コーセーは、大手アパレルなどが導入するバニッシュ・スタンダード(東京・港)のアプリサービス「STAFF START」を採用。現役美容部員が自らを“モデル”に、商品の良さ、使い方を伝えるメーク画像を自社ECサイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」に投稿し、販売を競う仕組みを取り入れた。目指すのは消費者と共有する“リアルな感動”だ。

コーセーのECサイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」。同社は「コスメデコルテ」「エスプリーク」「ヴィセ」「雪肌精」などのコスメブランドを展開している
コーセーのECサイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」。同社は「コスメデコルテ」「エスプリーク」「ヴィセ」「雪肌精」などのコスメブランドを展開している

ネット時代も化粧品選びは難しい

 「ニーズが多様化し、消費者が能動的にネットやSNSから情報を得るのが当たり前の時代。とはいえ化粧品には効果効能に加え、使用感や香りなど感性に訴えるファクターが欠かせない。オンラインとオフラインをいかに融合できるかが販売戦略上の鍵になる」。コーセー デジタルマーケティング戦略部ダイレクトビジネス課の山久保純氏は同社のデジタル戦略を語る。

 コーセー(東京・中央)では2020年3月、同社の総合美容情報サイト・Maison KOSEにSTAFF STARTを導入した。STAFF STARTはアパレル業界を中心に導入が進むアプリサービスで、リアル店舗の販売員がお薦め商品の写真などを投稿し、ネットを介して接客。それによるEC売り上げへの貢献度を販売員ごとに可視化する仕組みだ。

 コーセーでは美容部員がこれを使い、自らを“モデル”にメークのコツや肌質に合うスキンケアアイテムの紹介、レビューなどをMaison KOSE内の「スタッフコンテンツ」に投稿。顧客づくりや販売促進につなげる。同社では「コスメデコルテ」「エスプリーク」「ヴィセ」「雪肌精」などのコスメブランドを展開している。

「Maison KOSE」内の「スタッフコンテンツ」のページ。現役の美容部員が自分をモデルにメークスキルや商品を紹介する
「Maison KOSE」内の「スタッフコンテンツ」のページ。現役の美容部員が自分をモデルにメークスキルや商品を紹介する

 自らを“モデル”にするということで、投稿には美容部員の美容上の属性も記載する。「年代(20代、30代、40代、50代、60代)」や「肌質(普通肌、乾燥肌、脂性肌、混合肌、敏感肌)」「肌色(ブルーベース、イエローベース)」「まぶたのタイプ(一重、二重、奥二重)」など、いずれもメークを左右する要素だ。サイトの利用者は、こうした情報から自分に近い美容部員の投稿を探し、それを参考にメークの技や商品知識を得る。特にネットでは効果などが分かりにくいスキンケアも、経験値の高いプロの視点を通した使用感やポイントが分かるのが利点だ。

 コンテンツには、美容のプロならではの能力が発揮されるのも強み。コーセーでは15年度より厚生労働省認定の技能検定「メイクレッスン検定」を社内資格として導入した。約3000人の美容部員のうち1級合格者が約1割、2級合格者が約4割に達している。高い技能を備えた美容部員たちだが、「(スタッフコンテンツでは)短い文章と画像のみで商品の魅力を伝えようと、より深く勉強する人も多い」(山久保氏)そうだ。

 商品の魅力を伝えるため、中にはあえて“すっぴん”をさらす美容部員もいる。例えば、「私の神コスメ」と絶賛するファンデーションを紹介したある美容部員は、カバー力とつや感を伝えるのに、メーク前とメーク後の画像を披露した。

 フルメークでの対面販売が常識の店舗ではあり得ないことだ。だが、販売員が紹介する“推し商品”に対して、消費者が知りたいのは「なぜならば」の合理的な理由。「ビフォー/アフター」を見せるのは問答無用の説得力があるだろう。こうした“等身大の発信”に勇気づけられる女性も多いはずだ。

「【全人類にオススメしたい】【年齢問わず一度試してほしい】【周りの先輩、同期からも人気】【開発者に本当に感謝】」という紹介文で始まるスタッフレビュー。効果を説明するため「ビフォー/アフター」を披露
「【全人類にオススメしたい】【年齢問わず一度試してほしい】【周りの先輩、同期からも人気】【開発者に本当に感謝】」という紹介文で始まるスタッフレビュー。効果を説明するため「ビフォー/アフター」を披露

 また、「スタッフコンテンツ」のページでは、スタッフの投稿に加えて、メークの基本的な技術を伝える動画コンテンツも用意した。メークは本来、技術が必要だが、大方の女性は我流で済ませている。このため、「自分のメークは正しいのか? もっときれいに見せるテクニックが知りたいというニーズは多い」と山久保氏。そこで、眉毛の整え方などの基本技術は、動きが分かるように動画で紹介する。気になれば、繰り返し見られるのもこうしたコンテンツだからこそだ。美容部員のリアルな声を反映したSTAFF STARTの投稿と、分かりやすい動画の組み合わせで、消費者のメークへの関心や意欲を喚起する。

「眉毛」は、メークが不得手な女性が多いパーツ。基本的なテクニックは動画も使い、丁寧に指南する
「眉毛」は、メークが不得手な女性が多いパーツ。基本的なテクニックは動画も使い、丁寧に指南する

オンラインで“リアルな感動”を競い合う

 こうした新たな取り組みには、美容部員も積極的だという。山久保氏は、「販売の現場ならではの感動やストーリーをデジタルで拡散させたい。リアルの世界をネットで伝えたい」とその思いを語る。

 STAFF STARTを導入したことで、Maison KOSEは、その“リアルな感動”を美容部員が競い合って消費者と共有する場にもなった。毎週4~5つのコンテンツを投稿する美容部員もおり、「熱量は想像以上だ」(山久保氏)。

 しかも、美容部員は自分のコンテンツのPV数、投稿をきっかけに購入された商品、投稿者間での売り上げ順位まで分かる。これについて、バニッシュ・スタンダードの小野里寧晃CEOは、「フィードバック(見える評価)がモチベーション向上につながる。だから、みんな一生懸命投稿するし、売れる」と解説。先行してSTAFF STARTを採用する企業には、商品の販売額に応じて販売員へのインセンティブ(成果報酬制度)を用意している企業も多く、コーセーでも今後、コンテンツの充実とともに検討する方針だ。

 小野里CEOによると、「(アパレルなどでは)人気がある販売員には1万~20万人のフォロワーがつく。ネット上では“投稿イコール接客”。何万人もの顧客を相手に接客すれば、売り上げが上がるのは当然だ。さらに販売員という“会えるインフルエンサー”に夢中になれば、顧客はその人にリアルな接客をされて買いたくなる。要は、販売員のモチベーションが上がるとたくさん投稿する、すると商品が売れる、顧客がつく、結果、販売員に会うために顧客が来店してくれるという好循環につながる」。

 ただ、それには「個々のスタッフがSNSを使いこなさないと次の拡大が描けない。ここがコスメ業界はまだ弱い。通販サイトだけだとお客さまとつながる術がないので、関係は薄くなりやすい」と小野里CEO。InstagramなどのSNSと連携して、美容部員と顧客とのコミュニケーションを強化することを強く推奨した。

マスク着用時のメークテクニックはコロナ禍ならでは。ベースメイクの仕上げやチークの入れ方で、目の下のクマを目立ちにくくし、顔色を明るく見せる方法を紹介している
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 化粧品ブランドにとって、ECへの顧客誘致はいまや急務だ。経済産業省が19年5月に発表した18年の化粧品・医薬品のEC市場規模は6136億円(EC化率5.8%)。衣類・服飾雑貨等の1兆7728億円(同12.96%)とは2倍以上の開きがある。そのうえ、コロナ禍に伴う対面販売の制約、インバウンド需要の急減で、店舗での化粧品売り上げは落ち込んだ。

 山久保氏は、STAFF START導入を機に、「(ECでも)パーソナルで多様なニーズに応え、消費者満足の向上につなげたい。購買行動や流入・流出などを分析し、効果的な施策やアプローチにもつなげられたら」と期待を込める。それには、個々の美容部員がネット上に自分の“ファン”をいかに多くつくれるかが鍵。小野里CEOの指摘通り、SNSとの連携も課題になる。各美容部員には「美容部員である以上に発信者」としての存在が求められていくことになりそうだ。

(写真提供/コーセー)

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