新型コロナウイルスの流行を受けたロックダウンの段階的な緩和策も発表された英国。生活はどう変わってきているのか。2019年秋からロンドンに住む、フリーランスアナウンサーの丁野奈都子氏がリポートする。

 主人の赴任にともない家族でロンドンに住み始めたのは2019年の11月。英国で新型コロナウイルス拡散の兆候が見られはじめたのは、それからわずか3カ月後。学校休校、外出禁止令、ロックダウン……慣れない生活の中、パニック買いなども起き、一時はどうなるのかと不安が募りましたが、今はスーパーマーケットの品ぞろえも通常に戻っています。

 先日、英国のボリス・ジョンソン首相は感染のピークは越えたとした上で、英国全土で行われているロックダウンについて、段階的に緩和する計画を発表しました。散歩やジョギングをする人、公園に出掛ける人も以前より増えてきている印象です。ただ、感染のリスクと隣り合わせの、緊張感のある生活は続いていて、日常生活もガラリと変わってしまいました。そんな中、ロックダウン以後にロンドンで生まれている、新たなサービスや試み、ムーブメントなどをお伝えしたいと思います。

1人が出れば1人が入るONE-IN ONE-OUT制。入り口に立つ店員の案内で1人ずつ入る
1人が出れば1人が入るONE-IN ONE-OUT制。入り口に立つ店員の案内で1人ずつ入る
小売店の店内の様子。前後の距離をとるため、通路にはテープが貼られている
小売店の店内の様子。前後の距離をとるため、通路にはテープが貼られている

 現在、在宅勤務中の主人は平日はビデオ通話で毎日リモート会議を行っています。その中でのある「変化」について話をしていたのですが……日に日に「丸刈り」になる人が増えているというのです。ある朝、突然、丸刈りになっている同僚がいて「どうしたの?!」とびっくりして皆が聞くと、「散髪に行けないからね、自分でバリカンで切ったんだよ! 案外、スッキリしたよ」などと話していたそうです。そうなんです! 執筆している5月18日時点はロックダウン中でもちろん理髪店も美容室もすべて休業中。自宅で自ら髪をカットしなければならず、バリカン(Hair clipper)が日用品を置くお店でも、Amazonなどのオンラインショッピングでもよく売れています。

 バリカンを使った自宅での「DIYカット」の方法を紹介するビデオチュートリアルもインターネットやソーシャルメディアの至る所に出ています。ただし……初めてのセルフカットは失敗する人も多いようで、そんな失敗談とともにBefore Afterの写真を載せた投稿なども見かけるほど。

 そんな中、先日、英国初のバーチャル理髪店がオープンしました。その名も「Lockdown Haircut」。YouTubeのDIYカットビデオを見て髪をカットし、大失敗した男性が、自身の苦い経験を生かし、Online Barberの立ち上げを決断したようです。

「Lockdown Haircut」のホームページ
「Lockdown Haircut」のホームページ
概要を紹介している動画ページ

 この男性は元経営コンサルタントで、同じ経歴をもつ友人と2人で、自らの専門技術を生かし、プラットフォームを作成。ロックダウン中のDIYカットで散々な髪形になる人たちを救い、少しでも気分良く過ごしてほしいという一心で始めたようです。

 バーチャル理髪店の概要は次の通りです。お客さんとプロの理容師をZoomでつなぎ、理容師が20分のセッションを行います。利用者は、バリカンとくし、ウェブカメラ付きのラップトップがあればOK。セルフカットでない場合は髪をカットしてくれるハウスメートと一緒に参加します。料金は15ポンド。理髪店には7.5ポンド、売り上げの一部はNHS(英国の国民保健サービス)に寄付される仕組みでチャリティーも兼ねています。これはNHSで働く新型コロナウイルスの最前線で闘う医療従事者のサポートをしたいと願う理容師さんたちが自ら申し出たということです。

 4月20日のオープン以降、1週間ほどで2000ポンド以上の寄付金が集まったそう。ロックダウン中のヘアカットのヘルプだけでなく、地元の理容師のサポートにもなり、NHSへの寄付にも貢献できる、一石二鳥にも三鳥にもなる取り組みです。

 かなりの人気のようで、現在、英国国内のみならずオーストラリアや米国、ドバイやインドからも予約が入るそうです! オンラインを活用したコミュニケーションは、世界中につながるワールドワイドなツールなのだと改めて実感します。

肉眼では見えない細かい部分まで鮮明な絵画

 現在、美術館や博物館、劇場など公共の施設は全てクローズになっていますが、世界有数のコレクションを誇るナショナルギャラリーや大英博物館なども数多くの収蔵品をオンラインで公開し、バーチャルツアーなども公開されています。そんな中、近くに住む友人が、「これは良い、オススメ!」と教えてくれたのが、アートローグという会社が主催する「西洋美術史オンライン講座」(4回コース35ポンド、6月からは75分40ポンドに変更)。ロンドン・ナショナルギャラリーのコレクションを中心に、現在公開されているウェブ資料を使って解説をしてくれます。マイクロソフトのTeamsを使って参加します。

 これまでは実際に美術館に出向き、参加者と共に美術史ガイドツアーを行っていましたが、閉館となったことで、オンライン講座の開講に踏み切ったそうです。日本からの参加者もいて人気の講座になっているのですが、そのお話の興味深いこと! さらに講師の方が絵画をズームインすると、肉眼では見えないような細かい部分まで鮮明に見ることができるのです。絵の中に描かれた人物が身にまとっているサテン生地のテカリや、毛皮のふわふわした毛先の繊細な描写などは、アップにするとリアリティーがあり、思わず画面に顔を近付けて見入ってしまいました。

 講師自身も拡大して初めて気付いた新たな発見があるというので驚きです。しかもそれが絵の重要なメッセージになっていたりもするのです。受講中は、全員が講座に集中できるよう、受講者は音声も画面もオフが基本のスタイル。家族で参加することができ、1歳の息子の泣き声を心配することもありません。オンライン講座がスタートした5月は100人以上の参加があり、英国のみならず、日本、米国、ドイツ、シンガポールなど世界中からアクセスがあったそうです。今後も状況を見ながら継続することを検討するとのことです。

シェイクスピアのミュージカルがオンラインで公開

 演劇の本場ロンドン。オペラやミュージカル、シェイクスピアの演劇など著名な劇場などが、ロックダウン以降、続々とオンラインで作品を公開しています。ロンドンにある世界的に有名な劇場「シェイクスピアグローブ座(Shakespeare's Globe)」は、過去に演じられた舞台の中から、『マクベス』や『真夏の夜の夢』などの代表作をはじめ、数々のシェイクスピアの演劇を無料で、毎週オンラインで公開しています。シェイクスピアが活躍した当時の野外劇場を再現したグローブ座で演じられた、迫力満点の空気感を体感できます。

 また、家で過ごす時間に楽しみを与えたいとアクションを起こしたのが、ミュージカル界の巨匠、英国の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバー。『エビータ』や『キャッツ』『オペラ座の怪人』など数々のヒットミュージカルを手掛けてきたレジェンドが、新たな取り組みとして、「The Shows Must Go On!」と題したストリーミング動画シリーズを発表しました。毎週金曜日の午後7時(英国時間/日本時間の土曜日午前3時)から、彼のミュージカル作品が1作ずつ公開され、その全編が英国内は24時間以内、その他の国からは48時間以内なら、いつでも視聴できます。本場のミュージカルの舞台を自宅のスクリーンで見られるので、ミュージカルファンは必見です!

キャッツの名曲「Memory」を弾くアンドリュー・ロイド・ウェバー(公式Twitterより)。Twitterでミュージカルナンバーのリクエストを募り、自身が手掛けた名曲の数々を自宅から届けている。世界中から多くの感謝の言葉が寄せられている
キャッツの名曲「Memory」を弾くアンドリュー・ロイド・ウェバー(公式Twitterより)。Twitterでミュージカルナンバーのリクエストを募り、自身が手掛けた名曲の数々を自宅から届けている。世界中から多くの感謝の言葉が寄せられている

 外出を控える環境では、どうしても運動不足になってしまいますが、英国では今、キッズ向けエクササイズ「P.E. with Joe」が人気です。P.E.はPhysical Educationの略で、学校の「体育」のこと。インスタグラムで320万以上のフォロワーをもつカリスマ「ボディーコーチ」ジョー・ウィックスが学校に行けない子どもたちの体育の授業代わりにと始めました。30分ほどの運動をハイテンションのノリのいい掛け声で、月~金の毎朝9時からYouTubeでライブ配信しています。ときにはポケモン、ときにはスパイダーマンになりきったりと子どもたちを飽きさせません。BBCでも紹介されるほど話題になり、今では世界中から20万人が見ているそう。Joeと共に1日をスタートする親子も多いのではないでしょうか。私もできる日には娘と親子エクササイズをしていますが、必ず途中で息切れします。もっと、「with Joe」が必要ですね。

P.E. with Joe

 ロックダウン以後の生活の変化をみてみると、やはりキーワードは「オンライン」。娘が通う学校では、春休み明けからオンラインの授業に切り替わりました。Google Classroomを軸にライブレッスンや課題の連絡を共有しています。初めての試みとあって、先生も親たちも手探りのスタートでしたが、使い方に慣れると、課題の提出も簡単で、先生の採点やコメントも見られるので、日々の勉強のモチベーションアップになっています。

 オンライン授業は英語と算数の2教科ですが、アートやヒストリー、サイエンスなど他の教科も、Classroom上で課題が出されるので、歩みが止まっている印象はありません。毎朝「Hi!」「Good morning!」と画面を通して先生や子どもたちが声を掛け合い、先日はお昼のミーティングで、パソコンの前に紅茶やお菓子を用意してティーパーティーもしました。オンライン飲み会ならぬ「オンラインティーパーティー」です。娘も楽しい時間を過ごしました。クラスメートや先生の元気な様子を見られるだけでほっと安心します。

 今、英国では毎週木曜日の20時になると、一斉に拍手や歓声などが鳴り響きます。ロックダウン直後の3月26日から、インターネットやSNSを通じて、「Clap For Our Cares(医療ケアに携わる人たちに拍手を)」と名付けられたキャンペーンが展開されていて、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の最前線で懸命に対応に当たるNHSで働く医療従事者、公共交通機関のスタッフやドライバー、スーパーで働く人々に感謝の意を表そうと、玄関先やバルコニーに出て拍手を送ります。

 ジョンソン首相や英国王室の人々も参加し、その様子がニュースでも報じられていました。我が家でも木曜日の午後8時になるとバルコニーに出て、娘はお玉でフライパンを鳴らし、私たちは拍手を送り続けます。向かいの建物からも、大きな拍手の波や歓声、カンカンカンカンと鍋やフライパンを鳴らす音が通りに響きわたり、走行中のドライバーまでもが一斉に車のクラクションを鳴らし、感謝の思いを届けます。

 その瞬間は、あたたかい心に満ちた一つの空間が生まれ、一体感を感じるとても感動的な体験です。ロックダウン直後、NHSへのボランティアの応募が殺到し、多くの企業や団体、コミュニティーがNHSへ無償で食事などを届けているといいます。英国ではチャリティー文化が深く根付いていることを気付かされると共に、助け合いの精神は、この難局を乗り越える大きな力になっていることを感じます。

SNSのハッシュタグから始まり英国全土に広がりました。画面は4月9日は「フライパンや鍋で、できるだけ大きな音を!」と呼びかけているSNSの画像。右は近所の家の窓に貼られたNHSへの感謝を表す手書きのポスター。レインボーをモチーフにしたデザインのポスターは街のあちこちで見られます
SNSのハッシュタグから始まり英国全土に広がりました。画面は4月9日は「フライパンや鍋で、できるだけ大きな音を!」と呼びかけているSNSの画像。右は近所の家の窓に貼られたNHSへの感謝を表す手書きのポスター。レインボーをモチーフにしたデザインのポスターは街のあちこちで見られます
街のバス停にも、NHSへの感謝が……
街のバス停にも、NHSへの感謝が……
このところ気温が25度前後になる日も多く、きれいな青空が広がるロンドン。ロンドン最大の王立公園リージェンツ・パーク(Regent's Park)の園内にあるローズガーデンで、「keep smiling」という品種の黄色いバラを見つけました。今は、花の名前も「こういうときだからこそ笑顔でもう少し頑張ろう」というメッセージのように感じます
このところ気温が25度前後になる日も多く、きれいな青空が広がるロンドン。ロンドン最大の王立公園リージェンツ・パーク(Regent's Park)の園内にあるローズガーデンで、「keep smiling」という品種の黄色いバラを見つけました。今は、花の名前も「こういうときだからこそ笑顔でもう少し頑張ろう」というメッセージのように感じます
関連リンク(クリックで別ページへ):
シェイクスピアグローブ座(Shakespeare's Globe)
P.E. with Joe