近年、日本では空前のネコブーム。ネコを飼いたい人が増えてはいるが、ペット飼育可能な物件はまだまだ少ない。そんな中、「ペット共生型賃貸」という賃貸物件が増えている。「飼育可」ではなく「共生」がポイント。ニーズが高い割に供給が少なく、不動産業界ではブルーオーシャンと見られている。

ネコ共生型賃貸の壁にはキャットウォークが取り付けられている物件が多い
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ネコと飼い主が楽しく暮らせる工夫が満載

 ペットフード協会が毎年実施している全国犬猫飼育実態調査によると、2017年からネコの飼育数が犬の飼育数を上回った。空前のネコブームにある日本だが、ネコの飼育ができる物件に引っ越したいと思っても、数が少なくてなかなか見つからない。そこで最近注目されているのが、ネコに特化した「ペット共生型賃貸」だ。「ペット飼育可」の物件はよく耳にするが、「共生」とは何が異なるのか。

 賃貸物件の管理・運営を手掛けるハウスメイトマネジメント(東京・豊島)は数年前からペット共生型賃貸を扱ってきた。同社ソリューション事業本部コンサルティング営業室課長の伊部尚子氏によると、ネコに特化したペット共生型賃貸とは「ネコが快適に暮らせて、ネコが快適に暮らしている姿を見て飼い主も幸せになれる家」のことで、ペット飼育可の物件とは異なるという。

 例えばネコが吐いたり粗相をしたりしても、掃除がしやすく、走り回っても滑りにくい床材を使っている。脱走防止のため網戸にロックがかかっている。ネコが登れるようなキャットウォークがある。下から肉球を観察できるよう、ガラスやアクリル板でできたキャットウォークがある――など、ネコと飼い主が楽しく暮らせる工夫がちりばめられているのが特徴だ。

ネコが爪とぎをしても傷つきにくいクロスを採用。ネコが窓から外を眺められる高さにもキャットウォークが設置されている
ネコが爪とぎをしても傷つきにくいクロスを採用。ネコが窓から外を眺められる高さにもキャットウォークが設置されている
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 つまり、ネコがストレスなく暮らせて、飼い主もネコをかわいがれる環境が整っている賃貸なのだ。当然ネコ好きから人気があり、伊部氏は今まで新築で8棟手掛けている。さらにハウスメイトマネジメントと共にペット共生型賃貸のブームをけん引してきたクラシヲ(東京・葛飾)の杉浦雅弘社長が手掛けた物件は、約400戸にも上る。

空室対策と経営の安定策として生まれた

 「私たちは普段、どうしたら空室を出さずに高い家賃が設定でき、オーナーさんの経営が安定するかを考えている」と伊部氏。できるだけ退去を出さないためにはどうしたらいいか検討する中、生まれたのがネコのペット共生型賃貸だった。

 「ネコが飼育できる賃貸住宅は、ニーズがあるのに供給が少なく“ブルーオーシャン”」と伊部氏は見る。犬を飼うための設備だと、散歩で外に出すための足洗い場などが必要になる。その点、ネコは規約さえ決めてしまえば室内で完結できるのもメリット。リスクヘッジさえできれば、トライしやすいのがネコ用のペット共生型だそうだ。

 実際に成功しているケースがいくつかある。例えばJR金町駅から徒歩14分の場所で、風呂無しアパートをネコのペット共生型賃貸に建て替えた物件がある。そこは周囲よりも高い家賃でも、竣工と同時に入居者が次々決まったという。「入居したのは葛飾区で物件を探していた人ではなかった。新築でネコが飼える物件はほぼないので、とてもうまくいった」と伊部氏は振り返る。

入居者に好評で、長く住んでもらえることが多いという
入居者に好評で、長く住んでもらえることが多いという
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 通常は古くなったマンションの空室対策や駅から遠い物件、高い家賃を設定しないと利回りが出ない物件など、それぞれの事情があってペット飼育可にする傾向があるそうだ。ただ、ペット飼育可といっても犬は可だがネコは不可、もしくはネコ1匹までなら可、というところが多い。

 前述のようにペット共生型賃貸は単に「飼ってよい」としているペット可の物件とは異なり、ペットのことを考えて室内が作られている。さらに複数のネコの飼育も可能にしている物件が多いため、「次の引っ越し先が見つかりづらいので、長く住んでもらえる。『ずっと探していました』と言ってくださる入居者が多い」と伊部氏は話す。そこにやりがいを感じているそうだ。

ペット共生型賃貸が劇的に増えない理由

 そうはいっても、マンションやアパートオーナーの中には「ネコは駄目」という人もまだまだ多い。ネコによっては退去後の室内の状態がボロボロになっている可能性もある。「ネコで嫌な思いをしたオーナーさんが一定数いるので、ニーズが高くても、リスクを考えるとオーナー側の心理がまだ追いついていない」と伊部氏。

 不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」を運営するリクルート住まいカンパニー(東京・港)によると、ペット共生型については不明だが、SUUMOに掲載されている全国約569万件の賃貸物件のうち、「ペット可」もしくは「ペット相談」となっている物件の比率は15.5%程度だそうだ(20年2月現在)。それをベースに考えると、ペット共生型賃貸の供給はさらに少ないと推測される。

階段の下に隠れる場所もある
階段の下に隠れる場所もある
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 それでも過去の実績を基に、「オーナーを説得していきたい」と伊部氏は意気込む。「強化クロスで壁に傷が付きにくくしたり、ネコが遊べる工夫をしてストレスがたまらないようにすれば、壁紙をひっかいたりはしない。既に新築を8棟を手掛けたが、被害は出ていない。こんなにはっきり分かっている“ブルーオーシャン”はないので、強く勧めて間違いないと思っている」(伊部氏)。

こうした住空間の工夫は、ネコ好きでなければ分からないかも……
こうした住空間の工夫は、ネコ好きでなければ分からないかも……
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 物件の宣伝については「既存のポータルサイトで十分やっていける」(伊部氏)とのこと。ペット可で検索をかけたときに「小型犬一匹のみ」などの物件が多い中で、貴重な「ネコ複数飼育可」は目立つ。

 また、クラシヲではいつかネコを飼いたいと思っている顧客も抱えているという。伊部氏いわく「クラシヲはペット相談の窓口を設けていて、電話やメールができる仕組みを作っている。獣医やペットシッターなどの専門家ともつながっている」とのことで、手厚いサポートによって顧客を取り込んでいるそうだ。

増えてきた「コンセプト賃貸」

 伊部氏によると、最近は「コンセプト賃貸」が増えてきているという。コンセプト賃貸とは、ネコと一緒に暮らせる、子育て世帯が集まっている、楽器を演奏する人のためのマンションや、DIYができる賃貸物件など、テーマのある賃貸物件のことだ。

 特に伊部氏が力を入れているのが「DIY可能」物件。原状回復なしで、賃貸にもかかわらずDIYができる物件だ。作ったものはそのまま残して退去していいという。驚いたことに、築40年近い物件でも入居者が決まるという。

 「築古物件は賃貸料が安くなっても仕方ないとオーナーさんが諦めてしまっている。そこは逆転の発想で、古いからこそ自由にDIYをしてよいということにすれば、価値が生まれる」(伊部氏)

 トラブルが起こらないようにDIYのルールを取り決め、建築基準法や消防法を分かりやすくしたガイドラインの作成も行っているという。

DIY可の物件は、壁のリフォームなども可能-
DIY可の物件は、壁のリフォームなども可能-
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 ただし、コンセプト賃貸はエリアとターゲットを間違えると失敗することもあるという。「例えばコミュニティー賃貸の場合、テラスハウスが並んでいて、真ん中に道があって、ベンチが置いてあっても、誰もコミュニケーションを取っていない失敗例もあるようだ」(伊部氏)。

 ハウスメイトが企画して成功しているコミュニティー賃貸の場合、オーナーがコミュニケーションのハブとなり、納涼祭やバーベキューを行うこともあるという。コンセプトによってはハード面だけでなく、そこで暮らすライフスタイルを支えるソフト面も大切なポイントだ。

 少子高齢化や人口減少と並び、昨今は厳しい一面もある不動産業界。しかし現状を丁寧に見ていくと、盛り上がる可能性を秘めたニーズが眠っているようだ。特に今後、単身者や共働きなど家を空ける時間が多い家庭が増えてくると、散歩の必要がなく、留守番をさせやすいネコとの共生に対する需要がより高まることが予想される。ネコに限らず、そうした“コンセプト”をいかに発掘するかが業界にとって腕の見せどころとなるだろう。

ただ「飼う」のではなく
ただ「飼う」のではなく
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(写真提供/ハウスメイトパートナーズ)