音響機器メーカーが仕掛けるマーケティングとして、数年来のブームとなっているのがコラボレーションやタイアップだ。なかでもオンキヨーはアニメ作品などとのタイアップ製品企画を事業化し、2015年からの4年余りで約150作品とコラボしてきた。作品選びのポイントなどについて同社に話を聞いた。
音楽アニメ+人気声優=ライブ活動が成功の方程式
創業73年の歴史を誇る音響機器メーカーのオンキヨーが、アニメ作品とのコラボレーションを始めたのは2015年。幕末を舞台に“志士(ロッカー)”たちの活躍を描いた人気ゲーム&アニメタイトル「幕末Rock」とのコラボモデルが最初だ。きっかけは幕末Rockを舞台化する際に、当時オンキヨーの筆頭株主だった楽器メーカー・米ギブソンのギターが使用されたことだった。
ハウジングに坂本龍馬、高杉晋作、桂小五郎、土方歳三、沖田総司それぞれのモチーフを印刷加工したヘッドホンは、完全受注生産で2万6900円(税別・送料込み)という価格ながらオンキヨーの予想をはるかに上回る売り上げを記録した。「結果、コラボのパワーが社内で認知され、専門部署が設立された」と同社マーケティング部 クロスマーケティング課 エグゼクティブプロデューサーの亀井隆司氏は話す。以降、オンキヨーブランドおよびパイオニアブランドとして、アニメ作品とコラボしたイヤホンやヘッドホンが数多くリリースされている。
「コラボするアニメは深夜放送枠で成功している、つまりコアなファンが多くいることが重要。かつ音楽をテーマにした作品。そして各キャラクターを演じる声優陣がユニットを組んでライブ活動をしていること」と亀井氏は言う。「ラブライブ!」シリーズ、「アイドルマスター」シリーズ、「BanG Dream!(バンドリ!)」シリーズなどはその典型だ。「コアなファンはコラボ製品を身に着けてライブ会場へ足を運ぶ」(亀井氏)。
先述の「幕末Rock」に続いて手掛けた「ラブライブ!」では、作品に登場するスクールアイドルグループ「μ's(ミューズ)」のメンバー9人のオリジナルデザインを施したヘッドホンが記録的なヒットに。4コマ漫画が原作のアニメ「ご注文はうさぎですか??」とのコラボヘッドホン「Pioneer SE-MHR5」は、出演声優の徳井⻘空が製品写真をツイートしたことで売れ⾏きに拍⾞が掛かかった。また関連イベントの「ご注⽂はDJ Nightですか??」では徳井自身がコラボモデルを⾝に着けて登場し、「同じ物が欲しい」というファン⼼理をくすぐった。
コラボモデルを通してブランドの技術力を知ってもらう
オンキヨーがコラボモデルを手掛ける理由について、亀井氏は「1つは、オンキヨーというブランドによる訴求が通用しない層にリーチするため」と説明する。
その好例が18年に販売したパイオニアブランドのハイレゾ対応イヤホン「SE-CH3T」だ。“マモホン”と名付けられた同モデルは、人気声優の宮野真守とコラボしたもので、価格は税込み・送料込みで6000円。左側のハウジングに「MA」、右側のハウジングに「MO」とレーザー彫刻されており、“マモポーチ”と名付けられたポーチが付属する。
「宮野さんのファンの多くは女性なので、高性能をうたっても刺さらない。親しみを持ってもらうために“マモホン”と名付けてポーチを付けた」(亀井氏)
もう1つの成功例は、架空の武道である“戦⾞道”の全国大会で優勝を目指す女子高校生たちの奮闘を描いたテレビアニメ「ガールズ&パンツァー」(以下、ガルパン)とのコラボだ。同作品のオリジナルサウンドトラックは人気が高く、東京フィルハーモニー交響楽団によるオーケストラコンサートも定期的に開催されている。
ガルパンファンのコア層は50歳前後のミリタリー好きで、テクノロジーへの関心が高い。そこでオンキヨーではハイレゾスマホ「GRANBEAT」をベースに、「ガールズ&パンツァー 劇場版」とコラボした「DP-CMX1 GUP」をリリースした。IV号戦車H型(D型改)のレーザー刻印を本体背面に施した同モデルには専用ケースが付属し、オーケストラ演奏によるハイレゾ⾳源(5曲)も収録されている。販売価格は税込み・送料込み9万9900円と、コラボモデルとしては最高価格帯ながら大ヒットとなった。
アニメ作品とのコラボはまずコラボ作品ありき。作品を決めたらファンイベントやライブに足を運び、男女比、年齢層などからコアなファン層を見極める。「男性ファンはコラボモデルでも音を聴いて納得しないと買わない。女性ファンは値段とデザインが決め手」と亀井氏。コラボのベースとなるモデルには、コアなファン層に刺さるモデルが選ばれる。アニメのキャラクターが製品を身に着けている描き下ろしイラストをパッケージに採用し、製品本体に専用の機械でレーザー彫刻を施してベースモデルと差異化するのがオンキヨー流だ。
オンキヨー、パイオニアブランドのオーディオ公式ショップ「ONKYO DIRECT」には、コラボモデルを目当てに多くの人が訪れる。「コラボモデルをきっかけにオンキヨー製品に興味を持ってもらえれば、市販モデルの販売にもつながる」と亀井氏。技術力に定評のあるオンキヨーだが、アニメとのコラボはその技術力を知ってもらうためのブランディング戦略といえる。
(写真提供/オンキヨー)