リュック通勤者が増え、混雑した車内では「前持ち」が推奨される昨今。かばんメーカーのエース(東京・渋谷)は、前持ちで最も使い勝手がいいようにデザインしたビジネスリュックをアパレルブランドと共同開発した。家から会社まで「基本、前持ち」のリュックは新たなトレンドとなるか。
通勤リュック人気、スマホの普及で拍車
2020年3月7日に発売する新製品は、エースのバッグ&ラゲージブランド「ace.」とアパレルブランドを手掛ける「SOPH.」(ソフ、東京・港)との初コラボ企画から生まれた前持ちリュック、その名も「フロンパック(FRONPAC)」。通勤時に混雑する車内でのマナー問題に端を発した「前持ち」というスタイルに着想を得て開発した商品で、「従来の概念を覆す、前に持つことを前提としたデザイン」が特徴だ。
11年に起きた東日本大震災はビジネスパーソンの通勤スタイルにも大きな変化をもたらした。今や日常的な光景となった「リュック通勤」もその1つ。「歩きやすい格好で通勤しよう」という機運が高まり、服装のカジュアル化に伴いビジネスリュックの需要も右肩上がりに伸びているという。
エースの場合、主要ブランドによる19年のビジネスリュック販売個数は、震災前年の10年と比べて12.8倍にまで拡大した。19年だけでも対前年140%と勢いは衰えていない。もはやビジネスリュックは一時的なブームではない定番と化しており、男性の通勤バッグの代名詞だった手提げ型ブリーフケースに取って代わりつつあるようだ。実際、ビジネスバッグを主力とするace.GENE LABEL(エース ジーン レーベル)の旗艦シリーズである「EVLシリーズ」の場合、ブリーフ対リュックの生産比率は16年時点で9対1だった。これが19年は6対5となり、今や生産量ではほぼ肩を並べるまでに成長している。
ビジネスリュックの需要をここまで押し上げるのは、重い荷物を楽に運べるという理由だけではないだろう。「今は両手を自由にしたいというニーズが高まっている。スマートフォンの普及がリュック需要の背景にあるのでは」とエースマーケティング本部マーケティング部PR・広報担当チーフの森川泉氏は見る。総務省の「情報通信白書 平成30年版」によると、スマホの世帯保有率は10年は9.7%。これが17年には75.1%と飛躍的に伸びた。スマホの操作には、やはり両手が便利。その辺りの時代の変化も、ビジネスリュックの需要を後押ししたのは間違いないだろう。
基本が「前持ち」で、背負うこともできる
最近のリュックの人気傾向は、マチ幅が10センチ以下の「薄型」。ペーパーレス化で書類はタブレット端末に集約し、パソコンも持ち歩かないようなミニマル志向を意識したデザインが特徴だ。その一方で出張にもリュックで赴く人や、ノマドワーカーにも便利な20リットル程度の大容量タイプもよく売れるという。薄型と大型の二極化、これが現在の顕著なトレンドだ。
さて、backpack(背負う荷物)ならぬfrontpack(前持ち)を商品名に生かしたフロンパック。一時的に前に持つというのではない。家を出てから会社に着くまで、前持ちするのが基本だ。「背負っても通常のリュックと同じように使えるが、前持ちで最も使い勝手がいいようにデザインした」(森川氏)という従来品にない発想が見た目と機能を特徴づける。
前持ちのメリットは混雑する車内で邪魔になりにくいとか、前方にスペースが確保できるので他の乗客とくっつかずに済むだけではない。財布などの小物が取り出しやすく、盗難防止になり、雨の日は傘からはみ出しにくい。さらに厚みが薄ければ階段の上り下りの際に足元が見やすくなる。今回発売する3タイプのうち、最薄型のマチはわずか6センチしかない。
「通勤の途中、『この人は基本、前持ちだな』と思われる人が、既に都心部では増加傾向にある。フロンパックは『リュックを前に持つ』という新しい流れをいち早くとらえて、機能の前面に打ち出したチャレンジングな商品」とエースMD本部MD統括部マネージャーの吉原勇一氏は意欲を見せる。
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