1人焼き肉店として話題となった「焼肉ライク」が、郊外店で肉とライスだけのセットメニューを350円で提供する。牛タンなどの単品メニューも大幅に値下げし、価格破壊を起こす。牛丼と価格で競える焼き肉を提供することで、牛丼店の利用客を取り込む考えだ。
ダイニングイノベーションインベストメント(東京・渋谷)の子会社、焼肉ライク(東京・渋谷)は2020年3月29日から、「焼肉ライク」の郊外店でバラカルビ100gとライスのセットを350円(税抜き、以下同)と牛丼並みの低価格で販売する。
焼肉ライクは、18年8月に1号店をオープンしてから急成長しており、現在国内に直営店とフランチャイズ(FC)合わせて32店舗を展開している。郊外では幸楽苑ホールディングス(以下、幸楽苑)がFC契約を締結し、現在10店舗を出店している。今回の激安メニューは、幸楽苑が運営する「焼肉ライク 松戸南花島店」で導入するもので、セットメニューや肉の単品などを大幅に値下げする。客の反応を見て、今後ほかの郊外店への展開を検討するという。焼肉ライクの有村壮央社長は「焼き肉の価格破壊を起こして、牛丼店から客を奪う」と意気込む。
同店では、これまでバラカルビ100gとライスにスープとキムチを付けたセットが最も安価で530円だった。350円セットにはスープとキムチを付けず、その分価格を下げた。これ以外にも、同様のセットメニューとして、熟成生カルビ100gとライス(490円)、生ハラミとライス(540円)など8つを販売する。吉野家ホールディングス(以下、吉野家HD)が運営する吉野家の牛丼は並盛が352円、大盛が512円。十分に競える価格といえるだろう。スープとキムチ(各50円)のほか、生卵(80円)などはサイドメニューとして提供し、牛丼店の感覚で追加注文できる。
さらに肉の単品メニューも値下げし、追加オーダーの満足度を高める。例えば、これまで50gで490円だった牛タンを250円にするほか、350円だった国産牛カルビ(50g)を、290円の国産牛上カルビ(50g)に置き換える。ただ、セットだけでなく単品の価格も下げることで、「客単価はこれまでの1200~1300円から1000円以下になる」(有村社長)見込みだ。一方で、メディアへの露出や口コミが広がり、客数が増えることで全体としての売り上げアップを期待する。人気店が大幅値下げに踏み切ることで、他の焼き肉店が追随する可能性もありそうだ。
吉野家は女性客へ訴求を強化
焼肉ライクが低価格メニューを導入した背景には、牛丼チェーンの好調がある。吉野家HDは、19年に吉野家で「牛丼超特盛」(722円)を、20年1月に牛皿と牛カルビや鶏の唐揚げなどを組み合わせる「W定食」(698円)をメニューに追加した。メニューの種類や量の選択肢を増やすことで客単価を上げ、売り上げを伸ばしている。さらに女性客への訴求も強化。並盛よりもさらに少量の「小盛」(332円)を導入したほか、従来のU字形カウンターを無くし、ソファやテーブル席を設置し、コーヒーを提供する郊外店を増やしている。
また、ゼンショーホールディングスの牛丼店「すき家」は牛丼のトッピングメニューを充実させるほか、期間限定で「牛すき鍋定食」(780円、税込み)を販売。やはり客単価を上げ、売り上げを伸ばした。
一方、焼肉ライクは「焼肉ファストフード店」をコンセプトに、リーズナブルな価格とスピーディーな提供を売りにしている。明るい雰囲気の内装に1人1台の無煙ロースターを導入し、女性が入りやすい焼き肉店として、店舗を拡大してきた。牛丼チェーンが付加価値を打ち出し、女性客をターゲットにし始めたことで、焼肉ライクと競合する度合いが高まってきた。そのため、安価なセットメニューを導入し、牛丼店に対抗する必要がある。
ちなみに、幸楽苑は業績不振から大量閉店と既存のラーメン店の業態転換を進めている。同社は、ペッパーフードサービスともフランチャイズ契約を結び、ステーキ店「いきなり!ステーキ」を運営してきた。しかし、いきなり!ステーキは客離れが進んで業績不振に陥っており、焼肉ライクが今後の業態転換の主力になるかどうかが浮上の鍵となる。