日本交通ホールディングスとDeNAは、それぞれの配車アプリ事業である「JapanTaxi」と「MOV」を2020年4月1日付で統合する。事業統合後の社名は未定だが、新会社の会長には日本交通の川鍋一朗会長が、社長にはDeNAの中島宏・オートモーティブ事業本部長が就任する予定だ。

おそろいのネクタイでがっちり握手を交わす日本交通の川鍋一朗会長(左)とDeNAの中島宏オートモーティブ事業本部長(写真提供/JapanTaxi)
おそろいのネクタイでがっちり握手を交わす日本交通の川鍋一朗会長(左)とDeNAの中島宏オートモーティブ事業本部長(写真提供/JapanTaxi)

相乗り・乗り合いでは解決できないタクシー業界の課題

 約7万台の対応車両を擁するタクシー配車アプリ「JapanTaxi(ジャパンタクシー)」と、約3.5万台の「MOV(モブ)」を統合すれば、車両数にして約10万台、日本全体のタクシー車両数(約22万台)の半数近くを占める業界最大の配車サービスが誕生することになる。

配車アプリの対応車両約10万台、アプリのダウンロード数1000万超は国内最大規模
配車アプリの対応車両約10万台、アプリのダウンロード数1000万超は国内最大規模

 日本交通の子会社であるJapanTaxiが日交データサービス時代(2015年に商号変更)に「全国タクシー」の名称で配車アプリの提供を開始したのは11年。現在では全国47都道府県を網羅する最大のタクシー配車アプリに成長した。一方、18年にDeNAの一事業として「タクベル」の名称で始まった「MOV」はAI(人工知能)やITを駆使したサービスで提携タクシー事業者数・利用者数を急速に増やしている。JapanTaxiにとってはDeNAの技術力・営業力が、DeNAにとってはJapanTaxiの車両規模・展開エリアが事業統合のメリットと言えるだろう。

 両者が事業統合する背景には、今春にも導入されるといわれている相乗り・乗り合いやキャッシュレス化といった、タクシー業界を取り巻くさまざまな変化、競争の激化などがある。

 DeNAの中島宏氏は「(悪天候時、深夜など)お客様が『いま乗りたい』というときに(タクシーを)使いにくい。加えて、乗務員の高齢化が進み、人手不足が原因で車両数も減少している」と話す。にもかかわらず、乗務員の就労時間のうち客を乗せている時間が業界平均で20~30%にすぎないという現状は明らかに問題だ。

タクシー業界では乗務員の高齢化が進み、車両台数も減少傾向にある
タクシー業界では乗務員の高齢化が進み、車両台数も減少傾向にある
タクシーへのニーズはあるにもかかわらず、乗務員の業務効率は芳しくない
タクシーへのニーズはあるにもかかわらず、乗務員の業務効率は芳しくない

 タクシー利用者の利便性向上、乗務員の業務効率改善ついては、規制緩和が検討されているタクシーの相乗り(乗り合い)が1つの解決策になるという声もある。しかし、一般の自動車所有者・運転者と移動手段として自動車を利用したい人をマッチングする「ライドシェア」は、先行して導入した各国で強盗や暴行などサービスを悪用した犯罪が増加しており、再規制の流れになっていると中島氏は言う。

日本ではまだ解禁されていないライドシェア。リスクが伴うことも分かってきた
日本ではまだ解禁されていないライドシェア。リスクが伴うことも分かってきた

配車アプリ後進国・日本の課題はアプリの利用率

 そうした課題の解決を図ったのが今回の事業統合だ。新体制ではサービスの質の高さ、安全性で定評のある日本のタクシーにIoT(モノのインターネット)を取り入れることで、日本市場に適したモビリティ産業の確立・発展を目指す。

 JapanTaxiの川鍋氏は「利用者の多い通勤時間帯に相乗りできるシャトルや、ヘビーユーザに対する優先利用のような仕掛け、(需給に応じて価格が変動する)ダイナミックプライシング、乗務員と乗客が相互に評価し合う仕組みなど、実現したいことはたくさんある」と語る。そのために2つのタクシー配車アプリの統合を目指すとのことだが、一方がもう一方を吸収する形になるか、新アプリを開発するかは未定。統合のタイミングについても決まっていないとのことだ。また、タクシー車両に搭載する端末についても統一する必要があるだろう。

 新会社の目指すサービスの実現には配車アプリが欠かせないが、問題はアプリの利用率の低さだ。中島氏は「月間のタクシーの輸送回数は約1億回に上るが、タクシー配車アプリを利用しているのは競合まで含めても2%程度。日本は配車アプリ後進国」と言う。各社は割引クーポンなどでシェア争いを繰り広げているものの、利用者数は伸び悩んでいる。

現状2%程度にとどまっているアプリの利用率を大幅に改善しないと新サービスの実現は難しい
現状2%程度にとどまっているアプリの利用率を大幅に改善しないと新サービスの実現は難しい

 伸び悩みの理由について「電話予約や道端でタクシーを拾うことと、アプリを利用することの利便性に大きな差がない。アプリのほうが圧倒的に便利になれば利用者も増える」と中島氏。とは言うものの、どういった機能が利用促進に有効なのかは見えていない。乗客・乗務員・事業者それぞれにメリットのあるサービスを提供する以前に、いかに配車アプリの利用者を増やすかが事業統合に当たっての最優先課題と言えそうだ。


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