若年層がメインユーザーの炭酸飲料「ファンタ」が30~40代の大人向けに新発売した「ファンタ プレミアグレープ」が、異例のヒットを飛ばしている。過去10年のどのファンタ製品より売れた背景には、味の新規性、ターゲットに合わせた戦略変更、そして外出自粛時だからこその需要があった。
1000万本で成功の炭酸飲料で1800万本
炭酸飲料の成功の基準は「出荷本数が発売から1000万本」(コカ・コーラシステム)という。ところが「ファンタ プレミアグレープ」(以下、プレミアグレープ)は2020年3月2日の全国発売からわずか2カ月で1800万本を超えた。ファンタ製品では過去10年で最大のヒットで、購買層もターゲットとした30代以上を捉えた。ボトルサイズは380ミリリットルで、定番の「ファンタ グレープ」の500ミリリットル(税別140円)よりも小さい上、価格は税別150円。大人が求める高級志向にうまく刺さった。
「通常のファンタユーザーである10~20代のほうが新製品への感度は高いが、プレミアは狙い通り30~50代の大人の消費者が最も多かった」(日本コカ・コーラマーケティング部フレーバー炭酸グループシニアマネージャー・河野公紀氏)
ファンタ プレミアグレープの開発に乗り出したのは2016年。15年以降、フルーツ炭酸市場は高炭酸や無糖炭酸に押され、縮小傾向にあった。少子化が続く日本で、若年層向けの製品開発だけを続けていれば頭打ちになるのは明らかだった。一方、ファンタは16~59歳の8割以上が「一度は飲んだことがある」と答えるほどの認知度がある。だがその半面、甘さやカロリーの高さが敬遠され、30代以降になると離脱してしまうことが分かった。
そこでこれまで手薄だった30代以降の“大人”をターゲットに絞り、ブランドの活性化を図ることにした。「価値を認めたものにはしっかりお金を払う」「大人でも15時以降は甘いものが欲しくなる」「疲労がたまってリフレッシュしたいときなどのデザート需要がある」という、ターゲット層が抱く3つの共通嗜好性を強調し、大人向けファンタの開発がスタートした。
最初に着手したのは、大人が満足するリッチな味わいだ。通常のファンタは果汁1%のところ、プレミアグレープは収穫後24時間以内に搾った果汁と濃厚なピューレを使って13%と高濃度にした。従来の製造法ではここまで高濃度なフルーツ炭酸飲料を作るのは難しかったため、新製法を開発して対応した。
「ファンタは歴史が長く、消費者のブランドイメージも強い。そのイメージを崩さず今までとは違った大人向け製品を目指し、60回以上試作を重ねた。自信を持って市場へ出したが、予想をはるかに上回る売り上げになった。2カ月半の間、反復購買(リピート)率も過去製品より高く、長い間にわたって手に取ってもらえそうな製品を生み出せた」と、河野氏は新たな看板商品への期待を抱く。
パッケージデザインも従来製品のカラフルでポップな若者向けから、リッチな果汁感と高級感を演出するシンプルなものへ変更した。イメージキャラクターにはターゲットと同年齢層の永山瑛太と松田龍平を起用。テレビCMは2人の会話がメインの落ち着いた内容にすることで、乃木坂46を起用した従来CMとの差別化を図った。
外出自粛がもたらした意外な需要で売り上げ後押し
実は新型コロナウイルスの感染拡大で、プレミアグレープのプロモーションは出足からつまずいてしまった。新製品発売キャンペーンで、ユーザーから募集した短編映画の優秀作品を、永山・松田の2人が発表するというイベントを予定していたが中止に。炭酸飲料の書き入れ時となる夏に向けて認知拡大を図るために3月発売を決めたが、予期せぬ事態に販売への悪影響を懸念したという。しかし蓋を開けてみれば予想を超える大ヒット。とりわけスーパーマーケットでの売り上げが伸びているという。
河野氏は仮説としながらも、ヒットの理由をこう分析する。
「外出自粛が長引き、家で閉じこもる時間が続く中、気分の切り替えがなかなかできず漫然とした時間を過ごす方が多い。炭酸飲料は刺激があるため飲むとリフレッシュでき、今まで以上にニーズが高まっているのではないか。もともとオフィスでの気分転換を想定していたが、心を落ち着かせたい需要はこの状況下でも強いことが分かった。自炊が多くなっているため、自分では作れないものを口にする“特別感”のある飲み物を求めている傾向もあるだろう。もちろん『おいしい』と評価されなければ外出自粛の状況であろうとそうでなかろうと飲んではいただけませんが」
清涼飲料水はこれから夏商戦の本番を迎える。全国で緊急事態宣言も解除となり、新たな気分で仕事や日常生活に取り組もうしている消費者の心を、引き続き捉えることができるか。ファンタ プレミアグレープの本番もこれからだ。
(画像提供/コカ・コーラシステム)