リクルートは飲食、シニア、アルバイト、派遣、住まい、自動車、進学の7領域における2020年のトレンド予測を発表した。サービスを簡略化した飲食店の増加や、人手不足や技術の進化でテレワークが普及し、働き方や住まい選びに変化が訪れると予測。「当たり前」だったことが覆る兆しが現れそうだ。

さまざまな分野で従来の「当たり前」から脱却する動きが進む
さまざまな分野で従来の「当たり前」から脱却する動きが進む

サービスは簡略化してOK、飲食は料理が大事

 リクルートが2020年1月20日に発表した2020年のトレンド予測とキーワードは、同社が発行するメディアの編集長など各分野の専門家が毎年発表しているもの。今回取り上げた7領域に共通しているトレンドは、従来の「当たり前」からの脱却だ。

 飲食領域のキーワードは「おもて無(なし)グルメ」。19年10月の消費増税の影響で、料理のクオリティーには妥協しないが外食コストに厳しい目を向ける人が増えている。飲食店側も人手不足やキャッシュレス決済への対応が求められている。そうした中、消費者や飲食店の間に料理とサービスを分けて考える動きが広まっているという。トレンドとなりそうなのが、サービスの“おもてなし”を省いた「おもて無グルメ」だ。

料理の味や食材にこだわるが、設備や接客といったサービスはあまり重視しない人が増えている
料理の味や食材にこだわるが、設備や接客といったサービスはあまり重視しない人が増えている
サービスを簡略化することで質の高い料理を安く楽しめる店が求められている
サービスを簡略化することで質の高い料理を安く楽しめる店が求められている

 ホットペッパーグルメ外食総研の稲垣昌宏上席研究員は、「日本の外食産業では料理とサービスはセットで売られてきたが、これを見直す時期にきている。味とサービスのバランスを変え、価値の高い料理を簡略化したサービスで提供する店が増えてくるのではないか」と予測する。

 既に食券制とセルフサービスの導入により、ファミリーレストラン並みの価格で本格フレンチを提供する店などが登場している。「おもて無グルメ」の潜在的ニーズは大きく、特に20代男女、30~40代女性などで高い利用意向があるという。

「おもて無グルメ」の店に高いニーズが見込める
「おもて無グルメ」の店に高いニーズが見込める

人手不足解消のカギは「健朗シニア」

 生産労働人口の減少に対応するため、シニア人材の活用が企業側の課題になっている。そこでトレンドとして浮上したキーワードが、心身ともに健康で朗らかに働く「健朗シニア」だ。

 シニアが働く目的は、「お金」「健康維持」「社会とつながりを得ることによる生きがい」の3つが大きい。しかしその一方で健康に不安を感じている人が多いという。企業側にとっても、シニアを雇用するうえで不安要素になるのが健康だ。

 ジョブズリサーチセンターの宇佐川邦子センター長は「70歳を超えても働きたい人が7割に達するなど、シニアの就業意欲は高い。働き手となるシニアと雇用する企業の双方にとって不安要因は健康や体力だ。働くことが健康維持につながるような、健康不安の払拭によるシニア活用が求められている」と語る。

シニアにとって働く目的はお金だけでなく、働くことによる健康維持や生きがいを得ることも大きい
シニアにとって働く目的はお金だけでなく、働くことによる健康維持や生きがいを得ることも大きい

 シニアが安心して働ける環境づくりに取り組んでいる企業は増えている。身体と認知能力を定期的に確認し、それに合わせた仕事を割り当てる企業や、勤務時間を15分単位と短くして体調や希望に合わせやすくした企業、シニア専属のキャリアコンサルタントを設けている企業などが登場している。

シニアの健康不安を払拭するための仕組み、サポート、健康の見える化が求められる
シニアの健康不安を払拭するための仕組み、サポート、健康の見える化が求められる

 一方、アルバイトの領域では多国籍人材を人手不足解消だけでなく、将来の会社の戦力として積極活用する企業や、そこで活躍する人材が増えているという。リクルートではこれを「アルダイバー」と呼んでいる。

 派遣の領域では介護や育児、傷病などの制約を抱えている人や、副業と両立したいという人が、出社しての勤務と在宅ワークを組み合わせて働ける「出勤オフ派遣」の形が増えると予測する。スキルの高い人材の確保や優秀な人材の流出を防げるのが企業側のメリットだ。

テレワークで「職住融合」が進む

 東京オリンピック・パラリンピックに向けて国がテレワークを推進してきたこともあり、働く場所が多様化しつつある。それに合わせて住まい選びにも変化が起きている。そこで住まい領域が掲げるキーワードが「職住融合」だ。テレワークをきっかけに自宅を仕事に適した環境に整える「家なかオフィス化」や、街中のコワーキングスペースを活用する「街なかオフィス化」が進みつつある。さらに生活する「街選びの自由化」の兆しが見え始めているという。

 住宅・不動産サイト「SUUMO」の池本洋一編集長は、「テレワークの浸透が住まいに影響を与えている。リビングの一角にガラスで仕切った小部屋を作り、リビングの様子を見ながらビデオ会議ができるワークスペースとしたり、納戸をワークスペースにしたりといった動きがある」と話す。

テレワークをきっかけに、自宅に仕事向けの環境を整える人が多い
テレワークをきっかけに、自宅に仕事向けの環境を整える人が多い
テレワーク向けに、リビングの一角や納戸をワークスペースにする人が増えている
テレワーク向けに、リビングの一角や納戸をワークスペースにする人が増えている

 住宅事業者側にも新築時にワークスぺースを設けるプランを提案したり、賃貸住宅をリノベーションしてワークスペースを設けたりといった動きがある。共用部をワークスペース化したマンションや、シェアオフィス付きの賃貸住宅なども登場している。

 テレワークをきっかけに都心から郊外へ引っ越しする動きも出ている。趣味を楽しめる環境や育児に向いた環境を求め、テレワークができる企業に転職する人もいるという。引っ越し先としては、コワーキングスペースがあり、駅周辺でほとんどの用事が片付き、出勤が必要なときは座って通勤できる、そうした立地の地方都市の人気が高まっているそうだ。

テレワークを取り入れ、さらに引っ越しをした人は、家族との時間が増えたことや趣味の時間が増えたことにメリットを感じている
テレワークを取り入れ、さらに引っ越しをした人は、家族との時間が増えたことや趣味の時間が増えたことにメリットを感じている

 このほか自動車の領域では「らしさCAR」がキーワードだ。20代を中心に若者ほど自動車を自己表現のツールとして捉える傾向があるという。スペックや価格で選ぶのではなく、自分らしさを反映した持ち物、自分が居心地よく過ごせる空間など、自分らしさを表現する手段として自動車を選び、カスタマイズする人が増えている。

 進学の領域では社会環境のVUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)化を背景に、有名大学に入って大企業に就職するといった従来の価値観から離れ、自分のやりたいことを重視し、ワクワクするモチベーションを大切にした「ワクモチ進路」を選ぶ子供が増えると予測する。自分のなりたい姿を明確に持ち、夢の実現に向けた努力をいとわず、進路選びに情熱を持った子供が年々増えつつあるという。

 これまで“一体”として考えられていた料理とサービスを切り離し、低価格で本格フレンチを提供する飲食店、車選びは自己表現を大事にし、大学選びではブランドにとらわれない――。さまざまな分野で従来の「当たり前」からの脱却の兆しが見えてきた。今後は既成概念にとらわれず、長年の慣習と思われている部分を大胆に見直すことが、ビジネスの成功につながる道なのかもしれない。

(画像提供/リクルート)