渋谷駅近くの宮益坂に突如現れた大行列。人々が並ぶ先を見てみると、「東京たらこスパゲティ」という看板とパスタ屋があった。たらこスパゲティ専門店のようだが、「たらこスパゲティ」自体は特に目新しいものではない。むしろ今さらという感もある。一体なぜ、人気に火が付いたのか。

看板メニューの「炙(あぶ)りたらこのお出汁(だし)スパゲティ」890円(税別)
看板メニューの「炙(あぶ)りたらこのお出汁(だし)スパゲティ」890円(税別)

SNSで話題の「たらこスパゲティ専門店」の正体

 渋谷にたらこスパゲティ専門店「東京たらこスパゲティ」がオープンしたのは2020年1月31日。運営するフィルドテーブル(東京・千代田)は、とんかつ専門店「かつや」で知られるアークランドサービスホールディングスの子会社だ。

 大行列ができたきっかけはSNSでの拡散。オープンから6日間は、看板メニューの「炙りたらこのお出汁スパゲティ」が、通常の約半額の税込み500円で食べられると話題になった。グループ会社が運営する「かつや」や唐揚げの「からやま」などがオープンするときにも必ず行うキャンペーンだが、東京たらこスパゲティの場合、多い時で200人も列に並んだそうだ。

 そもそもなぜ、珍しくもない「たらこスパゲティ」をメインに選んだのか。その理由をフィルドテーブルの中島宗則社長はこう話す。

 「まず和風スパゲティの業態を考えていた。和風スパゲティは創作料理なので、作り手の自由が利く。だからこそ他の和風スパゲティの店と同質化しないよう、テーマを絞り込んで強烈な個性を持たせた」

 確かに和風スパゲティの代表格と言えば、たらこスパゲティだ。親しみがあり、嫌いな人が少ないメニューだからこそ、多くの消費者に関心を持たせることはできるだろう。半面、わざわざたらこスパゲティを目当てに外食する人はそれほど多くないのでは。その問いに中島社長はこう答える。

 「もちろん家庭で食べられるものを、外食してもらえるように工夫しなければいけない。だからこそ、既に完成されている『たらこスパゲティ』という料理を、どこまで崩していいのか、定番からどれだけ離れても受け入れられるのか考えた」

 試行錯誤の結果、東京たらこスパゲティには独創的で色鮮やかなメニューが並ぶ。実は全て料理人でもある中島社長が考案したメニューだ。

東京たらこスパゲティのメニューの一部。個性が際立つ色鮮やかなパスタが並ぶ
東京たらこスパゲティのメニューの一部。個性が際立つ色鮮やかなパスタが並ぶ

 親会社のアークランドサービスホールディングスでは、「かつや」や「からやま」など、男性やファミリーをターゲットにしている業態が多い。そのため盛り付けも器からはみ出したり、高さを出したりと、見た目のボリューム感が印象的だ。しかし東京たらこスパゲティは、料理を俯瞰(ふかん)で見た際に、きれいかどうかを重視しているそうだ。

 というのも、同店のターゲットは20代後半から40代の働く女性。中でもバリバリ仕事をしながらも、しっかり食事をしたい人を狙っている。「価格帯が1000円前後なので、週に1回くらい来ていただけたらと思う。またグループ全体の観点からも、女性に目を向けた店舗展開も必要と考え、東京たらこスパゲティを出店した」と中島社長は語る。

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