全日本空輸(ANA)は、2020年1月下旬に羽田空港で大型電気自動車(EV)バスを使った自動運転の実証実験を行っている。実施に際しては、ANA自らが57人乗りの中国BYD製のEVバスを購入。同社は自動運転が実用化の段階に近づいたと判断し、20年中には乗客や乗員を実際に乗せた試験運用を開始する予定だ。
ANAは20年1月22~31日、羽田空港第2ターミナル周辺の駐機場において、57人乗りの大型EVバスを使った自動運転の実証実験を行っている。航空旅客需要が増加する一方で、生産年齢人口は減少しており、人手不足は必至。「人手に頼る部分が多い空港内での業務を、どれだけ自動化できるかが課題になっている」とANAオペレーションサポートセンター品質企画部の山口忠克担当部長は話す。バスの自動運転に取り組むのは、乗り継ぎ客や運航乗務員の送迎業務の効率化が狙い。このほか、佐賀空港では既に航空機をけん引するトーイングカーのリモコン遠隔操作を実用化しており、手荷物や貨物コンテナをけん引するトーイングトラクターの自動走行もテストしている。
ANAの羽田空港での実証実験は今回で3回目。18年2月の1回目は、新整備場地区の一般道路で実施し、主に自動運転技術そのものを検証した。19年1月の2回目は場所を駐機場などがある制限区域内に移し、航空機やトーイングカー、トーイングトラクターなど特殊な車両を認識できるか確認。そして3回目となる今回は、いよいよ実際のオペレーションを想定した実験に踏み切った。
具体的には、20年3月末からANAが利用している第2ターミナルに国際線の発着が始まることから、国際線エリアと国内線エリアを結ぶ送迎バスを念頭に置き、ターミナル建屋沿いに約1.9キロメートルの定点間ルートを設定した。これには、19年の実証実験の結果、「航空機の認識は難しかった」(山口氏)ことから、航空機が横切らないようなルートが望ましかったこともある。航空機の認識が難しいのは、高さや大きさが公道を走る車両と大きく異なるため。また、ジェットエンジンの後方から出る高温の排気を避けるため、航空機の後端から100メートル以上離れなければならないという安全規定もある。駐機場を走らせる場合は、車両に搭載するセンサーだけでなく、空港のインフラとも連携して航空機の位置を的確に把握することが不可欠なのだ。
一方で、建屋沿いの場合、搭乗橋(ボーディングブリッジ)の下をくぐるケースが多く、GPS信号が受信できないこともある。そこで19年は道路に敷設した磁気マーカーを併用して車両を誘導したが、敷設コストが高く、柔軟なルート設定が難しいことから、今回はGPSに加えて「SLAM」を採用した。これは、レーザーセンサーであるLiDARを使って周囲の障害物を認識。これと3Dマップを使って自己位置を推定するというもの。自動運転技術を提供する先進モビリティ(東京・目黒)の青木啓二社長は「GPS、磁気マーカー、SLAMにはそれぞれ得手不得手があるので、最終的には3つを組み合わせて信頼性を向上させたい」と話す。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。