InstagramとFacebookに新機能が登場した。ストーリーズ投稿に好きな曲を追加できる「ミュージックスタンプ」だ。この機能は楽曲を提供するアーティストにも大きなメリットがある。Instagramの担当者、そしてパートナーシップを結んだエイベックスの担当者に話を聞いた。
ストーリーズに「音楽」がスタンプ可能に
数あるSNSの中で、Instagramの利用者数が増えていることは周知の事実だろう。2019年6月に発表された数字によると、日本でも3300万以上のアカウントが利用されている。その人気を押し上げている機能が「ストーリーズ」だ。
ストーリーズとは通常の「フィード」投稿とは異なる、24時間で自動消滅する投稿機能だ。静止画、動画、テキストの投稿が可能で、顔を加工するフィルターやさまざまな機能を持つスタンプに対応している。“消える”ことが前提のため、日常のシーンなどを気軽に投稿できる点が受けており、日本では1日のアクティブアカウントにおける利用率が70%に上る(2018年11月Instagram発表)。過去のストーリーズはプロフィール画面に「ハイライト」として保存が可能。お気に入りのストーリーズをカテゴリー別に並べているユーザーも多い。
このストーリーズに「ミュージックスタンプ」が、20年2月25日(日本時間)、新たにスタンプの1つとして追加された。これはストーリーズ投稿に好きな曲をスタンプとして貼り付けられる機能で、InstagramとFacebookの双方で利用できる。米国では18年6月に始まり、既に海外60カ国以上で提供されている。それがようやく日本でも使えるようになった。
ストーリーズは1投稿が最大15秒で、スタンプした楽曲も同じく最大15秒流せる。その際、曲の冒頭やサビの部分など、好きな部分を選んでスタンプできるのがポイント。曲と合わせて歌詞の一部をストーリーズに表示させたり、Instagramでは「質問」スタンプの回答としてミュージックスタンプを使ったりすることも可能だ。またFacebookに関しては、プロフィール画面に好きな曲を表示し、閲覧者が楽曲を再生できる機能が提供される。
今回、ミュージックスタンプの提供に当たり、エイベックス、ユニバーサル ミュージック、ポニーキャニオンといった名だたるレーベルがFacebookとパートナーシップを結んだ。ローンチ段階は三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、Official 髭男dism、Alexandros、あいみょん、DA PUMP、松任⾕由実、三浦⼤知といった人気アーティストが顔をそろえた(※一部アーティストの楽曲は2月25日以降、順次対応となる可能性あり)。その他のレーベルや楽曲数など詳細は明らかにされなかったが、Facebookではパートナー企業を順次増やしていく予定だ。
アーティストにとってもメリットが大きい
音楽業界でのプロモーション手段としては、テレビやラジオ、CD発売イベント、コンサートなどさまざまな方法がある。そうした中、ミュージックスタンプはSNSを使ったプロモーションにおいて強力な役割を果たしそうだ。
ミュージックスタンプのローンチと同時に楽曲の提供を行うエイベックス・エンタテインメントのレーベル事業本部で、デジタル戦略組織を管轄する第7C&Rグループゼネラルマネージャーの小井口悠氏によると、「SNSの音楽業界への影響は、サービスが始まった頃からあった」とのこと。しかし音楽に関する権利が侵害されたケースも多かったという。今回のミュージックスタンプについては、Facebook側が著作権処理に理解を示し、正当な手続きを踏んだことが参画への決め手となった。
「(海外で実装されていた)ミュージックスタンプについては既に知っていた。新しいものへの興味関心が高い会社なので、トライしてみたいという思いが強かった。Instagramとのパートナーシップでのメリットは、著作権処理をクリアにすることで作詞・作曲者やアーティストに還元できるようになったことが挙げられる。当然ながら原盤権を持つレーベルとしてのビジネスメリットもあるので、それら全てを加味してパートナーシップを組んだ」(小井口氏)
小井口氏のミュージックスタンプに対する期待は大きい。「FacebookやInstagramはコミュニティーの場として多くの人が使っている。音楽に限定した場所ではないところで、音楽に触れる機会が増えることになる。これまではテレビやラジオなどのメディアを通して音楽を広めていったが、これからはアクティブユーザーの方々がそれを担ってくれる。より多くの人に自分たちの音楽を聴いてもらいたいと考えているのは我々だけではない。アーティストにとっても喜ばしいことになるだろう」と、プロモーションツールとしての威力とともにアーティストの立場からも大きな役割を果たすとみる。
海外アーティストをInstagramでフォローしている人なら、これまでアーティストによるミュージックスタンプを付けた投稿を目にしたことがあるかもしれない。しかし、残念ながらスタンプをタップしても日本が対象地域でないため楽曲を再生できなかった。今後は海外の音楽を聴くことも、日本の音楽を海外の人が聴くこともできるようになる。「音楽はある意味、非言語。ミュージックスタンプを通じて海外に楽曲を届けられることも、大きな可能性として捉えている」と小井口氏は話す。
ファンベースを広げていける場所に
アーティストもレーベルも歓迎するミュージックスタンプだが、海外でのローンチから日本への導入までかなり時間がかかっている。この点についてInstagram Partnerships Strategic Partner Managerの綾尾康嗣氏は「日本ならではの事情があった」と打ち明ける。
「音楽マーケットは国によって権利関係が違うため、著作権管理団体の方々と個別に理解を得ながらパートナーシップを組んでいく方針だった。日本でのローンチに時間がかかったのは、きちんとパートナーのニーズを把握し、またどのような形でユーザーに提供するのがベストなのかを慎重に検証しながら進めたためだ」(綾尾氏)
日本でこうした権利が絡むようなサービスを提供するには、著作権管理団体、レーベル各社、配信会社、出版社、アーティストの理解と協力が不可欠。Facebookは今回これら全てをクリアにした。また、日本へのローカライズとして「演歌」など独自のジャンルを追加したという。
綾尾氏も、音楽のプロモーションツールとして今回の機能に自信をのぞかせる。
「Instagramでは趣味や興味を見つける方法としてハッシュタグ検索が使われる。ハッシュタグをフォローすれば、Instagram上で常に関心のある情報を見られる状態にもできる。Twitterはリアルタイムの拡散力は強いが、つながりをベースに伝わるInstagramは口コミに近いと考えている。知り合いから情報を得て、好きなアーティストを発見し、アーティストをフォローするという行動につながっていく。ファンベースを広げていける場所になる」(綾尾氏)
ユーザーが楽曲をどのように使っているのか、アーティストが自分の目で確認できるのも大きいだろう。またアーティスト自身もユーザーの一人として、自分のオーガニック投稿にミュージックスタンプを使える点も興味深い。綾尾氏はミュージックスタンプを付けたストーリーズを「ハイライト(プロフィール画面に保存したストーリーズを表示できる機能)」にプレイリストのように並べるなど、ユーザーのさまざまな使い方で広がりが期待できると考えている。
(写真/酒井康治、画像提供/Instagram)