ソニーが開発した炭素素材「トリポーラス」を使った繊維が、アパレル大手の三陽商会が2020年5月に発売した男性用衣類に採用された。高い消臭・抗菌効果を発揮するこの素材の原料は「もみ殻」。当初はリチウムイオン電池の電極用素材として開発された。ソニーがトリポーラスを開発した背景を探った。

三陽商会の「マッキントッシュ フィロソフィー」ブランドから発売された「メランジパイルクルーネックポケT」(写真左、1万2100円・税込み)と「メランジパイルVネックカーディガン」(同右、2万4200円、同)。高い消臭効果と抗菌効果を持つ機能性がポイント
三陽商会の「マッキントッシュ フィロソフィー」ブランドから発売された「メランジパイルクルーネックポケT」(写真左、1万2100円・税込み)と「メランジパイルVネックカーディガン」(同右、2万4200円、同)。高い消臭効果と抗菌効果を持つ機能性がポイント

消臭と抗菌に高い効果を発揮するソニーの新素材「トリポーラス」

 三陽商会は20年5月上旬、英国の老舗ブランドであるマッキントッシュのセカンドライン「マッキントッシュ フィロソフィー」から、Tシャツとカーディガンを発売した。実はこの2製品に使用された繊維は、「Triporous FIBER(トリポーラス ファイバー)」というソニーの新素材「トリポーラス」を配合した素材だった。

 トリポーラス ファイバーとは、レーヨンにソニーが開発した多孔質炭素材料「トリポーラス(Triporous)」を練り込み繊維化したもの。微細で複雑な“穴”を持つトリポーラスは、汗の臭いの3大成分であるアンモニア、酢酸、イソ吉草酸を吸着し、消臭効果を発揮する。さらに生乾き臭の原因となるモラクセラ菌、黄色ブドウ球菌に対し、繊維表面での増殖を抑える効果もあるという。三陽商会が採用したのも、この優れた消臭・抗菌効果が目当てだ。

 こうした特性をソニーはスポーツウエアやアウトドア製品に活用できると判断。そこでトリポーラス製品を展開してくれるパートナーを探すべく、20年1月26~29日、独ミュンヘンで開催された世界最大級のスポーツ・アウトドア用品展示会「ISPO Munich 2020」に初参加した。ザ・ノース・フェイスやコロンビアなど、名だたるアウトドアメーカーと同じホールに並んだブースで、ソニーはトリポーラスを用いた様々な製品を展示。アウトドアとソニーという“意外な組み合わせ”は、多くの来場者や企業から注目を浴びた。既にこの出展をきっかけに、いくつかの企画が製品化に向けて動き出しているという。

 実はこのトリポーラス、元はリチウムイオン電池の電極用として開発された素材だ。その研究過程で見つかった特性の活用法を探った結果、冒頭の三陽商会の衣服やISPO出展へとつながった。

「ISPO Munich 2020」の会場マップ。ザ・ノース・フェイスやコロンビアなど、有名アウトドアブランドと同じ会場内にソニーはブースを出展した。ちなみに隣は釣り具のダイワ
「ISPO Munich 2020」の会場マップ。ザ・ノース・フェイスやコロンビアなど、有名アウトドアブランドと同じ会場内にソニーはブースを出展した。ちなみに隣は釣り具のダイワ

米のもみ殻を活用し、電極用の素材として開発

 ソニーは1991年にリチウムイオン電池の製造を世界で初めて事業化した。他にもバイオマス(再生可能な生物由来の有機性資源)技術を活用した商品や技術の開発、発電事業などを行っている。この2つの領域に共通する課題が、「バイオマスを原料としたリチウムイオン電池の、高機能な電極素材を作ること」だった。その電極素材として、同社は多孔質な炭素素材に着目した。

 シリカというガラス質の微粒子を樹脂で固めて焼き、炭化させ、複雑な工程を経てシリカを除去すると、最終的に200~300ナノメートル(ナノは10億分の1)の周期性のある穴を持った独特のカーボン素材ができる。ソニー知的財産センター知的財産インキュベーション部ストラテジーGpでトリポーラスの開発に当たる田畑誠一郎氏は、大学の博士課程時代にそのカーボン素材を電極に使ったデバイスを研究していた。同氏は「バイオマスからこれに似た素材を作り出せれば、リチウムイオン電池など様々な用途に使えるのでは」と考えた。

トリポーラスの開発に携わる知的財産センター知的財産インキュベーション部ストラテジーGpのエンジニア・田畑誠一郎氏(写真左)と、同事業開発マネジャーの山ノ井俊氏(同右)
トリポーラスの開発に携わる知的財産センター知的財産インキュベーション部ストラテジーGpのエンジニア・田畑誠一郎氏(写真左)と、同事業開発マネジャーの山ノ井俊氏(同右)

 田畑氏がソニーに入社した06年、同社は米のもみ殻の細胞間にはシリカがびっしりと詰まり、それがシリカと樹脂の複合体に近い構造を持っていることを発見した。これを炭化させた後に加熱処理などを行うと、独特の微細構造を持った素材が出来上がった。これがトリポーラスだ。当初は電極素材として評価を進めていたトリポーラスだが、07年後半からは独特の微細構造自体に着目するようになっていったという。

もみ殻を炭素化させて、エッチングという工程を経てシリカを除去すれば、マクロ孔が形成される。さらに水蒸気による高温で賦活(機能・作用を活性化させる)処理を行うと、メソ孔、マイクロ孔に発達する
もみ殻を炭素化させて、エッチングという工程を経てシリカを除去すれば、マクロ孔が形成される。さらに水蒸気による高温で賦活(機能・作用を活性化させる)処理を行うと、メソ孔、マイクロ孔に発達する