誰もが移動を諦めない世界へ──。障がいを持っていても、高齢者でも、公共交通を使ってスムーズに移動できるようにと産官学が手を組んだ。全日本空輸(ANA)と京浜急行電鉄(京急電鉄)、横須賀市と横浜国立大学が「Universal MaaS(以下、ユニバーサルMaaS)」という名前で、2020年度にもサービス化すると発表した。その全貌とは?
横須賀市の京急馬堀海岸駅。列車が近づく数分前、スロープを脇に抱えた駅員がホームに現れた。手にはiPad。時間通りに列車が到着し、ドアが開くと、駅員は素早くスロープを設置し、車いすの女性に手を差し伸べた。スムーズに下車を終えると、列車は次なる駅へと旅立った。これが、ユニバーサルMaaSの世界観だ。19年から実証実験を重ね、20年度中にサービス展開できる見通しが立った。
ユニバーサルMaaSとは、さまざまな交通手段を統合し、1つのサービスとして乗り継ぎやすく提供するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の概念に、誰もが使いやすい「ユニバーサルデザイン」の思想を重ねた造語。誰もが行きたいときに、行きたい場所に何不自由なく移動できる世界を構築するのが目標だ。
そのためにプロトタイプとなる2つのアプリを開発した。駅員が持っていたiPadには、事業者専用のアプリが搭載されている。車いす利用者が今、どこにいて、どんな車いすに乗り、どんな介助が必要なのかといった情報が、写真付きで分かる。あらかじめ設定した範囲内に車いす利用者が近づくと通知が届く仕様で、駅員はそれまで他の業務に集中できる。
一方、利用者向けのアプリには、車いすでも確実に通れる駅などを結んだバリアフリー対応ルートが優先的に表示される。途中の駅名はもちろん、駅から先のバス停や、バス停を降りてから目的地までの経路も検索できる。さながら「車いす用のカーナビ」だ。
ヴァル研究所(東京・杉並)が「駅すぱあと」で提供する乗り継ぎ検索機能と、全国の車いす利用者の口コミを集めたデータベース「WheeLog(ウィーログ)」を掛け合わせることで、車いすに乗っていてもアプリの指示通りに動くだけで、ドアツードアで時間通りに到着できるようにしたのだ。
きっかけは祖母の笑顔
このプロジェクトは、ANAの1社員のアイデアから生まれた。発案者は、MaaS推進部の大澤信陽(のぶあき)氏。きっかけは3年半前、岡山県に住む車いす利用者の祖母(94歳、当時91歳)の笑顔を見たことだった。
「東京にいるひ孫に会いたいが、他人に迷惑をかけたくない。嫌な思いをしたくないとずっと躊躇(ちょうちょ)していた。念願かなって対面できたとき、本当に見たことがないぐらいの笑顔で『生きていてよかった』と言ってくれた。この生きる証、生きがいを他のお客様にもぜひ味わってほしい」(大澤氏)
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