eスポーツチームの中でも屈指の人気を誇る「Rush Gaming」。ラフォーレ原宿に期間限定のポップアップショップを出店し、オリジナルグッズを販売した際は、1週間で150万円を売り上げた。CEOの西谷麗氏に、ファン向けビジネスでいち早く結果を出した同社のマーケティング戦略を聞いた。

西谷 麗(にしたに うらら)氏
2010年慶応義塾大学経済学部卒業。英国系ゲーム会社のPlayfishに日本支社立ち上げ第1号社員として参画。プロダクトマネジャー、ゲームプロデューサー、データアナリストなどを経て、ゲーム分野を中心にマーケティング代行やコミュニティー・マネジメントを請け負うWekidsを創業。Rush GamingのCEOも務める

 Rush Gamingは、シューティングゲーム「コール オブ デューティ」(CoD)シリーズのPlayStation4(PS4)版を使った大会で活躍するプロeスポーツチームだ。2019年12月にはバトルロイヤルゲーム『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(PUBG)のチームも立ち上げた。イベントや大会に出ればたくさんのファンが集まる日本のeスポーツ界屈指の人気チームとしてゲームファンに知られている。

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 そのRush Gamingの人気を一般にも印象づけたのが、19年8月にラフォーレ原宿に期間限定でオープンしたポップアップショップだ。いくらeスポーツの人気が高まっているとはいえ、プロeスポーツチームが実店舗を出すのは画期的。しかも、開催期間1週間のオリジナルグッズの売り上げは150万円に達した。「ラフォーレ側と当初話していた目標額100万円を大きく超えた」と西谷氏は話す。

2019年8月にラフォーレ原宿でオープンした期間限定のポップアップショップ。「選手たちも店頭に立ち、実店舗で対面販売ができたことは大きな経験になった」と西谷氏
2019年8月にラフォーレ原宿でオープンした期間限定のポップアップショップ。「選手たちも店頭に立ち、実店舗で対面販売ができたことは大きな経験になった」と西谷氏

 実はこのポップアップショップ、当初は国内外から複数のプロeスポーツチームがアイテムを出品する予定だった。ところが、スケジュールなどで都合がつかず、結局Rush Gamingのグッズだけが並ぶことになったという。この時点で想定外。しかも、一部商品の製作が間に合わず、「目玉がない状態だった」(西谷氏)。

 そんな不利な状況を巻き返したのが、選手自らが動くファンサービスだ。開催期間中は選手たちが交代で店頭に立った。コーナーの一角にPS4を置いて事前の抽選で当選したファンにプレーを教えたり、購入金額に応じて引けるくじを用意したりと、さまざまな店頭イベントを企画。結果、前述の通り、目標額を大幅に上回る売り上げにつなげたのだ。

ポップアップショップは、Rush Gamingならではのイベントを多数盛り込んだことでファンにとってより魅力的になった。期間中は毎日選手が店頭に立ち、ファンと交流した
ポップアップショップは、Rush Gamingならではのイベントを多数盛り込んだことでファンにとってより魅力的になった。期間中は毎日選手が店頭に立ち、ファンと交流した

ファンはチームのロゴを身につけたい

 ポップアップショップが成功したのは、Rush Gamingが以前からアパレルを中心に幅広くオリジナルグッズを取りそろえていたからこそだ。プロeスポーツチームにとって、物販はスポンサー収入と並ぶ収益の柱になる。だが、当然のことながら人気がなければ売れない。特にアパレルは複数のサイズを取りそろえる必要があるため、費用負担が大きく、展開するにはそれなりのリスクが伴う。それでもRush Gamingはアパレルにこそ注力している。

 西谷氏は、「これは選手というより私の考え。海外のeスポーツチームで成功している方法論を取り入れました。自分が仕事としてeスポーツに関わる前、eスポーツの面白さに気づいたとき、ファン目線なら好きなチームのTシャツやパーカーが欲しくなると思ったんですよ」(西谷氏)。

Rush Gamingのグッズでも1番人気はパーカー。ECサイトでは、チームの選手をモデルとして起用。写真はGorou選手
Rush Gamingのグッズでも1番人気はパーカー。ECサイトでは、チームの選手をモデルとして起用。写真はGorou選手

 この考えは選手とのやりとりでも確信した。西谷氏は以前、チームに所属するGreedZz(グリード)選手に彼が好きな海外のeスポーツチームのパーカーをプレゼントしたことがあった。そのときGreedZz選手は無邪気に喜んだという。「やっぱりファンは好きなチームのパーカーが欲しい。お気に入りチームのロゴを“身につけたい”んです」(西谷氏)。

 その確信はeスポーツファンに普遍的なものだった。Rush Gamingが最初に作ったパーカーはチームのロゴを大きくプリントしただけのもの。デザインが決まった段階で、ECサイトで予約販売を開始したところ、すぐに約160枚を売り上げた。「まあ売れました。デザインしか完成していない6500円のパーカーが!」(西谷氏)。カジュアルなファンも意識し、価格が安いステッカーなども同時に販売したがパーカーのほうがはるかに売れた。「これには驚いた」と西谷氏は興奮気味に振り返る。いずれはチームブランドのコントローラーやヘッドセット、キーボードやマウスなど、周辺機器までオリジナルグッズの幅を広げたいと考えている。

ファンを引きつけるのはストーリー

 ラフォーレ原宿のポップアップショップの成功やアパレルを中心とした物販の好調は、Rush Gamingのファンマーケティングの成果と、それによって構築されたブランド力の高さの証左でもある。

 こうしたファンマーケティングの核になっているのが積極的な情報発信だ。Rush Gamingでは、ブログやTwitterなどのSNS、YouTubeを使った動画で、選手やコーチ陣の日常の姿、その思いをリアルに伝えている。「重視しているのはストーリーやドラマ性。『テラスハウス』などのリアリティーショーをイメージしてもらえばいい」(西谷氏)。

Rush Gamingの試合の様子
Rush Gamingの試合の様子
見せるのは試合中だけではない。選手たちが共同生活を送る「Rush BASE」の様子もSNSなどを通じて随時、公開している
見せるのは試合中だけではない。選手たちが共同生活を送る「Rush BASE」の様子もSNSなどを通じて随時、公開している

 例えば、18年にリーグ戦形式で行われた大会「コール オブ デューティ ワールドウォーIIプロ対抗戦」だ。“王者”として臨んだはずのそのシーズン、Rush Gamingの勝ち点は2位のLibalent Vertexと同じだったものの、直接対決成績で3位が確定。同年9月に東京ゲームショウ2018で開催されたグランドファイナルへの出場権を逃してしまった。

 しかも大会期間中に2人の選手が相次いで脱退。19年1月には中心的選手でリーダーでもあるGreedZz選手が目の故障により無期限の休養を発表した。そんな波乱の出来事もファンに向けてありのままに発信している。

 こうした姿勢を取る理由を、西谷氏は「eスポーツには“歴史”がないから」と語る。「歴史がない分、ストーリーを語って生き様を見せないと、『ただゲームで遊んでるだけでしょ?』と見られかねない。正直、そう見る人がいるのも分かるんですよ」(西谷氏)。

 現状、一部のゲームタイトルを除き、日本のeスポーツの技術レベルは世界に及ばない。日本よりも平均年収が低い国で、eスポーツに人生を懸けている選手と比べると覚悟が違う。その結果がレベルの違いに結びついている面があると西谷氏は言うのだ。

 「プレーを見て『明日頑張ろう』って思ってくれる人がたくさんいるなら、プロ選手としての価値はある。でも、ゲームがただうまいだけなら、“趣味”でいいんじゃないかと思う」(西谷氏)。

 黎明(れいめい)期である日本のeスポーツシーンにおいて、プロeスポーツ選手として道を開拓せんとする姿を、ゲームプレーはもちろん私生活でも見せて、想いを語る。ファンに感じ入ってもらえる何かが作り出せれば、YouTubeの再生数やSNSのフォロワー数、オリジナルグッズの売り上げといった“数字”に反映されていくと考えている。

選手個人の求心力も数字で割り出す

 “数字”を重視するのは、それがチーム運営で物販と並ぶ柱、スポンサー収入の拡大にもつながっていくからだ。

 実際、スポンサーに対して説得力を持つのは“数字”だ。このため、西谷氏はYouTubeの再生数、ストリーミングの同時接続者数など、それぞれにKPI(重要業績評価指標)を設けているという。特に重視しているのが、YouTubeなどでのストリーミングにおける選手ごとの同時接続者数だ。

 「大会など注目度が高いときの数字は特に大事で、それに応じて選手たちへのインセンティブも用意している。18年からはYouTubeのスーパーチャット(投げ銭)の額も選手の評価としてカウントし始めた」(西谷氏)。スーパーチャットには、お金を払ってまでその選手を応援したいというファンの熱意、選手個人が持つ求心力の高さが数値として表れるからだ。

「Rush Gamingはスタートアップ」という西谷氏
「Rush Gamingはスタートアップ」という西谷氏

 もう1つ、西谷氏が重視しているのがECの売り上げだ。Rush Gamingがどれだけファンの心をつかんでいるかを定量的に把握できるうえ、購入者のIDと売り上げをひも付けることで“コアなファン”の存在も浮かび上がる。さらに、購入時、決済画面に選手のクーポンコードが入力できるのもユニークだ。それによって「どの選手がいくら売ったのか」が分かる。こうした数字は選手にもフィードバックしているという。

 「Rush Gamingのブランドに価値を感じてくれる人が1人でも増えてくれればスポンサー企業に還元できることもどんどん増えるし、提案できる施策も変わる。Rush Gamingはスタートアップ。だから数字にもこだわって、自分たちの武器を磨いていく。そのうえでスポンサーにどんな利益を返せるかを提示していきたい」(西谷氏)。

(写真/志田彩香、写真提供/Rush Gaming)