新型コロナウイルスの感染拡大を受けて企業のイベントや記者発表会などが延期・中止、あるいはオンライン配信へと切り替わっている。やがて新型コロナ危機を脱出する局面で、開催・再開に踏み切って差し支えないものと、時期尚早なものをどう判断すればよいだろうか。

上野動物園は4月12日まで臨時休園中
上野動物園は4月12日まで臨時休園中

 2020年3月25日に小池百合子都知事が「週末の外出自粛」「平日の在宅勤務」を呼びかけたことで、企業のイベント、発表会などの開催・再開機運は大きく後退した。目安として提示された4月12日までは都心近郊のイベント、会合は一律に自粛が求められる。東京都を封鎖する「ロックダウン」も辞さない構えで、先行きは不透明だ。それでも4月からの新年度のどこかのタイミングで感染爆発の危機は峠を越えるだろう。企業はイベント開催・再開の是非をどう判断したらいいだろうか。

 都が管轄する動物園の休園・開園の判断は1つの目安になる。都知事の会見を受けて上野動物園、多摩動物公園ともに4月12日まで休園中だが、会見前は、上野動物園は2月29日から3月末まで臨時休園(当初は3月15日まで)、多摩動物公園は開園していた。東京都建設局の外郭団体である東京動物園協会が運営する両園で、判断が割れていた格好だ。

 その理由について都建設局公園緑地部公園課は、「上野動物園は来場客数が多く、特に人気のパンダ舎前には人混みができやすい。また室内施設も多いため、『密閉・密集・密接』の“3密”を避けることが難しいと判断した。一方の多摩動物公園は丘陵地帯の広い敷地にあり、一部の施設やイベントを休止することで3密を回避できるとみて開園していた」と説明する。

 説明の通り、上野動物園には実は屋内施設も多い。17年7月に西園にオープンした体験プログラム施設「子ども動物園すてっぷ」をはじめ、巨体のワニが見どころの「両生爬虫類館」、ミーアキャットやムササビ、コウモリなどの動物が集う「小獣館」、動物の行動を間近に観察できる「ホッキョクグマとアザラシの海」など。雨の日でも集客に寄与するこれらの充実した環境が、対新型コロナ対策においてはマイナスに作用してしまう。

 また3月の上野動物園は花見ついでの来場が増えるシーズンで、19年3月の来場者数は50万8243人。特にパンダ舎前は行列、密集が避けづらく、パンダを見て声を上げないように要請するのも酷な話だ。

 一方の多摩動物公園の19年3月来場者数は8万7609人で上野動物園の約6分の1。そして敷地面積は上野動物園の14万3000平方メートルに対して、52万3000平方メートルと4倍近く広い。単純計算で人口密度に20倍超の差がある。多摩動物公園では人気のコアラ館を週末・祝日は閉鎖、動物解説員のガイドツアーや動物とのふれあいイベントなどの休止、屋内の飲食施設は客席間隔を空けて席数を減らすといった対応を取っていた。

 つまり、動物園というだけで一律に開園か休園かが決まるのではなく、施設環境や来場客数見込みによってリスクは異なるため、個別の判断が必要になる。これは今後、企業が自粛していたイベントや発表会などの再開を判断するに当たって必要な視点だ。競合他社が再開に踏み切っても、自社イベントの開催環境が大きく異なるものであれば、右にならえで解禁するのは危うい。もちろん何でも自粛を続ければいいわけでもない。

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