大東建託が実際にその街に住む人に「居住満足度」を聞いた「街の住みここち」ランキング。2020年5月20日、約1年をかけて全国を調査した結果を分析し、総論として発表した。見えてきたのは「住みここちのいい街」と人口増加の相関関係だ。
大都市では「ターミナルに近いが閑静な駅」が人気
大東建託が2019年2月から公表している「街の住みここちランキング」。住民の声を「居住満足度」として数値化することで、引っ越しを検討する人の参考にしてもらう目的でスタートした。
首都圏版を皮切りに、約1年をかけて、全国1896の自治体に居住する20歳以上の男女18万4193人を対象に調査。「親しみやすさ」「静かさ・治安」「交通利便性」「生活利便性」「イメージ」など、「総合評価」を含む住みここちに関する全56項目の回答をポイント化して駅別に集計し、「関西版」「福岡版」などの地域別ランキングや沿線別のランキングを次々に発表している。20年5月20日にはその調査結果を分析し、「いい部屋ネット 街の住みここちランキング 2019〈総評レポート〉」として公開した。
「首都圏や関西、東海などの大都市圏では、ターミナル駅から少し離れた駅で、閑静かつ生活利便性が高い駅の居住満足度が高い」と大東建託 賃貸未来研究所の宗健所長は話す。
首都圏版のランキング1位は広尾駅(東京メトロ日比谷線)。JR山手線が走る恵比寿駅までは電車で1駅と都心へのアクセスが良く、駅周辺には商店街もあるが、駅から少し離れると閑静な住宅地が広がる。2位の市ケ谷駅(JR中央本線)も新宿駅に程近いが、駅の西側に位置する市谷砂土原町は明治時代から続く山手の高級住宅地として知られている。また、3位の北山田駅(横浜市営地下鉄グリーンライン)は港北ニュータウンの一角という位置付けだが、駅周辺は閑静なうえ、大型商業施設が立ち並ぶセンター北駅から1駅と利便性が高い。
関西版1位の兵庫・夙川駅(阪急神戸本線、甲陽線)は大阪の中心地である梅田駅まで20分弱、神戸三宮駅までも10分程度とアクセスが良く、駅周辺を流れる夙川や、川に沿って続く桜並木のある落ち着いた環境が幅広い世代に評価されている。東海版1位の愛知・星ケ丘駅(名古屋市営地下鉄東山線)は名古屋駅や栄駅までも乗り換えなしでアクセスできて利便性が高いが、駅周辺には東山動植物園や大学などを有する緑豊かなエリアだ。
「一方、地方都市では、生活利便性が良い中心部に加えて、近郊の新興住宅地への評価が高い傾向があった」(宗所長)
住みここちと人口増加率には相関関係がある
また、全国を調査して分かったのは、居住満足度の高さと人口増加率の相関関係だ。「住みここちが良いと評価された街(自治体)には住宅供給が盛んなところが多く、それが人口増加を支えている側面がある」と宗所長は分析する。
人口増加自体は自治体単位で集計することしかできないので、地域・駅名は具体的には挙げられないが、首都圏だけを見ても東京都は中央区、港区、文京区、千代田区、千葉県は流山市、印西市、埼玉県はさいたま市緑区、さいたま市南区などが人口が増加している自治体で、「住みここちランキング」でも上位に含まれる駅が多い。
もっとも住みここちのいい街全てで人口が増加しているわけではない。首都圏版1位の広尾駅エリアには港区南麻布、2位の市ケ谷エリアには千代田区九段南という住所も含まれているが、両駅とも土地の価格や賃料が高いエリアのため、住みたいと考えてもすぐに引っ越しに至るという展開は考えにくい。だが、「不動産事業者は、どのエリアに住宅を供給すれば売れるのかを理解している。つまり、結果的に売れる場所は住みここちのいい場所ともいえる」と宗所長は話す。
withコロナ、アフターコロナでも「住む街に求める要素は変わらない」
今回公表した総論は18年12月から19年4月に行った調査結果をまとめたもの。多くの人が仕事のために出勤し、休日や夕夜間に家で過ごすという生活を送っていた、いわば「ビフォーコロナの時代」だ。だが、20年4月に新型コロナウイルスの感染拡大防止のために緊急事態宣言が発令され、テレワークを取り入れた企業も増えた。新型コロナウイルスは住まいに対する価値観にも影響を及ぼすのだろうか。
「新型コロナウイルスの影響を大きく受けたのは、働き方と大学などの学び方。だが、通勤や通学の利便性だけで住まいを決めているわけではなく、生活利便性やイメージも重視している人が多いのではないか」(宗所長)
現在集計中の2020年版ランキングの調査は20年3月に行ったが、前年の調査結果からほとんど傾向は変わっていなかったという。
感染拡大のニュースが連日報じられているなか、家から一歩も外に出られない状況で住まいに対する考えを見直した人もいたかもしれない。SNS上では、「職住近接を考えてタワーマンションを購入したが、今回の件もあって郊外の庭付き一戸建てに住み替えたい」というつぶやきも散見された。しかし、それも東京を中心とした一部の話。以前から車や徒歩で通勤していた人にとって、住みここちのいい街=通勤や生活利便性の高いエリアとは限らないだろう。「単身者以外にとって、住まいを変えるのは非常に大きな手間とお金がかかること。リモートワークになったからといって、引っ越す人が増えるとは思えない」と宗所長は考える。
withコロナ、アフターコロナの時代も、自分が住む街に求める要素はあまり変わらないかもしれない。
(写真提供/大東建託)