不動産管理・仲介事業を展開する宅都ホールディングス(大阪市)は2020年2月4日、がん患者と付き添い家族のQOL(生活の質)向上を目的とした宿泊施設「ラクスケアホテル」を開業した。あえて“がん患者向け”を掲げて差異化を図ったホテル誕生の背景を探った。

がん患者とその家族をメインターゲットにするケアサポート型宿泊施設「ラクスケアホテル」のスイートルームは約68平方メートルで分譲マンション並みの広さ。定員は5人。家族やグループでゆっくりくつろげる和室は、寝室としても利用できる
がん患者とその家族をメインターゲットにするケアサポート型宿泊施設「ラクスケアホテル」のスイートルームは約68平方メートルで分譲マンション並みの広さ。定員は5人。家族やグループでゆっくりくつろげる和室は、寝室としても利用できる

車椅子で全身浴を体験できるユニバーサルルームも

 日本人の2人に1人がかかるといわれるがんだが、最近は入院するよりも通院や在宅で治療を受ける患者の割合が増えているという。ただ、長期の治療や検査が必要になるケースが多く、がん患者と家族が安心して治療に向き合えるサポートづくりが求められている。

 今回誕生した「ラクスケアホテル」は人気観光スポットの大阪城や大阪府庁にほど近い地下鉄谷町4丁目駅から徒歩約4分の場所にある。17年3月に開院した大阪国際がんセンターの目と鼻の先で、国内トップクラスの先進的がん治療に取り組む同センターの連携宿泊施設として初めて指定を受けた。

ラクスケアホテルの外観。ラテン語で「光」を意味する「ラクス」と英語で「看護」を意味する「ケア」をかけ合わせ、希望の光が注ぐようなホテル空間をイメージして名付けられた
ラクスケアホテルの外観。ラテン語で「光」を意味する「ラクス」と英語で「看護」を意味する「ケア」をかけ合わせ、希望の光が注ぐようなホテル空間をイメージして名付けられた
ラクスケアホテルの立地は大阪国際がんセンター(写真)や大阪重粒子線センターから歩いてすぐ。がんセンターの連携宿泊施設に指定され、通院中の患者は宿泊料金が割引される
ラクスケアホテルの立地は大阪国際がんセンター(写真)や大阪重粒子線センターから歩いてすぐ。がんセンターの連携宿泊施設に指定され、通院中の患者は宿泊料金が割引される

 患者の負担を軽減する設備やケアサービスを提供することで他のホテルとの差異化を図り、インバウンド需要にも対応する。地上14階建てで客室数48室。1階がカフェレストラン、2階がフロントラウンジ、3~14階が客室の構成で、病状や宿泊期間、宿泊人数などに合わせて選べるようタイプの異なる客室を用意した。

 例えば3~4階に導入した8室のユニバーサルルームは、リハビリのプロである作業療法士や理学療法士が、使い勝手のいい客室レイアウトや快適な設備などを監修。家具やトイレ、手すりの位置や高さに配慮し、車椅子でも利用しやすい設計デザインを採用している。

全48室のうち8室が車椅子利用でも快適に過ごせるユニバーサルルーム。電動リクライニングベッドはテンピュールの「Zero-G」を採用。車椅子やベッド用手すりも借りられる
全48室のうち8室が車椅子利用でも快適に過ごせるユニバーサルルーム。電動リクライニングベッドはテンピュールの「Zero-G」を採用。車椅子やベッド用手すりも借りられる

 浴室には車椅子対応のミスト付きシャワー室を完備。広い室内で車椅子のまま出入りでき、ミストシャワーで全身浴が楽しめる他、電動昇降式洗面台は高さを自由に調整できる。ベッドはテンピュール社の電動リクライニングベッド「Zero-G」を導入。ボタン一つで無重力空間にいるようなポジションでの睡眠姿勢を体験できるのも魅力だ。

 13~14階のスイートルームは約68平方メートルの広さにツインベッドルームと和室、リビング、ミニキッチンとランドリーを備えたコンドミニアム仕様。最大5人まで収容可能で、長期滞在やゆったりぜいたくにくつろぎたいというニーズに対応する。11~12階の和洋タイプは、約36~38平方メートルでファミリーやグループ向け。琉球畳の和室には布団が用意されている他、2つの部屋を1つにつなげることも可能で、最大8人まで利用できる。

ユニバーサルルームには、車椅子対応のミストシャワーや高さを調整できる洗面台を完備。トイレは立ち座りがしやすいよう少し高めに設置されている
ユニバーサルルームには、車椅子対応のミストシャワーや高さを調整できる洗面台を完備。トイレは立ち座りがしやすいよう少し高めに設置されている

 客室の特徴について児玉憲彦支配人は「高齢者向け施設や病院に導入されている福祉設備のなかでも、デザイン性の高いものを採用した。大阪国際がんセンターに隣接する大阪重粒子線センターの場合、治療回数が平均12回、2~3週間におよぶケースもある。遠方から訪れる方も多く、闘病生活に希望を与えるような空間でゆったり過ごしてもらいたい」と話す。

 宿泊料金はスタンダードダブル4400~5500円、ユニバーサルツイン6325~1万1000円、和洋ファミリールーム5500~1万6500円、スイートルーム2万1780~10万8900円など(1人当たりの参考料金、プレオープン特別価格プラン、税込み)。がんセンター指定宿泊施設の特典として、患者と家族限定で申込価格から20%割引されるのも特徴だ。

看護師資格を有するスタッフが滞在中の生活をサポート

 ハード面だけでなくソフト面の充実も見逃せない。がんに対する不安を少しでも和らげるため、患者の負担を軽減するケアサポートサービスを提供。看護師資格を有する専属スタッフを採用し、日中常駐して担当医や担当看護師との連絡や相談をサポートする他、バイタルサインのチェックや食事摂食への配慮、手浴・足浴、口腔ケア、漢方医学の治療法などのサービスを無料で行う。

 近隣のクリニックやかかりつけ医療機関と連携して術前術後の支援を行う他、介護サービス事業者と連携し、ケアスタッフを特別価格で紹介。滞在中の介護補助、付き添い、買い物代行などのサービスも利用可能だ。

スイートルームには、キッチンとリビング、ランドリーを完備。上質で落ち着いたインテリア空間は長期滞在やちょっとぜいたくな宿泊にお薦め
スイートルームには、キッチンとリビング、ランドリーを完備。上質で落ち着いたインテリア空間は長期滞在やちょっとぜいたくな宿泊にお薦め

 さらに、大阪国際がんセンターの医師や大学教授などの外部有識者を中心に構成された臨床栄養委員会が監修した食事メニューを、1階カフェレストランで味わえる。同じ料理を自宅でも作れるようメディカルレシピとして提供するという。

 「他のホテルではできないことに取り組み、ケアサポート型ホテルとして居心地のいい宿泊施設を目指す」と語るのは、宅都ホールディングスの太田卓利社長だ。実は太田社長もがんサバイバー。働き盛りの30歳のとき、大腸がんを経験した。

和洋ファミリールームは、コネクティング可能で最大8人まで宿泊できる。大人数で宿泊する外国人旅行者のニーズにも対応可能だ
和洋ファミリールームは、コネクティング可能で最大8人まで宿泊できる。大人数で宿泊する外国人旅行者のニーズにも対応可能だ
スタンダードツインでも約22~24平方メートルとゆとりある広さを確保。ベッドは全室、米国シーリー社製で、ラグジュアリーな寝心地を味わえる
スタンダードツインでも約22~24平方メートルとゆとりある広さを確保。ベッドは全室、米国シーリー社製で、ラグジュアリーな寝心地を味わえる

 「職場に復帰できるのかどうか分からない不安や絶望感に襲われながらも、家族や友人らの支えがあり、がんと闘う覚悟ができた」と振り返る。そのときの経験から「がん患者の心のケアは身近な人が支えるしかない。患者と家族にとって希望の光になる場所をつくりたい」という思いに至り、ラクスケアホテルが誕生した。

関連機関と連携し、医療ツーリズム市場に参入

 宅都ホールディングスの中核企業である宅都は1998年、賃貸物件の仲介事業会社として創業。ウェブサイトを活用した集客をいち早く導入し、関西と首都圏で不動産の仲介・管理・開発事業を拡大してきた。17年からは賃貸マンションを転用したコンドミニアム型ホテルで民泊事業に参入し、6棟を展開。国内最大の民泊物件ポータルサイトとも業務提携し、大阪市内に19棟の民泊投資物件を提供している。

 同社が今注力しているのがインバウンドニーズへの対応だ。民泊事業への参入、外国人スタッフの採用と、今後さらなる増加が見込まれるインバウンド市場でのシェア獲得を目指している。ラクスケアホテルでは当面、日本人客をメインターゲットに設定しているが、外国人の患者と家族も想定。大阪重粒子線センターの管理業務を担うシップヘルスケアホールディングスの子会社、メディカルツーリズムジャパンと連携し、日本の高度な医療サービスを受ける目的で来日する外国人の受け入れ準備を進めている。

 日本政策投資銀行の試算(10年発表)によると、日本に医療観光で訪れる外国人は20年時点で年間43万人程度の潜在需要があるとみられている。市場規模は約5500億円、経済波及効果は約2800億円とされ、成長産業として期待されている。ただ、多言語対応など受け入れ体制の整備の問題もあり、海外の医療観光客はタイやシンガポール、マレーシアなどに流れているのが現状だ。がん患者と家族の長期滞在に対応し、医療機関とも連携したケアサポート型宿泊施設ラクスケアホテルの開業は、医療ツーリズムの課題解決にもつながる一歩となるだろう。

 一方、不動産業界のイノベーターを目指す同社にとっては新たなマーケット開拓の大きなチャンスとなる。「賃貸ビジネスの多様化が進むなか、ホテル事業では高齢者と外国人がメインターゲットになる」と太田社長。今後はサービスの充実や見直しを図りながら、医療機関との連携強化など仕組みづくりにも取り組む考えだ。

看護師資格を持つ専属スタッフによる心のケアサポートの他、睡眠前のリラクゼーション効果が期待できる「マシュマロ・タッチ」など充実したケアサービスが用意されている
看護師資格を持つ専属スタッフによる心のケアサポートの他、睡眠前のリラクゼーション効果が期待できる「マシュマロ・タッチ」など充実したケアサービスが用意されている

(写真/橋長 初代)