フランスの磁器メーカー「ベルナルド」が日本での事業を拡大している。2019年3月に日本法人を設立し、レストランやホテルへの販売を進めるほか、アーティストとのコラボ作品の展示などで、日本での知名度向上を狙っている。世界の一流レストランなどに広く磁器を提供する同社のマーケティング戦略を探った。
ベルナルドは1863年、フランスのリモージュで創立された。1910年代には米国に進出し、フランス経財省指定の「生きた遺産」企業にも指定されている。現社長のミッシェル・ベルナルド氏は5代目、その息子はリサーチと開発を担当、甥のアーサー・ベルナルド氏が2019年3月にベルナルドジャパンを立ち上げた。現在フランスに従業員450人を抱える。このうちアトリエや工場のあるリモージュで400人の職人が働き、年間約200万品を生産している。同社によれば世界の星付きレストランの60%に磁器を提供しているという。
そのベルナルドが2019年春に東京・表参道近くにショールームをオープンし、日本に本格上陸した。1990年代の後半から2010年代にかけて世界の老舗高級磁器メーカーは減り、日本陶業連盟によれば陶磁器の生産額も減少傾向が続く。そんななか、ベルナルドはなぜ今日本に本格進出したのか。
磁器の用途とコラボで開発
ベルナルドが生産するのは食器だけではない。磁器のアクセサリーやインテリア製品、アートオブジェもある。例えば、磁器から漏れる光を美しく見せるキャンドルホルダーや高級化粧品メーカー、ゲランの「オーキデシリーズ」の容器は、手触りは繊細でありながら頑丈なのが特徴だ。食器とは違う新しい製作テクニックが必要で、研究を重ね、店頭に並ぶまでに4~5年かかったという。
研究費や人件費を考えると大きな投資だが、こうして磁器の新たな用途を開発するのがベルナルドのやり方だ。「リスクはあるが成功すれば投資のリターンを得られる。化粧品容器が良い例で、一度決まれば大量の注文がとれる。キャンドルホルダーも大ヒットした」(アーサー氏)。社長のミッシェル氏も「何千年も使用されてきた磁器にも、まだまだ未開拓の特性と用途がある」と言う。
磁器の可能性を開拓するため、アーティストとのコラボレーションも早くから始めた。最初のコラボは1967年、インダストリアルデザインの大家レイモンド・ローウィ(当時を代表するクルマや家具のデザイナーで「ラッキーストライク」のマークも彼による)に始まる。それは食器でのコラボだったが、ベルナルド初の思い切った現代的デザインで成功し、斬新な磁器を生み出すターニングポイントになった。
最近もさまざまなコラボを展開する。人気の食器シリーズ「イン・ブルーム」は、イスラエル生まれでロサンゼルス在住の若きアーティスト、ゼメール・ペレドとのコラボだ。彼女の作品で有名なのは植物や有機体を想起させる立体だが、それを平面がある食器で再現することに成功、ユニークな食器が出来上がった。彼女がインスタグラムで多くのフォロワーを持つのも大きな魅力。若い世代にもベルナルドというメーカーの存在を認知させる役割を果たしているという。皿は1枚5000円台から、ティーカップも1万1000円台と手ごろだ。
大きな眼鏡がトレードマークのニューヨークのファッションアイコン、現在98歳、今年99歳になるアイリス・アプフェルとのコラボも大きな話題となった。2019年に発表された磁器のアクセサリーは、アプフェルが世界中のアンティーク市などで見つけたアクセサリーからインスピレーションを得て作ったもの。ネックレス、ブローチ、指輪、イヤリングなどは、アクセサリーとしては大きいが、軽くて頑丈、滑らかな感触があり、美しい。ユーモアのある商品だ。値段はシンプルなペンダントで3万5000円、指輪5万円、大きなネックレスで17万円、限定版の胸当てプラストロン66万円など。このコラボで、ベルナルドはファッション業界に名をはせることになった。
このほか、シャガールやミロなどの有名絵画をモチーフにした食器シリーズも続ける。磁器の薄さと素材感で困難を極めながら美しく完成したジェフクーンズの磁器のバルーンドッグも話題となった。バルーンドッグは日本でも20年3月18日にオープンした日本橋三越の「MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY」で見られる。アーティストとのコラボでベルナルドは美術界でも知る人ぞ知る存在になった。
「コラボによりさまざまな世界の新しい市場を開拓。そしてベルナルドを知らなかった人々に認知してもらう」。それがマーケティング戦略の核であるとアーサー氏は言う。コラボはアーティスト、ブランド、クリエイターからリクエストを受けることもあれば自ら提案することもある。
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