国内最大級の常設のeスポーツ専用施設「REDEE(レディー)」が2020年3月1日、大阪府吹田市の大型複合施設「エキスポシティ」内に開業した。eスポーツといえばプロゲーマーによる興行イベントを思い浮かべるが、同施設の主な目的はゲーム体験を通して学びの機会を提供することだ。

2020年3月1日、大型複合施設「エキスポシティ」内に開業したeスポーツ専用施設「REDEE(レディー)」
2020年3月1日、大型複合施設「エキスポシティ」内に開業したeスポーツ専用施設「REDEE(レディー)」
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エンターテインメントを通して学ぶ施設

 大阪空港と門真をつなぐ大阪モノレール「万博記念公園駅」から徒歩約2分。大阪万博のシンボル「太陽の塔」を左手に眺めながら進むと、大型ショッピングモール「ららぽーとエキスポシティ」を核にした複合施設「エキスポシティ」が見えてくる。広大な敷地には、海遊館(大阪市港区)がプロデュースした人気の博物館「二フレル」や体験型英語教育施設「オオサカイングリッシュ ビレッジ」、大観覧車「オオサカホイール」など大型の娯楽施設が並ぶ。レディーはそうしたにぎやかなエリアの一角にオープンしたeスポーツ専用施設。旅行関連事業や地域活性化事業などを展開するレッドホースコーポレーションと電通、eスポーツ専門会社のウェルプレイド、若者の教育・将来設計を支援するNext Group Holdingsの4社が協業で立ち上げた。

 ここにはもともと「オービィ大阪」という大自然を体感できるエンターテインメント施設があったが、2018年9月末に閉館。「新しいコンテンツを更新し続けるのが難しく、収益事業にできなかった」と、運営するレッドホースコーポレーションの久秋貞雄社長は振り返る。施設撤退後に残ったのが、デジタルで動物の生態を見せるプロジェクターや幅40メートル、高さ8メートルの大スクリーンといったハイスペックな設備。それらを再活用できるコンテンツとして着目したのがeスポーツだった。

 ただ、eスポーツを収益ビジネスとして軌道に乗せている企業は日本にはまだないという。そこでオービィ大阪でも掲げていた「エデュテインメント(教育とエンタメを融合した造語)」という事業コンセプトをそのまま活用。ゲームを楽しみながら学べる施設にリノベーションした。

 「プロゲーマーを育てるつもりはなく、プロのレベルを身近で感じることから学んでほしい。ゲームの中に詰まっているサイエンステクノロジーを理解すると、脳の知見が高まるので、親子で楽しんでもらいたい」と、久秋社長は娯楽と教育を兼ねた子供向け施設であることを強調する。

巨大スクリーンでプロゲーマーを疑似体験

 施設面積は約4800平方メートルで2フロア構成。2階エントランスを入ると、プロゲーマーが実際に使っているゲーミングPCで遊べる「ガレリアラウンジPC体験エリア」があり、24台のパソコンがずらりと並ぶ。その奥には「超没入型VR(仮想現実)体験エリア」と「プログラミング体験エリア」「ドローン体験エリア」を配置。さらに階段を下りた1階には、プロの大会も開催されるメインシアターの「アリーナ」と「実況者体験エリア」「YouTuber体験エリア」の他、カフェや物販コーナーなどもある。

パソコンで遊べるeスポーツタイトルを自由に体験できる「ガレリアラウンジPC体験エリア」。24台のパソコンが設置されていて、初心者からプロまで利用できる
パソコンで遊べるeスポーツタイトルを自由に体験できる「ガレリアラウンジPC体験エリア」。24台のパソコンが設置されていて、初心者からプロまで利用できる
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「プログラミング体験エリア」では、アプリ内のオペレーションに従って、教育用ブロックを使った10分程度のロボット製作や5分程度の自由操作ができる。光るカタツムリや扇風機などのプロジェクトを用意
「プログラミング体験エリア」では、アプリ内のオペレーションに従って、教育用ブロックを使った10分程度のロボット製作や5分程度の自由操作ができる。光るカタツムリや扇風機などのプロジェクトを用意
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 メインアトラクションともいえるのが、258席を備える国内最大級の常設会場でのプロゲーマー体験だ。高さ8メートル、横40メートルの巨大スクリーンにゲーム画面が映し出される様は迫力満点。実際に巨大スクリーンをバックに対戦でき、プロゲーマーを疑似体験できるのが大きな魅力だ。

「アリーナ」は世界水準のeスポーツ大会も開催可能な専用の常設会場。高さ8メートル、幅40メートルの巨大スクリーンの前でプロゲーマー気分を味わえる
「アリーナ」は世界水準のeスポーツ大会も開催可能な専用の常設会場。高さ8メートル、幅40メートルの巨大スクリーンの前でプロゲーマー気分を味わえる
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 大会の決勝シーンを想定しており、入場から対戦、インタビュー、退場まで大会の流れを一通り体験できる。対戦時間は約3分で、トータル約12分間。対戦模様をスタッフが実況してくれるので、大会の臨場感を味わえ、気分をいっそう盛り上げてくれる。子供同士や親子、友達同士はもちろん、知らない人とも対戦できるので1人での参加も可能。担当スタッフは「大人になって自分もプロの大会に出たいと思ってもらえればうれしい」と話す。アリーナでは週1回のゲーム大会の開催も予定している。

 子供が憧れる職業の上位にランキングされるという、ゲーム実況者の仕事にチャレンジできるのが「実況者体験エリア」だ。あらかじめ用意された4タイトルのゲームプレイ動画の中から、自分の好きなタイトルを選び、その動画に合わせて実況を体験できる。1人当たりの所要時間は約10分。実況動画をデータで無料提供してくれるのもうれしい。

「実況者体験ブース」。eスポーツ観戦に欠かせない存在として子供からも人気の高い実況者の仕事を体験できる
「実況者体験ブース」。eスポーツ観戦に欠かせない存在として子供からも人気の高い実況者の仕事を体験できる
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 「YouTuber体験エリア」でも、人気の職業であるYouTuberの仕事を体験できる。自分で動画を企画、撮影し、編集するまでの工程を学べる。所要時間は約1時間。スタッフが指導してくれるので初心者でも気軽に挑戦でき、作った動画はデータで持ち帰ることができる。

「YouTuber体験ブース」。iPadを使用した撮影、編集で、動画制作の基本の流れを体験。中高生を中心に親子や友達同士での参加を想定している
「YouTuber体験ブース」。iPadを使用した撮影、編集で、動画制作の基本の流れを体験。中高生を中心に親子や友達同士での参加を想定している
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ドローンやVRなど最新機器が勢ぞろい

 ドローンやVRといった最新のデジタル機器を気軽に体験できるのも同施設の見どころだ。「ドローン体験エリア」には小型ドローンを飛ばすためのゲージが設置されていて、安全かつ自由にドローン操作を楽しめる。あらかじめプログラムが組まれたドローンを体験するコースと、実際にドローンを操縦するコースを設定。直感的な操作で楽しめる製品を採用しているので、一度もドローンを触ったことがなくても簡単に動かせるという。筆者も挑戦してみたが、いきなりドローンを墜落させてしまった。しかし要領をつかめば、結構楽しめることが分かった。

ドローン体験ブースでは、DJI製品の「Tello EDU-プログラミング教育ドローン」や「RoboMaster S1-教育用インテリジェントロボット」を採用
ドローン体験ブースでは、DJI製品の「Tello EDU-プログラミング教育ドローン」や「RoboMaster S1-教育用インテリジェントロボット」を採用
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 大人が楽しめそうなアトラクションとしてお薦めなのが、VR内を自由に歩けるルームウオーカー形式のデバイス「KATWALK」。中国のKATVR社が開発した最新機器で、コントローラーを操作するだけの従来のVR機器と異なるのが特徴だ。背中のハーネスに身体を固定し、足や頭を動かしたり、付属装置を操作したりすることで、VRの世界を自分の体で移動している体験ができる。オープン時はスキーゲームを導入していたが、シーズンなどに合わせたコンテンツに随時更新する予定。何度訪れても飽きないようコンテンツ開発を行い、eスポーツのファンを増やしていく考えだ。初年度来場者数は約20万人を見込んでいる。

中国のKATVR社が開発した日本初導入の「KATWALK」を用いたVR体験ができる「超没入型VR体験エリア」。スキーゲームの所要時間は約12分
中国のKATVR社が開発した日本初導入の「KATWALK」を用いたVR体験ができる「超没入型VR体験エリア」。スキーゲームの所要時間は約12分
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 入場料は全エリアを1日体験できて大人(高校生以上)2000円(税込み)、小中学生1500円(同)、未就学児は無料。最新のエンターテインメント施設にしては良心的な価格設定といえるだろう。当日に限り何度でも再入場できるので、合間にショッピングモールで食事や買い物を楽しむことも可能だ。

 日本eスポーツ連合(JeSU)の資料によると、eスポーツの国内市場規模は18年時点で44億円、ファン数382万人と推計されている。eスポーツの普及が進む海外に比べるとまだ盛り上がりに欠けるが、今後競技人口が増えると25年には600億~700億円市場にまで成長し、ファンの数もプロ野球並みの2300万~2600万人に膨らむと期待されている。

 次世代のeスポーツプレーヤーに着目し、遊びながら学べるという視点で新たなエンタメ拠点を目指すレディー。ビジネスとしては未知数の分野だが、仕掛けと運営次第では大きく化ける可能性を秘めている。

プログラミングの仕組みを講義形式で学べる学習エリア。マイクロビットでブロックエディターを動かし、簡単なコードを書くことでプログラムの基本構造を学べる
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(写真/橋長 初代)