“おっさん”同士の恋愛模様を描き、2018年から19年にかけて社会現象を巻き起こしたドラマ『おっさんずラブ』。映画化、シリーズ化を経て、20年に入ってもコンサートや展示イベントを開催するなどコンテンツ展開は継続中だ。ただ、番組ファンの“中身”は変化。SNS(交流サイト)上ではちょっとした騒動も起こった。同作からSNSを使ったファンマーケティングの在り方を考える。

テレビ朝日系列のドラマ『おっさんずラブ』は熱狂的なファンを巻き込んでヒット。Blu-rayボックスのほか、公式本や脚本が出版されたり映画化されたりと幅広く展開した
テレビ朝日系列のドラマ『おっさんずラブ』は熱狂的なファンを巻き込んでヒット。Blu-rayボックスのほか、公式本や脚本が出版されたり映画化されたりと幅広く展開した

 無数のコンテンツがあふれかえる中、頭ひとつ抜ける鍵になるのがSNSを使った情報発信と、それによって熱狂的なファンをつくる“ファンマーケティング”だ。テレビ朝日系列のドラマ『おっさんずラブ』は、そんなSNS時代を代表するコンテンツの1つとして業界で注目されてきた。

“正”の連鎖を生み出したあの頃

 まずはおさらいしておこう。『おっさんずラブ』は2016年12月に単発ドラマを放送したが、ブームに火を付けたのは18年4月クールに深夜帯(毎週土曜23時15分から)で放送された同名の連続ドラマ第1弾(以下、シーズン1)。ストーリー自体は三角関係を軸とした王道の恋愛ものだが、当事者が“おっさん”同士というのがドラマに新味を加えた。モテない独身男・春田創一を演じた田中圭、ピュアな乙女心を持つ上司・黒澤武蔵を演じた吉田鋼太郎、イケメンでドSな後輩・牧凌太を演じた林遣都と、キャストそれぞれがはまり役だった点も功を奏し、熱狂的なファンをつくり出した。

 ヒットの指標の1つである視聴率こそ全7話平均4.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と決して高くはなかったが、TwitterやInstagramといったSNS上の熱量には目を見張るものがあった。放送日か否かを問わず、Twitterには「#おっさんずラブ」があふれ、放送期間中にTwitter世界トレンド1位を2回も記録。NTTデータが18年にTwitter上で話題になったコンテンツを分析した「イマツイ ツイート大賞2018」によると、18年1月~11月のツイート数は約80万件でテレビドラマ部門の1位になっている。

 この勢いのまま19年の夏には劇場版を公開。完成披露試写として開かれたファン向けトークイベントの最中には「#おっさんずラブが止まらない」がTwitter世界トレンド1位を獲得するなど、放送終了後もその人気は衰えなかった。

NTTデータが2018年にTwitter上で話題になったコンテンツを分析した『イマツイ ツイート大賞2018』(テレビドラマ部門)では『おっさんずラブ』が1位になった
NTTデータが2018年にTwitter上で話題になったコンテンツを分析した『イマツイ ツイート大賞2018』(テレビドラマ部門)では『おっさんずラブ』が1位になった

 こうした熱狂の背景には、コンテンツとしての話題性に加えて「公式」と呼ばれる番組制作サイドの仕掛けがある。公式のTwitterアカウントでは“中の人”がファンのツイートに返信したり、撮影現場の裏側や俳優たちのオフショットを積極的に投稿したりした。

 また、公式のTwitterに加えて、Instagramでは登場人物である黒澤武蔵名義の“裏アカ”を作成。ストーリーを補完するように、登場人物たちの写真やそれに関わるコメントなどの投稿を重ねた。こうした取り組みが、ファンと共に作品を愛し、ファンと一緒にドラマを作り上げようとする“公式像”を醸成し、作品人気の魅力と相まって視聴者の熱狂度を高めていったと言える。

続編でファンが分裂

 ところが、そんな視聴者との関係は同作のシーズン2と位置付けられた『おっさんずラブ-in the sky-』のキャスト発表時に一変する。テレビ朝日は19年9月、メインキャストの田中圭と吉田鋼太郎を残してキャストを一新、ドラマの舞台を「天空不動産」から「天空ピーチエアライン」に変更した“パラレルワールド”で、新たな“おっさん”たちとの恋愛模様を展開することを発表。Twitter上ではファンから戸惑いの投稿が殺到した。

 その原因は、いくつかある。キャストや設定を大きく変更したこと、まだシーズン1のキャストによる劇場版がロングラン上映されているさなかだったこと、放送終了から約1年後の映画化、さらにファン待望のシーズン2放送が決定と期待が最高潮に高まっていたことなどだ。

 だが一番大きいのは、公式SNSでの対応だろう。例えば、Twitterのトップ画面の壁紙はシーズン1の劇場版のまま、アイコンだけをシーズン2の画像に変更したことで、「世界観が壊れる」「人を愛することの大切さを訴えたドラマだったのに、あっさり次の相手と恋愛するのか」「せめてシーズン1とシーズン2でアカウントを分けてほしい」などの批判がTwitter上にあふれた。シーズン1でまめにファンのツイートに応え、ファン目線で作品を作っているという印象を与えた公式だったからこそ、手のひらを返したと受け取られてしまったのだろう。

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