アイ・オー・データ機器が2020年1月22日に正式運用を開始した「PlatCast(プラットキャスト)」は、クラウドを使って実況中継ができる音声配信サービスだ。スポーツ競技やイベントの会場内で行う実況中継での利用を想定している。会場への集客や競技の魅力発信に役立つほか、スポンサーの宣伝を流すなど広告ツールとして利用できるという。

「PlatCast」を申し込むと、セットアップ済みの機材が届く。ヘッドセットをミキサーに挿し込めば機材の準備は完了だ
「PlatCast」を申し込むと、セットアップ済みの機材が届く。ヘッドセットをミキサーに挿し込めば機材の準備は完了だ

 最大の特徴は、操作が簡単でネット配信の経験や知識がなくても扱えることだ。機材はレンタルで、申し込むとミキサー、ヘッドセット、配信用タブレットなどの機材一式がセットアップ済みの状態で届く。あとはヘッドセットのジャックをミキサーに挿し込み、配信サイトにアクセスするためのQRコードを印刷して会場内に張り出したり、SNSにURLを掲載したりなどして告知すれば準備は完了だ。タブレットに表示される配信ボタンをタップすれば配信が始まり、ヘッドセットに向かってしゃべるとクラウドのサーバーを経由して聴き手のスマートフォンに声が届く。

操作画面は音声配信の開始/停止、BGMなどを流すWAVファイル配信の開始/停止とそれらの音量調節のみでシンプルだ
操作画面は音声配信の開始/停止、BGMなどを流すWAVファイル配信の開始/停止とそれらの音量調節のみでシンプルだ

 聴く側の操作も簡単だ。配布されたQRコードをスマホで読み取ると、Webブラウザーが起動して配信ページと受信ボタンが表示され、タップすれば聴ける。専用アプリは不要だ。

 配信コストは安い。レンタル費用は機材の輸送費や配信の通信費用込みで1日3万円からで、約3000人に同時配信できる。例えばスポーツ競技の会場に館内FM放送設備を設置して放送を行うと、場合によっては十数万円の費用がかかるという。人数分の受信機も必要だ。PlatCastはその数分の1程度の費用で済む。

 アイ・オー・データ機器 事業戦略本部 企画開発部 企画開発2課 澤田和臣チーフリーダーは「コンパクトで電源さえあればどこでも使えることや、操作が簡単でITリテラシーの低い人でも使えること、低コストで運用できることが強み。例えば専用アプリのダウンロードが必要となると、それだけで敬遠されてしまう。聴く側にスマホとイヤホンを用意してもらう必要はあるが、データ通信量を抑えてあるので通信料の負担は少ない」と語る。

アイ・オー・データ機器 事業戦略本部 企画開発部 企画開発2課 澤田和臣チーフリーダー
アイ・オー・データ機器 事業戦略本部 企画開発部 企画開発2課 澤田和臣チーフリーダー

 主なターゲットはスポーツ分野だ。2018年に試験運用を始めたときに女子バレーボールの試合で使用してもらったところ好評だった。

 「日本バレーボール協会からの話で、試合の来場者を増やしたい、来場者に競技への理解を深めてもらい、ファンになってほしいといった要望があった。そこでこのシステムで観戦者向けに解説を配信したところ、利用者からも日本バレーボール協会からも好評だった。実況解説をつけることで観戦している人に面白さが伝わりやすくなり、ファンを増やすことにつながるのではないか」(澤田氏)

 そこから各スポーツ協会やイベント主催者の間で評判が広がり、バスケットボール、カヌー、フットサル、シクロクロス、セパタクロー、アイスホッケー、カーリング、ラウェイ、ゴールボールなどさまざまな競技の会場で利用されるようになった。リピートして何度も利用する主催者が増え、19年夏には世界柔道2019で利用されたことなどから、正式サービスに踏み切った。

低コストで実況中継ができ、競技の魅力発信に役立つ(写真提供/アイ・オー・データ機器)
低コストで実況中継ができ、競技の魅力発信に役立つ(写真提供/アイ・オー・データ機器)

 ネット配信に不慣れなスポーツ関係者や観戦者が使いやすいように操作を簡単にし、機材をセットアップ済みの状態にして送るなどの工夫を重ねてきたことで、これまで大きなトラブルはないという。

 集客や魅力発信だけでなく、主催者にとってスポンサーを集めやすくなる広告ツールにもなるという。「例えばフットサルのハーフタイムなど競技の合間時間や試合の前後の時間などに、スポンサーに来てもらってしゃべってもらう、CMを流すといったことができ、スポンサーにアピールしやすくなる」(澤田氏)

 今後はスポーツの試合だけでなくさまざまなイベント、例えば地域のお祭り、花火大会、学園祭、同時通訳などでの利用も視野に入れている。小規模なイベントやスポーツの試合は数多くあり、需要は大きいと見ている。

 課題は、配信サイトを告知して広げる方法と、スポーツ実況ならルールに詳しい解説者を呼ぶなど、しゃべる人を適切に選ぶことだという。

 「スマホを使った実況中継を行うことや、聴く方法をしっかり告知しないと聴いてもらえない。また、その競技について詳しく、面白さを伝えられる人を起用してしゃべってもらわないと魅力発信につながりにくい。例えばその競技の元選手などを起用すれば、魅力発信とともにその人のセカンドキャリアにもつながるのではないか」(澤田氏)

 ラグビーワールドカップ2019日本大会では、テレビ中継の分かりやすい解説がラグビーファンを増やし、大会を盛り上げる一助となった。PlatCastはテレビやラジオの中継などが入らない競技でも、低コストでルール説明や解説などを実況中継で発信できる。競技への理解を深めてもらい、人気を拡大するための有効なツールと言えそうだ。

(写真/湯浅英夫)