居酒屋チェーン「一軒め酒場」などを運営する養老乃瀧(東京・豊島)は2020年1月23日、「一軒め酒場 池袋南口店」の店内に「ゼロ軒めロボ酒場」をオープンした。これは人手不足の解消、ロボットと人が協働できる現場オペレーションの開発などを目的とした実証実験で、3月19日までの期間限定となっている。

工業用ロボットが酒類を提供する「ゼロ軒めロボ酒場」。ロボットが接客することで、スタッフは開店・閉店の準備や酒類を補充する程度で済むという
工業用ロボットが酒類を提供する「ゼロ軒めロボ酒場」。ロボットが接客することで、スタッフは開店・閉店の準備や酒類を補充する程度で済むという

ビール40秒、カクテル100秒、客の表情を読み取って発話も

 「ゼロ軒めロボ酒場」は、工業用のロボットがビールやサワー、カクテルなどの酒類を提供するカウンター形式のスペース。レジでQR付きチケットを購入し、ロボットカウンターの指定の場所に置く。するとAI(人工知能)搭載のアーム型ロボットが「お客様のためにおいしいお酒をお作りします」などと話しかけながら飲み物を作り始める。待ち時間は、生ビールなら40秒ほど。受け取った飲み物は一軒め酒場の店内に持ち込める。

 ソフトバンクロボティクス(東京・港)のPepper(ペッパー)のような人型ロボットとはずいぶん趣が違うが、本体にはシンプルな“顔”を表示するディスプレーがあり、人間らしさを醸し出す。

武骨な印象を受ける工業用ロボットの横には“顔”のディスプレー。笑ったり目を閉じたりする。酒類の提供には不要とも思えるが、“顔”があると失敗しても許してもらいやすいとのこと
武骨な印象を受ける工業用ロボットの横には“顔”のディスプレー。笑ったり目を閉じたりする。酒類の提供には不要とも思えるが、“顔”があると失敗しても許してもらいやすいとのこと
ゼロ軒めロボ酒場の利用手順。レジで購入したQR付きチケットを指定の場所に置くと、生ビールなら40秒、その他の酒類も約100秒で出てくる
ゼロ軒めロボ酒場の利用手順。レジで購入したQR付きチケットを指定の場所に置くと、生ビールなら40秒、その他の酒類も約100秒で出てくる

 実験の目的は、飲食業界で深刻になっている人手不足を解消し、ロボットと人が協働できる技術を構築すること。同時に、来店した客を楽しませるエンターテインメント性で集客力を高める狙いもあり、ディスプレーに表示する顔の表情や対話の機能にも注力している。

 話す内容はその日のイベントや天候に加え、センサーで検知した客の性別、年齢、表情に応じて変わる。このロボットを開発したQBIT Robotics(東京・千代田)の社長兼CEO・中野浩也氏によれば「各項目については20パターンほどしか用意していないが、それらを組み合わせると20の5乗(320万通り)くらいになる」とのこと。客の表情や反応を検知し、笑顔と売り上げを評価ポイントにすることで、最適なパターンをAIが学習していくという。

上部には4つのセンサーが設置されており、毎秒20回のペースで客の表情などをチェックしている
上部には4つのセンサーが設置されており、毎秒20回のペースで客の表情などをチェックしている
ゼロ軒めロボ酒場のメニュー。「ロボ生ビール」「スコッチハイロボール」「ロボレモンサワー」など6種類で、価格はすべて税込み500円。一軒め酒場の店内で注文したほうが安いのだが、価格が高い分、酒類は量が多くなっているとのこと
ゼロ軒めロボ酒場のメニュー。「ロボ生ビール」「スコッチハイロボール」「ロボレモンサワー」など6種類で、価格はすべて税込み500円。一軒め酒場の店内で注文したほうが安いのだが、価格が高い分、酒類は量が多くなっているとのこと

課題は省スペース化と年齢認証

 ロボットの可動範囲は約80センチメートル四方で、アームを伸ばすと約1メートルになる。その周囲に酒類やその他の機材を配置するとテーブル席2台分のスペースになるという。養老乃瀧 営業グループ 関東エリア直営 エリアリーダーの籾谷佳生氏によれば「カウンターの前もテーブル席だったが、行列ができることを予想して撤去した」とのこと。つまりゼロ軒めロボ酒場のスペースは、テーブル席3台分ということになる。今回は3月19日までの期間限定実験だが、実用化を目指すとなれば、テーブル席3台分をゼロ軒めロボ酒場が稼ぎ出せるかが、1つの目安になりそうだ。

 またゼロ軒めロボ酒場の場合、カウンターで受け取った酒類を一軒め酒場に持ち込まず、そのまま持ち帰るという利用法も考えられる。しかし、そこで問題になるのは客の年齢認証だ。未成年が利用するのを防ぐため、養老乃瀧ではあえて持ち帰りの場合もレジでQR付きチケットを購入する仕組みにした。とはいえ、本来なら発券機にして省力化を図りたいところだろう。ソフトドリンクなら年齢認証の問題は生じないが、それならコイン式の自販機で事足りる。

 「娯楽性という点を考えて店舗の入り口に設置したが、一軒め酒場の厨房に置くことも考えられる。ボタンや音声認識の機能を搭載すれば、ビールを注いだりカクテルを作ったりする手間を省ける」と籾谷氏。実際、来店客の手間だけを考えると、レジでQR付きチケットを購入してゼロ軒めロボ酒場のカウンターで受け取るくらいなら、ホールスタッフに酒類を注文したほうが早い。そうであれば、厨房にロボットを置いて、スタッフの作業効率も同時に高めていくのが現実的だろう。

 ロボットの導入によってホール・厨房スタッフの負担をどこまで減らせるか、ロボットと人との協働はどこまで可能なのか、実証実験の結果によっては新しいロボット居酒屋が誕生するかもしれない。

実際に試してみたところ。「ロボレモンサワー」を作りながら「お客様のためにおいしいお酒をお作りしますので、少々お待ちくださいね。(中略)お酒は飲んでも飲まれるな。お酒がおいしくなるように、おまじないをかけておきました」と話していた