紳士服チェーン「洋服の青山」を展開する青山商事は2020年5月27日、「テレワーク等ストレス軽減シャツ&インナー」を発売した。これは既存の製品を特定のテーマで組み合わせた新企画商品。“新開発”ではなく“新企画”をあえて掲げる背景には、コロナ禍を機にビジネスモデルの転換を図る同社の戦略があった。
今回発売したテレワーク等ストレス軽減シャツ&インナーは「コロナ禍での働き方の変化と、それに伴うストレス対策を目的としたビジネスパーソン向けの新企画商品」(青山商事)。文字通りシャツとインナーのセットで、いずれも生地にはスポーツ用品メーカーのミズノが手がける接触涼感素材「アイスタッチ」を使用している。
アイスタッチは吸汗速乾性に優れた素材で、汗や体熱を素早く逃がして、清涼感のあるさらっとした状態を保つ効果がある。同素材のシャツとインナーを組み合わせることで、より涼感効果を実感できるという。
「新商品」ではなく「新企画」
同社がこのシャツ&インナーを、新商品ではなく「新企画商品」と呼んでいるのには理由がある。
洋服の青山では、13年からアイスタッチを使用した涼感肌着を販売してきた。猛暑日の増加や清涼肌着ブームなどを背景に需要が高まり、今では夏の定番商品になっている。
19年4月には、ビジネスシャツにも同素材を採用。運動時の動きやすさを追求したミズノの動的機能裁断「ダイナモーションフィット」を取り入れることで、動作性を高めた夏用ビジネスシャツ「アイスタッチドレスシャツ」を発売した。
今回のシャツ&インナーはこの2つのセット商品。つまり、青山商事は新しく商品を開発したのではなく、既存の商品を組み合わせて企画商品として打ち出したのだ。
新型コロナで高まる危機感に発想を転換
決断の背景にあるのは、新型コロナウイルス感染拡大を機に生まれた危機感と既存のビジネスモデルへの自省だ。
「これまでのアパレル業界は、価格競争と新商品の開発競争だった」と青山商事常務執行役員の千葉直郎氏は話す。同社も例外ではなく、トレンドに合わせて新しい技術・商品を次々と開発し、シーズンごとに新商品を出すことに重きを置いてきた。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大した20年2月以降、同社の主力商材であるビジネスウエアの売り上げが減少。企業のテレワーク化が進んだのに加え、就職活動の自粛、卒業式・入学式の中止など、春先のオケージョン需要の落ち込みが追い打ちをかけた。結果、20年3月期の連結決算は、売上高が2176億9600万円(前年比13%減)、営業利益は8億1800万円(同94.4%減)で、創業以来初の通期最終赤字となった。
4月以降は緊急事態宣言を受けて、7都府県内の店舗が一時休業。「洋服の青山」327店舗、「ザ・スーツカンパニー」33店舗など、休業したのは全店舗のおよそ半数にあたるという。
かつてないほどの苦境に立たされているが、「休業期間中、当社が積み重ねてきた価値について振り返ることができた」と千葉氏。そこで見えてきたのは、自社にはまだ活用しきれていない資産が数多くあること、時間をかけた新商品の開発だけが顧客への価値提供ではないということだった。「withコロナの社会においては、新しい商品を作り続け、その情報を広く発信してお客様との接点を増やすというビジネスモデルだけでは成立しない。発想の転換が必要」(千葉氏)と結論付けた。
新たなビジネスモデルとして注力するのが、既存の資産を生かし、働き方の変化に迅速に対応する企画商品の開発だ。今回発売したテレワーク等ストレス軽減シャツ&インナーは、その取り組みの第1弾となる。テーマは「ストレス軽減」。暑さや外出自粛など様々なストレスを抱えるビジネスパーソンに対し、涼しく、動きやすい衣類を提供することで、そのストレスを少しでも軽減できるようにと開発した。
さらに、リアル店舗、公式サイト、SNSを連動させたプロモーションでも、既存資産を活用する。その1つが、店頭に設置されているマネキンだ。洋服の青山では、これまでにもビジネスウエアの展示とは思えぬアクロバティックなポーズのマネキンを展開しSNSで注目されてきた。
なかでも京都河原町店のマネキンはTwitterで話題になった。上はジャケット、下は赤い下着を身につけた男性のマネキンが、デスクでノートパソコンに向かっている。5月の展示テーマは「オフィスカジュアル」だったが、テレワークが増えている時世に合わせて店舗スタッフが考案したそうだ。
写真をアップした投稿者のツイートは、20年5月31日までに2.6万リツイート、7.3万「いいね」されるなど大きな反響があった。青山商事ではこのTwitterでの拡散により、およそ600万人に自社の情報が届いたと推測している。
20年6月は「ストレス軽減」をテーマに展開する。近年問題になっているシャツが透けて胸部が見えてしまう「透けハラ」をテーマにした特殊マネキンも企画し、インナーの活用を訴える。池袋や新宿をはじめ全国14店舗に設置予定だ。
こうした取り組みと並行して、青山商事はECサイトの大幅な見直しも進めている。同社全体の売り上げは落ち込んだものの、ECサイトの売り上げは大きく伸びたからだ。その一環として、20年3月にはデジタルコミュニケーションヘッドオフィスにデジタルマーケティング部を新設し、営業本部内にあったEC事業部を移設した。新体制のなか、ECサイトの改善にも力を注ぐ。
(写真提供/青山商事)