各地で自動運転バスの実証実験が行われるなか、ついに本格導入に踏み切る自治体が現れた。東京都心からクルマで1時間ほどの茨城県境町が3台を購入し、2020年4月から無償での運行を始める。マイカーの運転が難しい子供や高齢者の足として活用することで、人口減少を食い止める一助にしたい考えだ。
2020年4月、茨城県の南西部に位置する境町で自動運転バスがついに“実用化”される。これまで全国各地で期間限定の実証実験が行われてきたが、境町は5年間で5億2000万円という予算を組んで、仏Navya社製の自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」(定員11人)を3台購入。片道2.5キロメートルのコースを自動運転で走行し、町内の病院、銀行、郵便局、スーパーなどを結ぶ。1日3~4往復でスタートし、徐々に運行時間を拡大。運行区間も増やし、最終的には5路線程度にする予定だ。
境町には鉄道路線がなく、公共交通機関は町外の鉄道駅へ向かう路線バスのみ。しかも、幹線道路を走るだけで、町内を広くカバーしているわけではないという。そのため、移動にはマイカーが欠かせない地域だ。自ら運転するのが難しい高齢者からは、「買い物に行くたびに家族にクルマを出してもらうのがつらい」「バスを利用する場合も、バス停まで送り迎えしてもらわなければならず、気が引ける」などの声が上がっていると、境町の橋本正裕町長は話す。公共交通機関が充実する他の自治体へ転出する人も少なくなく、1995年以降、人口は減少傾向にあるという。人口減を食い止めるためにも、少子高齢化を見据えた公共交通の構築が急務となっている。
橋本町長によると、自動運転バスの導入を検討し始めたのは、2019年11月末のこと。他の自治体で実証実験が行われているというニュースを耳にした橋本町長が即断即決でソフトバンクグループのSBドライブ(東京・港)にアプローチしたという。すぐに町民向けの試乗会を開き、20年1月には町議会で運行に関わる補正予算を審議。全会一致で可決された。人口減少への危機感が、境町を突き動かしたのだ。
自動運転バスの運行にあたっては、SBドライブが町内のシェアオフィスにサテライトオフィスを開設してサポート。運行を遠隔監視するスタッフの他、車内にはドライバーと保安要員兼案内係が乗り込む。駐車車両があった場合などを除いて自動で走行するものの、現状では自動運転レベル2にとどまる。通常のバスと比べると、むしろ人手がかかる状況だが、「5年後にはドライバーなしで走行できるようになるなど、状況は大きく変わっているはず」(橋本町長)と見据える。時速19キロメートルとそれほどスピードは出ないが、ソフトバンクの携帯電話利用者の移動データから割り出した町内の移動スピードは時速22キロメートルとのこと。クルマの流れを大きく乱すことはないという。
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