「ストリートファイターV」などの格闘ゲームで活躍するときど選手。2019年に出版した書籍『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ダイヤモンド社)も好評だ。そのときど選手のインタビュー、後編ではロート製薬などのスポンサーとの関係性やプロとしての役割について語ってもらった。

ときど選手。1985年沖縄県那覇市生まれ。麻布中学校・高等学校卒業後、1浪を経て、東京大学教養学部理科一類入学。同大学工学部マテリアル工学科に進学・卒業。同大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻中退。2010年に格闘ゲームでプロデビュー。17年世界最大級の格闘ゲーム大会「EVO」優勝、18年カプコンプロツアー年間ポイントランキング1位など輝かしい戦績を重ね、TBS系ドキュメンタリー「情熱大陸」にも取り上げられるなど、日本で最も知られるeスポーツプレーヤーの1人
ときど選手。1985年沖縄県那覇市生まれ。麻布中学校・高等学校卒業後、1浪を経て、東京大学教養学部理科一類入学。同大学工学部マテリアル工学科に進学・卒業。同大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻中退。2010年に格闘ゲームでプロデビュー。17年世界最大級の格闘ゲーム大会「EVO」優勝、18年カプコンプロツアー年間ポイントランキング1位など輝かしい戦績を重ね、TBS系ドキュメンタリー「情熱大陸」にも取り上げられるなど、日本で最も知られるeスポーツプレーヤーの1人

 2010年のプロデビュー以来、日本のeスポーツシーンの先駆者の一人として活躍してきた格闘ゲームのプロプレーヤー・ときど選手。インタビュー前編では、今のeスポーツの盛り上がりや、「勝つだけじゃダメ」なプロ選手のあり方について聞いた。

【前編はこちら】
プロゲーマー・ときど 『プロは勝つだけじゃダメ』なワケ

 後編となるこの記事では、eスポーツの世界で今増えつつある企業スポンサーとの関係性、今後、eスポーツが一層盛り上がるために必要なことに話を進める。現在、ロート製薬、ソニー・ミュージックエンタテインメント、大塚食品など、ゲームとはあまり関係ない業種の企業ともパートナー契約を結んでいるときど選手。それらの企業は、ときど選手にどんな可能性を見いだし、ときど選手はそれにどう応えていくのか。

スポンサーを求めてメールを送りまくった

――後編では、プロとしての活動やスポンサーとの関係について聞きたいと思います。そもそもですが、スポンサーには選手側から働きかけるんですか? ときど選手の場合、今は先方からオファーがたくさん来る状態だと思うのですが。

ときど選手が19年12月に出版した書籍『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ときど著、ダイヤモンド社)。ビジネスパーソンにも参考になる考え方が詰まっている
ときど選手が19年12月に出版した書籍『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ときど著、ダイヤモンド社)。ビジネスパーソンにも参考になる考え方が詰まっている

ときど選手(以下、ときど) そうですね、今はオファーをいただいています。でも昔はメール送りまくりましたよ。僕がプロになろうと思っていた当時、eスポーツ事情に詳しい人から、海外にはFPS(First Person Shooter)とかRTS(Real-time Strategy)といったゲームジャンルで成功しているeスポーツチームがあって、次の投資先として格闘ゲームにもお金が流れるかもしれないというアドバイスをもらったんです。すでにTシャツ屋さんのスポンサーを受けていたので(詳細は前編を参照)、契約までには至らなかったのですが。

――どの試合に出るか、どのスポンサーと組むかは自身で決めているというお話が著書にもあります。スポンサー選びの基準は?

ときど 今のところ明確な基準はありませんが、できれば自由にさせてくれるところがいいですね。僕は自分でプロデュースをしたいんです。過去、マッドキャッツがスポンサーに付いてくれていたときも海外チームに所属していたときも自由にやってきました。幸い、今も自由にさせていただいています。

スポンサーにどう貢献するかは自分次第

――以前、ときど選手をスポンサードしているロート製薬に取材をしました(関連記事「ロート製薬はときど選手と契約 顧客見ればeスポーツ参入は当然」)。同社をはじめ、現在、eスポーツに参入している企業は、eスポーツへの関心が高く、投資する価値もきっちり定義しているところが多い印象です。

ときど そうですね。逆にノルマがないということは、どういう形で貢献するかが僕自身に委ねられているということかなと。そこにはプレッシャーを感じています。

ときど選手とパートナー契約を結んだロート製薬などのインタビューを掲載。『eスポーツマーケティング』(日経クロストレンド編、日経BP)
ときど選手とパートナー契約を結んだロート製薬などのインタビューを掲載。『eスポーツマーケティング』(日経クロストレンド編、日経BP)

――商品CMに出る機会も出てきました。

ときど CMの経験はありがたかったですね。ああいうことがあると、もっと体作りをしよう、食事についても勉強しようと思うようになりました。CM出演などはゲームの技術向上と直接関係ないように思いますが、体や食事はプレーにも影響します。こうした活動もゲームの上達とリンクさせてポジティブに捉えていきたいです。

 ただ、筋トレはやったらやっただけ返ってくるので、ゲーム以上にのめり込まないようにしないといけないんですけど(笑)。

――成果が分かりやすいからですか?(笑)

ときど そう! ゲームはずっとやってきて伸び率が収束してきている面もあるんです。本当に上の方のレベルになると、いろいろな試行錯誤をして、時間も頭も使って、やっとレベルが少し上がる。でも、体作りは今の僕が初心者ということもあってやればやるだけ成果が出るんです。だから自分を律してゲームもやらなきゃいけないなって(笑)。

――スポンサーにどう貢献するかは自分に委ねられているとおっしゃっていましたが、企業はときど選手のどういうところに価値や魅力を感じていると自身は分析されますか。

週3回の筋トレや空手で体を鍛えるときど選手。海外遠征が多く、試合が長丁場になるeスポーツでは体力は重要だという
週3回の筋トレや空手で体を鍛えるときど選手。海外遠征が多く、試合が長丁場になるeスポーツでは体力は重要だという

ときど 企業によって違うとは思いますが、お話しするとやはり若い人たちに向けたアピールというのがあるんだと思います。「あ、この会社面白いことやってんな」「面白いところにチャレンジしてるな」ってところをまずは見せたいという思いを感じるんですよ。

――若い人たちにアピールできるということには、ときど選手も同意ですか?

ときど はい。今、男子中学生のなりたい職業の1位がYouTuber、2位がプロゲーマーだそうですが(※)、注目してもらっているのを感じます。そこで「かっこいいな」とか「面白いな」と思ってもらえれば、選手に興味が出ますよね。で、「この選手はどんな人なんだろう」「あ、こんな企業がサポートしてるんだ。この企業、さすがだな」と思ってもらえることが僕の一つの仕事なんだろうなと思います。

※ソニー生命保険が19年6~7月、中高生1000人を対象に実施したネット調査「中高生が思い描く将来についての意識調査」では男子中学生の1位が「YouTuberなどの動画投稿者」(30.0%)、2位が「プロeスポーツプレイヤー」(23.0%)、3位が「ゲームクリエイター」(19.0%)だった
スポンサー企業のロゴが並んだユニフォームは筋トレによって作られた体にも映える。「体を鍛えていることは見栄えにも影響した」とときど選手
スポンサー企業のロゴが並んだユニフォームは筋トレによって作られた体にも映える。「体を鍛えていることは見栄えにも影響した」とときど選手

魅力を語れる選手が多いゲームこそ強い

――私自身、取材をしていてeスポーツの認知はずいぶん進んだと感じます。一方で、今はまだ「eスポーツ」という言葉が話題になった段階。ここから個別のゲームタイトルや選手、チームが好きという人が増えないとなかなか定着しないのではとも思うんです。

ときど そうですね。今はいろいろなゲームタイトルの“連合軍”ですもんね。

――これからそれぞれのゲームタイトルや選手が人気を集めるところまで行けるかどうかが一つの分かれ道だと思うのですが、ときど選手から見て、今後eスポーツが発展していくために必要なことはなんでしょう?

ときど やっぱり選手それぞれの魅力ですかね。個々のプレーヤーが自分の魅力を磨いた方がいいと思います。でもそれってどうすればいいのか分からない人がほとんどですよね。だから、まずは自分が好きなゲームに真剣に取り組んでみる。そうすれば、その人なりのやり方とか個性が絶対出てきて魅力になると思うんです。

 そうしたら、それを自分なりに表現する。できれば自分の言葉で。世間に通じるように。

 やっぱりゲームって、うまいプレーをモニター越しに見せるだけでは面白さは伝わりにくいと思います。これが(普通のスポーツのように)自分の体を使った表現なら、ライトな層にもすごく分かりやすいじゃないですか。「すごい肩してるな」とか「すごい速さのパンチだな」とか。それに対して僕らはあくまでもゲームのキャラクターを通じて自分の技術を披露しているわけですから、見せるだけでは伝わりにくい。そこには言葉が必要です。

 それに手前味噌ですが、プレーヤーはみんな真剣に頑張ってると思うんですよ。僕は格闘ゲームしかやりませんが、格闘ゲームについて言えば、本当に真剣に取り組めば世間に通じる言葉が出てくるものだ、そのくらいちゃんといいものだと思って取り組んでいます。

 個性のあるプレーヤーが自分の言葉でゲームに懸ける思いを表現できるようになれば、そしてそういうプレーヤーの数が多くなれば多くなるほど、そのタイトルは強いですよね。僕たちが勝つためには、勝つというより生き残るためには、そういう人たちがもっと増えてくれたらありがたいと思っています。

(写真/志田 彩香)

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