「高知県民からすると、すごく衝撃的なニュースだった」(林氏)。市が中止になると、農家の売り場がなくなる。そこで立ち上がったのが、地元飲食店のシェフらだった。自ら農家に出向いて野菜を買いつけ、詰め合わせにして「自宅で日曜市を」「買って応援してください」と店先で予約販売した。林氏もすぐさま購入を申し出たが、野菜を取りに行く時間が思うように取れず、代金だけ振り込んだ。これが、発想の原点になった。

 「当時は飲食店も夜まで営業しており、むしろこんな時期だからこそ飲み食いして応援しようと足を運ぶ人が多かった。日本ではまだ緊急事態宣言は出ていなかったが、イタリアやスペインでは既にロックダウン(都市封鎖)が始まっていた。間違いなく日本もそうなる」と林氏は危惧した。

 外出できなくなっても店を支えるにはどうすればいいか。ひらめいたのが、先払いだった。「お店で飲み食いしなくても、極端な話、お代だけ得られれば、お店は回していける。ただし、僕みたいにお代だけ振り込むのでは、なかなか広がらない。ならば、後日飲食や買い物に使えるチケットを発行すればいい」(林氏)。

 思い立って1週間後にはフェイスブックで発信し、その2日後の3月28日にプロジェクトは始動した。「スピード感がとにかく大事だと思った。刻一刻と状況が変わっている時期だったが、この企画であれば、ロックダウンで家から出られなくなっても、店が一時休業しても支援が続けられると確信した」(林氏)。

 フェイスブックに投稿してすぐに地元テレビ局から取材が入り、プロジェクトは瞬く間に全県に広がった。今や参加店舗は高知県内だけで約100店、チケット発行額は1000万円を超えた。それだけではない。「コロナに負けるな!つながるTOCHIGIプロジェクト」(栃木県)、「コロナに負けるな!みちのくつながる応援きっぷプロジェクト」(岩手県)、「コロナに負けるな!つながる丹波篠山+プロジェクト」(兵庫県)、「コロナに負けるな!つながるOEDOお江戸プロジェクト」(東京)などわずか2週間で全国10地域に拡大した。林氏の思いに共感した有志たちが、それぞれの地元にノウハウを持ち帰り、支援の輪を広げたのだ。

 「どなたも僕は全く面識がなかった。フェイスブック上でもつながっていなかった方々が『これを導入したい』と連絡をくださった」。実は、林氏が目指したのは、チケットを何百枚、何千枚と売りさばくことではない。「幸いなことに、日本には飢えて死ぬ人は、ほとんどいない。店が倒産するときは、家賃や光熱費など固定費が払えない場合。チケットがその足しになれば、希望が翌月に延びる。また翌月、翌々月と延命措置みたいな形で続く。そのうちにコロナが一掃されればいい」。

 緊急事態宣言下でも、飲食店ならばテークアウトやデリバリーでチケットを利用してもらえる。チケットを使い切り、追加購入する客が増えれば、それだけ息の長い支援になる。林氏が参加店舗から最も多く耳にしたのが、「常連さんとのつながりに気づかされた」という言葉。「大変なときに支援してくれる人たちがいる。いかに普段から大事にしてもらっていたのかを実感したと、本当にいろんなお店の方から聞いた」(林氏)。

本業は売り上げゼロ、手弁当でも支える

 林氏の本業は、イベント業である。新型コロナウイルスの影響は極めて大きく、業績を直撃した。「3月頭でほぼすべての仕事がキャンセルになり、3月、4月と3000万円ぐらいの売り上げ予定がなくなった。5月以降も決まっていない」。

 そんな中、まさしく手弁当で立ち上げたのが「つながるKOCHIプロジェクト」だった。チケットを発行するというアイデアは浮かんだ。あとは、社会を巻き込んでいく仲間が必要だ。そこで旧知の仲だったリーブル出版(高知市)の坂本圭一朗氏、高知市議の横山公大氏に協力を求め、3人でグループを発足したのが、始まりだった。「ただ、言い出しっぺは僕なので、チケットの印刷代は僕が出すことにした。このことで誰かに迷惑をかけてはいけないと思ったから」(林氏)。

チケットの印刷代は林氏が自腹で負担した。現在はデジタルチケットの配布も始めた
チケットの印刷代は林氏が自腹で負担した。現在はデジタルチケットの配布も始めた

 本業の先行きに不安がないわけではない。「イベントは基本的に(密閉、密集、密接の)3密だから、コロナ前に戻ることはたぶん有り得ない。皆さん(イベント関係者は)、トラウマがあると思うし、これから少なくとも半年間は、お金になる仕事はできないだろう。それこそ国を挙げてイベントを再開するでもしない限り、企業独自で開催に踏み切るのは、なかなか厳しいと思う」(林氏)。

 それでも悲観はしていない。「実は昨年から(ビデオ会議システムの)Zoomを使って社内ミーティングをしていた。数年前から東京や海外の人と一緒に仕事をする機会が増え、リモートワークが当たり前になる時代は絶対に来ると思っていた。それが予想より1年半から2年早く来たというだけ。『鶏が先か、卵が先か』みたいな話で、『コロナが先か、働き方改革が先か』にすぎない」。新型コロナで目先の仕事を失った一方、今回のプロジェクトを通じて、物理的な距離を越え、志を同じくする多くの仲間と出会うことができた。

 「このプロジェクトには賛否両論があり、きちんとビジネスにすべきだ人という人もいる。でも、手弁当で何の利益もなくやっていたからこそ、すごく早く広がった面がある。どんどん全国の人に真似をしてもらいたいし、それで1店舗でも多く救われるとうれしい」(林氏)

 商業施設が休業するなどして、売り場を失った生産者が情報発信する場として4月22日には「コロナに負けるな!つながる商品プロジェクト」という新たなコミュニティーをフェイスブック上に立ち上げた。

生産者と消費者をつなぐ情報交換用のコミュニティーも新たに立ち上がった
生産者と消費者をつなぐ情報交換用のコミュニティーも新たに立ち上がった
 4月28日には高知市のレンタルショップ「ジャストタイム」と組み、高知県内の医療機関や店舗に「コロナ対策セット」を無料で提供する取り組みを始めた。「コロナと戦う企業にエールを!」と銘打ち、ネットから申し込みがあれば、3密を防ぐ待合所として使えるテントやパイプ椅子、移動式の間仕切りなどをすぐに手配する。即効性のある支援の形を、これからも模索していくつもりだ。

 「僕らはあくまでも、こんな支援の方法がありますよ、というヒントを与えているだけ。あとはお店の方とお客さんの間で進めてほしい。振り返ったときに『ああ、あんなことがあったね』と(プロジェクト自体が)自然消滅してなくなるぐらいでいい」(林氏)。なじみの店をなんとかして救いたい。高知だけでなく、日本全国が同じ思いでつながった。皆の力を合わせれば、国難はきっと乗り越えられる。