「マンション住民専用」のMaaSが登場した。日鉄興和不動産は、自社が開発した分譲マンションにオンデマンド乗り合いバスを導入。2020年2月21日から運行を開始。ソフトバンクとトヨタ自動車が設立したMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ、東京・港)のシステムを利用しており、住人は専用アプリを利用してバスを呼び、近隣11カ所の乗降ポイントまで移動できる。

日鉄興和不動産が分譲マンションの住民向けに実験導入した車両
日鉄興和不動産が分譲マンションの住民向けに実験導入した車両

 2020年2月20日、日鉄興和不動産は同社が開発を手がけたマンション「リビオシティ・ルネ葛西」に、マンション向けMaaSの「FRECRU(フリクル)」を実験導入すると発表した。いわゆるオンデマンド型の乗り合いバスで、マンション住民専用であるところが新しい。まずは半年から1年程度の実験としてスタートする。日鉄興和不動産は「MONET コンソーシアム」のメンバーで、配車プラットフォームやスマホアプリにはモネ・テクノロジーズのシステムを利用する。

 FRECRUで使用する車両は、26人乗りのマイクロバス1台。7時から9時までは最寄りの葛西駅との間を往復するシャトルバスとして稼働し、9時半から23時まではオンデマンド乗り合いバスとなる。オンデマンド運行中は、住民は専用のスマホアプリを使って最短10分後からバスを予約し、近隣の駅や公園など11カ所の乗降ポイントに行くことが可能だ。乗車料金はシャトル便が1回200円、オンデマンド運行中は1回300円で、小学生以下は無料だ。シャトル便については駅までのバス運賃(210円)と同等で、オンデマンドについてはタクシーよりリーズナブルなので「ニーズはあるのではないか」(日鉄興和不動産常務取締役住宅事業本部長の吉澤恵一氏)と見込んでいる。

 駅から遠いマンションでは、シャトルバスが導入されているところもある。だがシャトルバスは「通勤通学用途がメインで、昼間の稼働率が低いのが課題」と吉澤氏は説明する。そこで昼間の時間帯をオンデマンド乗合バスとすることで稼働率を高める狙いだ。

日鉄興和不動産常務取締役住宅事業本部長の吉澤恵一氏(左)と、モネ・テクノロジーズ代表取締役副社長兼COOの柴尾嘉秀氏(右)
日鉄興和不動産常務取締役住宅事業本部長の吉澤恵一氏(左)と、モネ・テクノロジーズ代表取締役副社長兼COOの柴尾嘉秀氏(右)
オンデマンド運行時は専用のスマホアプリを使ってバスを予約できる
オンデマンド運行時は専用のスマホアプリを使ってバスを予約できる
予約は乗車場所と降車場所、人数を指定するだけでOK。時間指定もできる
予約は乗車場所と降車場所、人数を指定するだけでOK。時間指定もできる

 今回実証実験の舞台として選ばれた「リビオシティ・ルネ葛西」は、439世帯が入居する大規模マンションで、小さな子どものいるファミリー世帯も多い。最寄りの葛西駅まで徒歩18分かかり、多くの住民が駅までバスを利用する。さらに周辺エリアには公園や病院、異なる鉄道路線の駅などが点在することから、多様な移動ニーズがあるとして選定した。

 実験開始当初は駅、公園、ショッピング施設、病院など11カ所を乗降ポイントに設定。乗降ポイントはシステム上で柔軟に変更できるため、2、3カ月運用してデータを見ながら最適化していく。なお、本実験の運用主体はマンションの管理組合で、組合が日鉄興和不動産に委託する形をとっている。このため、白ナンバーの「自家用バス」として運用できるという。

 現地のマンションを訪れると、大規模な駐車場に、多くのクルマが止められている。これだけマイカーを持つ世帯が多ければ、あまり乗合バスの需要はないようにも見えるが、住民の方に話を聞いてみると、そうでもないようだ。まず、同マンションでは駐車場の数が足りておらず、マンションから離れた場所に駐車場を借りている住民も数多くいるという。このため平日のちょっとした移動にクルマを使うにはハードルが高い。

 小さい子どもがいる主婦からは、「都営バスはベビーカーが2台までしか乗れないため、せっかくバスが来ても乗れないことがある」という不満の声も聞かれた。また通勤・通学の時間帯は駅までのバスが非常に混雑し、「朝は1台目のバスにはまず乗れない(住民男性)」とのこと。そんな状況を考えると、今回の「マンション住民専用バス」のニーズは大きそうだ。

ドアの脇にベビーカー置き場を用意
ドアの脇にベビーカー置き場を用意
チャイルドシートも用意されており、子連れでの移動にも配慮している
チャイルドシートも用意されており、子連れでの移動にも配慮している
乗車時にQRコード決済のPayPayで料金を支払えるほか、マンションのラウンジカウンターで専用チケットを購入できる
乗車時にQRコード決済のPayPayで料金を支払えるほか、マンションのラウンジカウンターで専用チケットを購入できる

 吉澤氏は「今回の実証実験でニーズがあると分かれば他のマンションにも展開していきたい」と意欲を見せる。同じエリアにある複数の物件でバスを共有する形も考えているという。

 また現在、駅から近い便利な立地が重視され、首都圏の新築マンション価格は高騰している。だが、FRECRUのようなマンション向けMaaSによって郊外で駅から遠い土地を活用できるようになり、「便利かつ安価」なマンション開発ができるのではないか、と吉澤氏は展望を語った。

 FRECRUの想定利用者数は、シャトル運行で100人、オンデマンド運行で100人程度。だが損益分岐点を超えるにはもう100人ほどの利用が必要だという。何人の住民がどのくらいの頻度で利用するのか、興味深いところだ。日鉄興和不動産の新しい試みが、立地重視のマンション市場を変えるきっかけになるのか、注目される。

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