位置情報データをAIで解析して企業のマーケティングを支援するクロスロケーションズ(東京・渋谷)は、位置情報分析技術により、テークアウトやデリバリーを行う店舗のチラシ配布効率化に取り組んでいる。潜在的な顧客への告知や新たな商圏の開拓につながるサービスだ。

位置情報データを解析し、顧客がいそうな、ポテンシャルの高いエリアを見つけ出す
位置情報データを解析し、顧客がいそうな、ポテンシャルの高いエリアを見つけ出す

 新型コロナウイルスの感染拡大対策として緊急事態宣言が発令された前後から、外出や外食を自粛する消費者の動きが広まった。飲食店も営業自粛や営業時間短縮を求められる中、売り上げ減少を補おうと、 店舗内での営業からテークアウトやデリバリーにシフトするケースが増えた。緊急事態宣言が解除された今もそれを続けている飲食店は多い。

 そうした店舗の悩みが告知・宣伝だ。せっかくテークアウトやデリバリーを始めても、それを知らせなければ顧客は呼べない。チラシを配布するのが一般的だが、店舗の周辺エリアにただ配布しても、そこがターゲット層がいるエリアとは限らない。

 「テークアウトやデリバリーを始めても、どこのエリアにチラシを配ればいいのか分からないという店は多い」。位置情報解析技術を使ったソリューションを提供するクロスロケーションズでダイレクトセールス セールスマネジャーを務める吉永倫久氏は問題点をそう語る。

 そこでクロスロケーションズが始めたのが、同社の位置情報データ活用プラットフォーム「Location AI Platform」(以下、LAP)を使って店舗のターゲット層がいると思われるエリアを抽出し、チラシ配布エリアを最適化するという取り組みだ。

 LAPは、スマートフォンのアプリから入手した位置情報データをAI(人工知能)で統計処理することで、消費者行動の傾向を視覚化するサービスだ。顧客がどのエリアから来ているか、来店する確率の高い潜在的な顧客がいるエリアはどこか、顧客が他にどんな店に足を運んでいるのかを推測したり、近隣の競合店と自店舗とのシェアを比較したりできる。特定のエリアについて、一定時間に人がどれだけ増減したのかといった人流の変化も分かる。

■変更履歴
20年7月15日の料金プラン変更に伴い、価格の表記を削除しました。本文は修正済みです。[2020/7/20 12:40]

京都の居酒屋が見つけた潜在顧客エリア

 取り組みに先駆け、同志社大学大学院総合政策科学研究科 柿本昭人教授の研究室と連携し、五十家コーポレーション(京都市)が京都市中京区で運営する「酒場トやさい イソスタンド」(以下、イソスタンド)で、LAPの解析に基づいてチラシを配布する実証実験を行った。

「酒場トやさい イソスタンド」が配布したチラシ
「酒場トやさい イソスタンド」が配布したチラシ

 イソスタンドは予約がなかなか取れない人気店だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で店舗営業が難しくなり、テークアウトやデリバリーに取り組んでいた。しかしチラシを使った宣伝の経験が乏しく、ノウハウがなかった。

 そこでイソスタンドの顧客がいると思われるエリアをLAPで予測し、そこにチラシ配布を行ったところ、配布の2日後からチラシを見たという人が来店するようになり、売り上げが増加したという。

 「例えば店舗を中心に同心円状にチラシを配ろうとすると、イソスタンドの場合は近隣の繁華街などが含まれてしまい、ターゲット層が住む場所を外れてしまう。LAPでは、これまで来訪した顧客のデータを基にエリアの最適化を行い、限られた部数のチラシを、どこのエリアに配布するのが効率的かを提案できる」(吉永氏)

 LAPにより顧客がいる可能性が高いと予測されたエリアの中には店舗から離れたエリアも含まれていたが、配布後に顧客が実際にどこから来たのかを解析したところ、高いマッチング率を示した。店舗側からは、自分たちの商品価格帯やブランドに合ったエリアを把握できたと好評だったという。

 「LAPで潜在的な顧客が多いと予測し、チラシを配布したエリアには、店舗近隣の中京区や下京区の他、店舗から離れた北区や左京区もあった。店舗から離れたエリアにピンポイントでチラシを配ることはこれまでほとんどなかったが、その判断ができるデータをLAPで提供できた」と吉永氏は自信を示す。

店舗から離れたエリアに潜在的な顧客が多いと推測し、チラシを配布した
店舗から離れたエリアに潜在的な顧客が多いと推測し、チラシを配布した

 LAPは飲食店や小売りの他、製造業、アミューズメント施設、自治体、旅行会社、フィットネスクラブなど様々な業種でこれまでも利用されてきた。例えば自治体なら観光地の人の流れを解析することで滞在時間増加のための施策などを取れる。そうした既存のユーザーも、新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う外出自粛による来場者減少などの打撃を受けている。チラシの配布だけでなく、新型コロナウイルスの影響が収束した後の復興策や出店計画などを、LAPを利用して考えたいといった問い合わせが増えているそうだ。

 「新型コロナウイルス感染拡大の影響で一度離れてしまい、近場の競合店などに流れてしまったお客さんを呼び戻すのは難しい。その対策としてLAPを活用したいという問い合わせが多く来ている」(吉永氏)

 アフターコロナ/withコロナ時代に人々のライフスタイルが変わり、消費者の行動が大きく変わりつつある。その分析をするうえで、位置情報データの活用がますます重要になりそうだ。

(写真提供/クロスロケーションズ)

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