看護師資格を有するスタッフが滞在中の生活をサポート
ハード面だけでなくソフト面の充実も見逃せない。がんに対する不安を少しでも和らげるため、患者の負担を軽減するケアサポートサービスを提供。看護師資格を有する専属スタッフを採用し、日中常駐して担当医や担当看護師との連絡や相談をサポートする他、バイタルサインのチェックや食事摂食への配慮、手浴・足浴、口腔ケア、漢方医学の治療法などのサービスを無料で行う。
近隣のクリニックやかかりつけ医療機関と連携して術前術後の支援を行う他、介護サービス事業者と連携し、ケアスタッフを特別価格で紹介。滞在中の介護補助、付き添い、買い物代行などのサービスも利用可能だ。
さらに、大阪国際がんセンターの医師や大学教授などの外部有識者を中心に構成された臨床栄養委員会が監修した食事メニューを、1階カフェレストランで味わえる。同じ料理を自宅でも作れるようメディカルレシピとして提供するという。
「他のホテルではできないことに取り組み、ケアサポート型ホテルとして居心地のいい宿泊施設を目指す」と語るのは、宅都ホールディングスの太田卓利社長だ。実は太田社長もがんサバイバー。働き盛りの30歳のとき、大腸がんを経験した。
「職場に復帰できるのかどうか分からない不安や絶望感に襲われながらも、家族や友人らの支えがあり、がんと闘う覚悟ができた」と振り返る。そのときの経験から「がん患者の心のケアは身近な人が支えるしかない。患者と家族にとって希望の光になる場所をつくりたい」という思いに至り、ラクスケアホテルが誕生した。
関連機関と連携し、医療ツーリズム市場に参入
宅都ホールディングスの中核企業である宅都は1998年、賃貸物件の仲介事業会社として創業。ウェブサイトを活用した集客をいち早く導入し、関西と首都圏で不動産の仲介・管理・開発事業を拡大してきた。17年からは賃貸マンションを転用したコンドミニアム型ホテルで民泊事業に参入し、6棟を展開。国内最大の民泊物件ポータルサイトとも業務提携し、大阪市内に19棟の民泊投資物件を提供している。
同社が今注力しているのがインバウンドニーズへの対応だ。民泊事業への参入、外国人スタッフの採用と、今後さらなる増加が見込まれるインバウンド市場でのシェア獲得を目指している。ラクスケアホテルでは当面、日本人客をメインターゲットに設定しているが、外国人の患者と家族も想定。大阪重粒子線センターの管理業務を担うシップヘルスケアホールディングスの子会社、メディカルツーリズムジャパンと連携し、日本の高度な医療サービスを受ける目的で来日する外国人の受け入れ準備を進めている。
日本政策投資銀行の試算(10年発表)によると、日本に医療観光で訪れる外国人は20年時点で年間43万人程度の潜在需要があるとみられている。市場規模は約5500億円、経済波及効果は約2800億円とされ、成長産業として期待されている。ただ、多言語対応など受け入れ体制の整備の問題もあり、海外の医療観光客はタイやシンガポール、マレーシアなどに流れているのが現状だ。がん患者と家族の長期滞在に対応し、医療機関とも連携したケアサポート型宿泊施設ラクスケアホテルの開業は、医療ツーリズムの課題解決にもつながる一歩となるだろう。
一方、不動産業界のイノベーターを目指す同社にとっては新たなマーケット開拓の大きなチャンスとなる。「賃貸ビジネスの多様化が進むなか、ホテル事業では高齢者と外国人がメインターゲットになる」と太田社長。今後はサービスの充実や見直しを図りながら、医療機関との連携強化など仕組みづくりにも取り組む考えだ。
(写真/橋長 初代)