2020年3月、東京メトロがMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の取り組みを発表した。東京は世界に類を見ないほど複雑な交通網が発達した大都市だ。東京メトロは、そんな都市でどのようなMaaSを展開するのか。業界初が目白押しの取り組みの中身は?
東京エリアは、鉄道だけでもJR東日本、私鉄各社が乗り入れ、東京メトロと都営地下鉄という2種類の地下鉄が存在する。さらに複数のバス事業者やタクシー事業者があり、シェアサイクルも普及が進んでいる。すでに多数の交通手段が密なネットワークを形成しており、今回の新型コロナウイルスの影響が過ぎ去れば、再び膨大な人の移動が日常となるだろう。そんな東京に最適なMaaSとは、一体どんなものだろうか。この問いに真正面から取り組んでいるのが、東京メトロを運営する東京地下鉄だ。
2020年3月、東京メトロはMaaSの展開プラン「my! 東京MaaS」を発表した。首都圏の中心にある地下鉄ネットワークを担う事業者として、大都市におけるMaaSの在り方を提案する内容となっている。具体的には、20年7月に既存の東京メトロアプリをリニューアルし、東京メトロだけではなく首都圏の鉄道各線、都営バスやコミュニティバス、さらにタクシーやシェアサイクルまで含む複数の交通機関を横断した経路検索機能を実装。その上で、20年下期以降に個人のニーズに合わせたパーソナライズド検索やスケジューラーと連動した移動提案、沿線地域の周遊を促進する施策などを通じて、新たな移動価値を提案していく構えだ。
「東京でMaaSを展開する上では、2つの難しさがある」と、東京地下鉄ICT戦略部の課長補佐、石川敦氏は話す。1つは多様なニーズだ。東京メトロだけでも1日当たり平均758万人が利用している。その中には通勤はもちろん、買い物などの生活の足として利用する人、観光で移動する人など多様な利用者がおり、その幅広いニーズにきめ細かく応えるのは容易ではない。
もう1つの難しさは、エリアに数多くの交通事業者がいること。鉄道は相互直通運転をするなど密接に連携しており、タクシーやバス、シェアサイクルなどの移動手段もある。さらにモビリティ以外にも質の良いサービスが多くそろっており、その中で「すべて自前主義でサービスをつくっていくのは現実的ではない」(石川氏)。そこで、多様なパートナーと連携しながらサービス化する形を考えているという。
このように東京でMaaSを展開するには、多くの検討事項がある。だが、東京メトロは、交通ネットワークが充実しすぎているともいえる都心で「本当にMaaSが必要なのか」という、そもそも論から出発して検討を重ね、これを機会にパートナーとさらに連携を深め、きめ細かいニーズにしっかり応えていく決意を固めた。
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