「未来の裁判員制度みたい」

――場面展開がない密室劇で、会話を中心に進んでいく「12人の優しい日本人」は、Zoomにぴったりだと感じます。選んだのもそれが理由ですか?

近藤氏 僕自身、Zoomのことを少しは知っていたので、“会議もの”に向くかもしれないという思いはありました。でも、それを計算して選んだかというとむしろ偶然ですね。

 リハーサルに参加した三谷さんも「無作為に選ばれた陪審員たちがこうしてオンライン会議で裁判をする未来もあり得ると思えてきて面白かった」とおっしゃっていました。

――Zoomならではの要素を生かした演出もありました。特に最後、登場人物が順に会議室を出ていくシーンをZoomからの退出で置き換えた演出は印象的でした。

近藤氏 演出の冨坂さんが「12人の優しい日本人」で一番好きなのは、熱く語り合った人たちが1人ずつ静かに去っていくシーンで、それをZoomでも再現したいと言ったんです。「それならカーテンコールまでやろう」と僕が提案して、ああした演出になりました。

「12人の優しい日本人を読む会」
三谷幸喜氏が劇団・東京サンシャインボーイズ時代に書き下ろした傑作戯曲「12 人の優しい日本人」を俳優たちがリモートで読み合わせ、YouTubeでライブ配信した。1992年公演のキャストが多くそろったのも見どころ。2020年5月6日に実施。5月末までアーカイブが無料で視聴できる。
関連リンク(クリックで別ページへ):「12人の優しい日本人を読む会」公式サイト

――準備には時間をかけたんでしょうか。

近藤氏 いや、全然です。全員に声をかけて、このメンバーでやろうと決まったのが本番の2週間くらい前でしょうか。

――お忙しい俳優さんばかりなのに、そのスピード感は外出自粛が続く今ならではかもしれません。

近藤氏 そうですね。当初、配信を3日に分ける案もありましたが、緊急事態宣言が明ける予定だった5月7日以降は全員のスケジュールがそろわない可能性があったんです。それで急だけど、5月6日にやろうと決めました。

 台本は相島さんが初演(90年)のものを持っていましたが、(僕も出た)92年公演と比較するとかなり変わっていました。三谷さんは自分の書いたセリフに固執せず、雰囲気に合わないと思えば変えるので、上演ごとにセリフが変わるんです。だから、僕が92年公演のDVDを見ながら変わった部分を書き出し、妻鹿さんにも手伝ってもらって今回用の台本にまとめました。それを出演者全員に渡したのが本番の1週間くらい前ですね。

――リハーサルはどれくらいされたんですか。

近藤氏 全部で5回です。初回は全員がZoomに入るだけで1時間かかったんですよ。その後、2時間ほど稽古をしたけれど、背景はどうするとかノイズが入るのはなぜだとか、環境の確認と改善がメインでした。

 2回目は全員が20分でZoomに入れました。「おお、すごいな我々は!」なんて歓声が上がったのが面白かったですね。そこから音質チェックをしながら2~3時間かけて前半の本読みをしました。

 後半まで本読みが進んだのが3回目。4回目からは5時間程度の長めの稽古。この段階で冨坂さんとシーンごとの演出の打ち合わせをしました。投票シーンはどうするか、飲み物はどうするか、「バナナジュース見つかるか分かんないけど、買ってみるよ」とかね。Zoom上で、陪審員1号から12号までを順に並べられないかも検討したんですが、12人と人数が多いこと、機種もバラバラなことを考えると難しそうだとあきらめて。

 5回目は細部まで細かい通し稽古を1回やって、それで翌日が本番でした。

――リハーサルでトラブルもあったと聞きましたが、当日はスムーズに配信されましたね。

近藤氏 それは、Zoomでの活動経験もあった冨坂さんと妻鹿さんのフォローのおかげです。

 それでも本番までは不安は多々ありました。自宅から配信するとなると、ZoomやYouTubeの設定以外にも様々なトラブルがあるんです。食事の時間が近くなるとご家族が料理を始めたり、犬が鳴いたり、焼き芋売りの声がしたり、宅配便が来たり……。ただ、本番はぐだぐだになっても最後まで続けるというのが今回の意図でした。

――YouTubeのライブ配信は1万5000人を超えるユーザーが視聴しました。手ごたえはいかがでしたか。

近藤氏 たくさんの方に見ていただけたこと、見ていただいた方から「こんな時に(読み会に)出てくれてうれしい」「久々に演劇を見た感じがして楽しかった」という喜びの声を聞けたことがうれしかったです。「過去に公演を見た時の光景がよみがえった」と直接連絡をくれた知人の演出家もいます。三谷さんとも想像以上の反響だねと話をしました。