノ門ヒルズビジネスタワーは2020年6月に開業した、地下3階、地上36階建ての超高層複合タワーだ。「ビジネスタワー」の名の通り地上5~36階がオフィスフロアとなっているが、一番の売りは食を充実させた商業施設だ。地下1階から地上3階にわたって、東京中の名だたる名店26店舗が入った飲食エリア「虎ノ門横丁」や虎ノ門エリア初となる物販フロア、スーパーマーケット、ランチから会食まで幅広く利用できるレストランなど、全59店舗を展開している。
商業の拠点として認知されていない「虎ノ門」
そもそも、虎ノ門エリアはオフィスビルが多く立ち並ぶビジネス街だ。そこになぜあえて商業施設を建設したのか。森ビル 営業本部 商業施設事業部 商業運営部 赤坂・虎ノ門エリア店舗運営室リーシングオペレーション担当の塚本雅則氏は「商業立地としては認知されていないからこそ、何かに特化した戦略が必要だった。そこで、食に目を付けた」と言う。
塚本氏によると、14年に虎ノ門ヒルズ森タワーを開業したが、タワー内の商業施設への夜の集客に課題があるという。ビジネス街ゆえにランチは活況でも、ディナーの時間帯の客足が悪かったり、土日の客数が伸び悩んだりしている。その改善策と位置付けたのが、虎ノ門横丁だ。
新宿にある焼きとんの「鳥茂」や渋谷・松濤の紹介制レストラン「エレゾハウス」など、これまで多店舗展開をしてこなかった東京中の老舗や人気店26店舗を虎ノ門横丁のテナントとして選出、招致した。
これらの中には最寄り駅から徒歩で行きづらい場所にある店舗もあるが、1カ所に集めることで、客が足を運びやすくなる。また、本店ではコースのみを提供している店舗でも、虎ノ門横丁ならばアラカルト(単品)で注文したり、お土産を買えるようにしたりすることで、様々な店のメニューを少しずつ楽しめるようにした。「休日や夜にも目的を持って虎ノ門エリアにお越しいただくために『虎ノ門横丁』を考えた」と塚本氏は話す。
混雑回避のため、LINEで整理券を発行
ずらりと並ぶ人気店と併せ、虎ノ門横丁が特徴としているのがLINEを活用した混雑回避の施策だ。
使用したのは、ブレイブテクノロジー(大阪市)とセイコーソリューションズ(千葉市)が開発したシステム。来店者は、虎ノ門横丁のホームページにある2次元コードから公式アカウントをLINEの「友だち」に追加すると、トーク画面から各店舗の整理券を発行できる。現在の待機人数が表示される上、順番が近づくと通知が届くので、スムーズに来店できるという仕組みだ。同様に「持ち帰りメニュー」からメニューを選んで決済すると、料理ができた際に通知が届くモバイルオーダー機能もある。
これらは、虎ノ門横丁の店舗共通。中には、これまで電話やネットによる予約を受け付けていない店舗もあったが、それらに対しても、出店交渉時から理解を求めたことで、同システムを実現できたという。
公式アプリなどの選択肢もある中、LINEを選んだ理由について、塚本氏は「アプリはお客様にわざわざダウンロードしてもらわなければならず、ハードルが高い。お客様が使い慣れていて、アプリに代わるものがないか調べたところ、LINEに白羽の矢が立った。類似システムを導入している他店舗の運用状況なども確認し、機能面、操作面に納得して、LINEを選んだ」と述べる。
さらに、森ビルではLINEの順番待ちシステムを、新型コロナウイルス感染防止対策にも応用した。
虎ノ門ヒルズビジネスタワーでは現在、リアルタイムで在館人数をカウントする「ピープルカウンター」をエントランス3カ所に、発熱者を感知する「サーマルカメラ」をエントランスと横丁の入り口に設置し、在館者の数や状態をチェック。在館者数が一定以上になると、施設自体への入場を制限する施策を取っている。
実際に入館者が規定数に達すると、管理システムから警備やスタッフにアラートを発信。LINEの順番待ちシステムを入場制限モードに切り替えると、店舗予約と同じLINEの順番待ちシステムで施設に入場するための整理券を発行する仕組みだ。
塚本氏は「“横丁”というと、安くて昭和っぽい響きがあるが、一流のお店をそろえ、ITを活用したシステムも導入することで、今までの概念を覆すような新時代の“横丁”をつくりたい」と意気込みを見せた。
オープンから約1カ月。森ビルが六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズなどの利用者向けに発行しているポイントカード「HILLS CARD(ヒルズカード)」の顧客データを分析したところ、「日比谷線沿線のお客数の来場が増えている。特に、木曜日から日曜日にかけての来店者数が多く、入場制限も何度か行った」とのこと。「目的の店舗の整理券を取っておき、その待ち時間に他の店舗をのぞきに行くというお客様もいる。複数店舗の利用を促進できているのはよい効果だ」と塚本氏は語った。
今後の開発で国際複合都市へ
虎ノ門ヒルズは、国際水準のオフィスや住宅、ホテル、交通インフラなど様々な機能を備えた国際新都心(グローバルビジネスセンター)にすることを目標に、開発プロジェクトが進められている。
ビジネスタワーもその一環。東京メトロ日比谷線の「虎ノ門ヒルズ駅」や銀座線「虎ノ門駅」とも地下通路で直結した上、1階には空港リムジンバスや都心部と臨海部を結ぶBRT (バス高速輸送システム)が発着するバスターミナルが設置される予定だ。
さらに21年には住宅棟としての「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」が、23年には環状2号線や上記バスターミナルと一体になる超高層タワー「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」も竣工の予定。今後は、国内外から人が集まる場所になる。
塚本氏は新型コロナウイルス感染症の影響で大々的にプロモーションを打てないことは認めつつも、「まずは安心して利用していただける施設、様々な人に繰り返し利用してもらえる施設として運営をしていきたい」と語った。