ジェイアール京都伊勢丹が1997年の開業以来最大規模となるリニューアルを行い、2020年2月26日にオープンした。地下1階~5階の食品、婦人ファッションフロアを順次再編。海外のハイブランドを多数導入した他、化粧品売り場を約2倍に拡充するなど攻めの戦略で、新たな顧客の獲得を目指す。
特選売り場は前年比2倍近くの売り上げを想定
「京都のゲートウエイである京都駅にふさわしい、世界基準で評価される百貨店を目指そうと、2年以上かけて作ってきた。革新性、話題性のあるモノ、コトを発信する伊勢丹のMD力と、JRの強みである集客力をもう1回磨き上げ、百貨店の価値を最大限発揮していきたい」――。リニューアルオープンのセレモニーで、ジェイアール西日本伊勢丹の浅田龍一社長は“世界基準の百貨店”を強調し、攻めの姿勢をアピールした。
浅田社長が繰り返し口にした“世界基準の百貨店“とは何か。それは訪日外国人客を含む、国内外の顧客を満足させる品ぞろえとサービスを提供する店舗に他ならない。今回のリニューアルでは、2~5階の婦人ファッションフロアの大刷新に着手。とりわけ大幅な再編に取り組んだのが、「インターナショナルブティック(特選売り場)」と「化粧品」の売り場だ。
海外のラグジュアリーブランドが軒を連ねる特選売り場は、1階のワンフロアから2、3階へと3層に拡大。新設の13ブランドを含めてラインアップが倍増した。2階の正面玄関すぐの場所に、19年12月、京都最大の「ティファニー」がオープンした他、20年2月には京都初の「クリスチャン ルブタン」や「グッチ」「ヴァレンティノ」「ジミー チュウ」などバッグとシューズが充実したブティックを導入。「サンローラン」「バーバリー」「マルニ」「メゾン マルジェラ」「モンクレール」といった人気のハイブランドは、メンズ・レディースの複合ショップで出店している。
海外のハイブランドは、これまで京都の中心部にある老舗百貨店に集中しており、ジェイアール京都伊勢丹が導入できるブランドは限られていた。そのため商圏エリアである滋賀や京都南部の客は、大阪の百貨店などに流れていた。今回、一足先に19年11月に特選売り場を一部改装オープンしたところ、館全体で新規客が増えたという。さらにアジアを中心としたインバウンド客の増加も見込まれ、「特選売り場の初年度の売り上げは2倍近い伸びを想定している」と、担当バイヤーの西村康佑氏は話す。
同店のインバウンド比率は約9%。京都市内の百貨店の中では最も低い。免税対象外の食品の売上比率が高いからだが、特選売り場と化粧品は25~30%を占めるという。今回のリニューアル効果で19年12月からインバウンド客が増え、館全体の免税売り上げが京都四条の百貨店を超えた。新型コロナウイルスの問題が解決すれば、「インバウンド比率は10%を超えるだろう」(浅田社長)と予想する。
京都地区最大の化粧品売り場誕生
インバウンド需要が高い2階化粧品売り場は面積を倍増し、京都地区最大規模となった。京都初出店となる3ブランドを含めた18ブランドが新たに加わり、取り扱うブランド数は40ブランドに拡大。顧客の関心に合わせた4つのゾーンで構成し、トータルビューティーをかなえるコスメフロアに生まれ変わった。
注目は2階エントランスの右手に新設された「メイクゾーン」だ。「アディクション」「スック」「トム フォード ビューティ」など最先端のメイクブランドを集積。ワクワクした気持ちでメイクを楽しめるよう、照明や音響を駆使し、スタジオのような世界観のある空間を作り上げた。売り場は少し離れるが、19年に日本初上陸した米カリフォルニア生まれのメーキャップブランド「トゥー フェイスド」も京都初出店となった。
美容機器ゾーンにはエアーテクノロジーを駆使したヘアドライヤーなどを扱う「ダイソンヘア」が京都初出店。美容機器大手の「ヤーマン」も京都市内の百貨店に初出店した。売り場のスタッフが製品の使用方法やヘアスタイリングのアドバイスを行い、その場で体験できるのも魅力だ。
また「スキンケアゾーン」は広くゆったりとした空間にソファなどを設置。専門的な肌測定やカウンセリングなど、顧客一人一人に対して丁寧な接客サービスを提供できる環境が整っている。
フロアの奥には完全予約制のプライベートなお手入れルーム「コスメティック キャビン」を完備。ブランドの垣根を越えてアドバイスができるコンシェルジュも3人在籍する。単にブランドを集積するだけではなく、イベントスペースで新しいビューティーの提案をしたり、メイクの楽しさを体験できる空間にしたり、従来とは一線を画す化粧品売り場になっているのが特徴だ。
縮小しつつも効率アップした婦人服売り場
ファッション業界の苦戦が続くなか、アパレル商品を主力アイテムとして展開してきた百貨店も売り場再編を余儀なくされている。売り場の縮小やブランドの刷新はもちろん、従来の年代別ゾーニングから、テイストやマインドで編集する売り場に変わりつつある。
ジェイアール京都伊勢丹でも婦人服売り場を3層から2層に縮小。年齢に縛られず、好きなファッションを選ぶ顧客ニーズに応え、ファッションテイストや感性を基にフロアやゾーンを再編した。19年5月には、流行に敏感な“リア充女性”をターゲットにした「スタイルアップデート」ゾーンを4階に新設。駅ビルの人気ブランドを多数導入した他、SNSで話題のモノ・コトを週替わりで展開し、これまで百貨店に足を運ばなかった若年層の獲得を狙う。
5階「スタンダード&モダン」ゾーンでも価格帯を幅広く設定し、30~40代の新規客を取り込む。1万円台で上質なアイテムを展開するブランド「スタンプアンドダイアリー」とテキスタイルにこだわる「マーブルシュッド」を京都初導入。京都人の暮らしをイメージした売り場を構築し、リラックスして着られて、ものづくりにこだわったブランドを集積した。「19年8月のリニューアル以降、売り上げは前年比2ケタ増で推移している。強みをしっかり見せることで効率は上がっている」(担当バイヤーの野田陽子氏)。
一方、従来の顧客である中高年層の満足度を高めるサービスも強化した。売り場は縮小したものの、ホテルのバーをイメージした接客カウンターを設置。カラーアドバイスや骨格スタイル分析などのサービスを提供する「パーソナルアテンドデスク」も開設した。既存客に好評で、1日4、5件の予約があるという。
ファッションフロアの再編について浅田社長は「業界が厳しいのであれば、課題を明確にして解決すればいい。そのためにブランドの壁をなくし、お客様がストレスフリーで買い物を楽しめる環境を作った。多くの店頭社員がお客様をサポートできる態勢が我々の強み。売り場面積は縮小したが、前年並みの売り上げを確保していきたい」と意欲を見せる。
百貨店業界では地方や郊外店の閉店が相次ぎ、構造不況から脱却できず苦境に立たされる店舗が多い。顧客の高齢化や、消費スタイルの多様化などによる客数減が大きな要因となっている。そんななか、同店は安定した業績を維持し、売り上げはほぼ横ばいで推移。その原動力となっているのが京都駅の持つ圧倒的な集客力だ。年間入店客数は約2300万人。伊勢丹新宿本店や三越銀座店にも匹敵する集客力を誇る。しかもターミナル駅立地の特性である幅広い客層を強みとし、観光地京都を訪れる国内外の新規客も取り込みやすい。
「百貨店事業の厳しさを突破できる可能性の高い店舗なので、そのチャンスに向けて世界基準のMDをやり直した」と浅田社長。同店ならではの世界基準の店づくりがどこまで支持されるか注目される。
(写真/橋長 初代)