実際に住んでいる人に「居住満足度」を聞いたランキングの最新版が2020年6月18日に発表された。上位2駅はいずれも都心の高級住宅地だが、調査を行った大東建託は「静かな環境が評価されているようだ」と話す。
19年の上位は広尾・市ヶ谷などの「高級住宅地」
大東建託が2019年から実施している「いい部屋ネット 街の住みここちランキング首都圏版」。20年版では調査会社マクロミルの登録モニターを対象に、東京・神奈川・埼玉・千葉の251自治体に住む20歳以上の男女に対してインターネットを使って調査を実施。19年・20年の累計約12万人の回答を「住みここち」として集計した(調査期間は20年3月17日~4月3日)。その結果をポイント化し、隣接・近接駅を統合して1409の駅とエリアを「住みここちのいい駅」としてランク付けしている。さらに住み心地に関する54の調査項目を「親しみやすさ」「静かさ・治安」「交通利便性」「生活利便性」「イメージ」「自然・観光」「行政サービス」「物価・家賃手頃」の8要素で分析している。
19年のランキング1位は広尾(東京メトロ日比谷線)、2位は市ケ谷(JR中央本線)、3位は北山田(横浜市営地下鉄グリーンライン)。上位2駅は都心の高級住宅地だ(関連記事「首都圏『住みやすい街』は市ケ谷・北山田 意外な結果のワケ」、「首都圏は広尾、関西は夙川 『住みやすい街』に共通するのは?」)。ランキングに入れ替わりはあったのか。
「番町エリア」が根強い人気
20年版のランキング1位は半蔵門・麹町(東京メトロ半蔵門線、有楽町線)。このエリアは皇居に程近く、緑豊かな環境が特徴。オフィスビルや学校などは周囲にあるが、商業施設は少ない。この2駅周辺の住所は千代田区一番町、二番町など、いわゆる「番町エリア」として古くから知られる高級住宅地だ。
大東建託 賃貸未来研究所の宗健所長は「半蔵門・麹町はイメージや行政サービスへの満足度が高かった。近くに大使館や警察署があることから、治安がいいという意味で行政サービスの充実を挙げた人が多かったのではないか」と分析する。
2位は築地・新富町(東京メトロ日比谷線、有楽町線。近隣の都営地下鉄浅草線東銀座駅と大江戸線築地市場駅を含む)で、19年8位からのジャンプアップ。銀座まで徒歩で行ける利便性と、隅田川に程近く、眺望や環境が良い点が評価された。「マンションも比較的多いエリア。聖路加国際病院などの大規模な病院があり、医療が充実している印象がある」(宗所長)。居住者からは「都心のため、通勤ラッシュに巻き込まれにくい」というコメントもあった。
再開発で急浮上した「世田谷代田」
3位は世田谷代田(小田急小田原線)。1、2位と比較すると知名度は低いが、下北沢の隣駅だ。小田急電鉄は代々木上原から梅ヶ丘駅間の連続立体交差と複々線化を進めている。世田谷代田付近の線路跡地も再開発によって保育園や温泉施設、カフェなどが整備された。駅の西側には大型の公園もあり、子育て世代にも人気を集めそうな街だ。居住者からは「電車やバスが使いやすく、都心にも出やすい」という声が上がった。
19年度版1位の広尾駅は4位に。また、同2位の市ヶ谷駅は69位に順位を落としたが、「20年度版では市ヶ谷駅北側に位置する防衛省エリアの回答者数が増えたためではないかと見ている。市ヶ谷駅南東側は『番町エリア』で、1位に半蔵門・麹町が入っていることから、この周辺の評価は依然として高いと考えている」と宗所長は話す。
家賃や物価の安さは住みやすさにつながらない
上位3駅に共通しているのは、いずれも「物価・家賃手頃」に関する評価が高くない点。宗所長は「統計的に見ても、物価や家賃の安さと住みここちは反比例している。反対に家賃や土地の値段が高い所は交通利便性も良く、イメージも良いと評価されている」と話す。
家賃が手ごろだったり、激安スーパーが林立していたりと「安さ」を重視して家を選ぶ人もいるだろう。だが、生活の質は「お金を使う」ことだけでは向上しない。夜道でも安心して歩きたい、クルマを持たずに都心で便利に暮らしたいが緑のある環境も重視したいなど、さまざまな要素が絡み合って「住みやすさ」が判断されているのだろう。
今回の調査は新型コロナ禍の最中に実施されたが、フリーの記述欄には新型コロナウイルス感染症の影響に関するものはあまりなかったという。テレワークが普及する中、交通利便性の高い都心が評価されている現状が今後どのように変わってくるのか。定点観測する必要がありそうだ。
(写真/PIXTA、資料提供/大東建託)