開催中止が相次ぐアイドルライブで、オンラインを活用した新たなビジネスの取り組みが加速している。ネットライブはもちろん、ネットサイン会などの有料開催も増えている。ファンとのコミュニケーションを続けるための新たな試みだが、アフターコロナでのプラスアルファの事業につながる可能性もありそうだ。
エンターテインメント業界では、新型コロナウイルス感染者数の急増を受けて、2020年4月以降、ほぼすべてのライブイベントが中止あるいは延期という状況に追い込まれた。ライブ出演とそれに付随した物販が収入源となる“ライブアイドル”は、今まさに存続の危機に立たされている。そんななか、事業の継続とファンのつなぎ留めに向けて、無観客ライブやネットサイン会のようなオンライン特典会など、これまでは副業的だったサービスをこの期間、事業の中心に据えて展開するアイドルグループが次々と出てきた。
まず、政府や自治体から外出自粛要請が本格的に出始める3月末までは、ライブハウスという密閉空間に観客を集めないことを目的として、無観客ライブが次々と立ち上がった。無観客ライブとは、観客を入れずにライブを実施し、その様子をネット配信する仮想的なライブのこと。3月半ばから3月末の短期間で、こうした無観客ライブを実施したアイドルは、ざっと名前を挙げても、BiSHやこぶしファクトリー、アップアップガールズ(仮)、わーすたなど、枚挙にいとまがない。
無観客ライブが次々と登場
無観客ライブの配信プラットフォームには、従来アイドルの動画配信などに使われてきたドワンゴの「ニコニコ生放送」やAbemaTV(東京・渋谷)の「Abema TV」、SHOWROOM(東京・渋谷)が運営する「SHOWROOM」、LINEの「LINE LIVE」、エイベックス・エンタテインメント(東京・港)の「mu-mo LIVE」、THECOO(東京・渋谷)の「fanicon」などが利用された。いずれも、動画をいわゆる「垂れ流す」だけの配信ではなく、視聴者からの反応(コメントなど)を演者と共有できる双方向のコミュニケーションアプリである。以前からこれらのインフラはアイドルの間で利用されていたので、比較的早い時期に各グループは無観客ライブを実現できた。
それでも当初は、集客が不透明な無観客ライブにちゅうちょするアイドルは多く、なかなか実施に踏み切れなかった。しかし、実施してみたところ、予想以上の集客に加え、課金で成果を上げるグループも現れた。その典型例が、YouTuberのコレコレがプロデュースする6人組アイドルグループの「コレって恋ですか?」だ。3月21日に無観客ライブを開催したところ、同時接続視聴者数が約1万3000人。配信アプリに備わっている「投げ銭」機能(ファンがオンラインで寄付できる仕組み)で集まった金額は76万円だったという。この結果に同マネジャーの原知希氏は「環境に左右されず、コメントでファンの方々とコミュニケーションをとることができ、新しいアイドルライブの形に挑戦できた」と振り返る。無観客ライブが単にリアルライブの代替では収まらないことを示唆していると言えるだろう。
複数のグループが出演する、いわゆる「対バン」形式の比較的大規模な無観客ライブも開催された。芸能プロダクションのディアステージ(東京・新宿)が、3月28~29日にLINE LIVEを使って配信した「#DSPM STREAM FESTIVAL」だ。出演者には、同社に所属するアイドルである、でんぱ組.incや虹のコンキスタドール、寺嶋由芙などを中心に、ライブアイドル界で人気の総勢20組余りのグループが集まった。このオンラインライブでは、リアルライブと同様にオンライン特典会も実施した。開催時期に通販サイトでグッズを購入した視聴者に対して特典券が発行され、チェキなどの特典が受けられるサービスである。
しかし、3月末に本格的な自粛要請が出されると、少人数ながらもライブスタッフやアイドルメンバーが集まって行う無観客ライブの開催でさえ困難になった。そこで多くのアイドルグループがオンライン特典会だけを単独で実施し始めた。通常時ならば副次的なビジネスだったこうしたアイドルの活動が、急きょ主役に躍り出てきた。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー