米ハーバード大学経営大学院のクレイトン・クリステンセン教授が亡くなった。イノベーション研究で親交のあった多摩大学大学院教授の紺野登氏が、クリステンセン教授との思い出を語った。最後に会ったときの会話では「ビジネススクールのビジネスモデル自体が陳腐化している」と嘆いていたのが印象的だったという。

クリステンセン教授(右から2人目)を囲んで、筆者(一番左)と第55代メキシコ大統領のビセンテ・フォックス氏夫妻(写真/筆者提供)
クリステンセン教授(右から2人目)を囲んで、筆者(一番左)と第55代メキシコ大統領のビセンテ・フォックス氏夫妻(写真/筆者提供)

 クリステンセン教授とは筆者の所属する一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)の活動を通じてお会いした。身長2メートル余り。バスケットボール選手でもあった。その思想にとどまらない、まさに仰ぎ見るような人物だった。

 主書『The Innovator`s Dilemma』で「破壊的イノベーション」の理論を確立したことで知られる。これは、大手の優良企業が顧客の声にひたすら耳を傾けながら次世代のテクノロジー開発に集中するなかで、新たな価値を持つサービスや製品を提供する機敏で革新的な小規模の新規参入者の脅威に気づかずに市場をさらわれてしまう、という状況を論理的に説明したものだ。長年ビジネススクールで教えられてきた「正論」の戦略が、実は失敗の要因にもなるという逆説の理論だ。

 破壊的イノベーションは、ヨーゼフ・シュンペーター氏による破壊と創造による経済発展に関する理論や、ピーター・ドラッカー氏によるイノベーションと企業家精神に関する理論、野中郁次郎氏による知識創造に関する理論に連なる、「イノベーション経営」に関する理論であろう。イノベーションは技術革新でもないし、誰かが偶然に思いつく発明でもない。経済や経営を非連続的に進化させることだ。

 教授は「破壊的」という言い方を「disruptive」と表現している。これは「破壊的」の他に「混乱させる」という意味もある。だが「破壊的」という日本語には「destroy」のイメージが強く、相手を「滅ぼす」という意味にもなる。教授と議論していると、disruptive の訳語を「破壊的」としたのはふさわしくないのではと思った。バスケットボールの選手だっただけに、試合で相手の動きを妨害するように混乱させて方向を変えるという意味ではないかと感じた。教授はとても信心深い人なので「破壊者」を賛美するつもりはなかったのではないか。米ウーバーや米エアービーアンドビーは結果的に既存業界の脅威になったが、当初はユーザーが困っている点を彼らなりに考えてサービスを打ち出しただけで、業界を破壊するつもりはなかったはずだ。

 次のような雑談が教授との最後の会話だった。それは「ビジネススクールのビジネスモデル自体が陳腐化している」と嘆いていたことだった。「ビジネススクールの卒業生が産業界で活躍する」という姿は「リーマンショック」で終わってしまい、いまや外国人留学生からの収入に頼っていると言っていた。教授は以前から 高等教育が危機にあることを主張しており、このときの様子が今でも印象に残っている。