プロは勝つだけじゃダメ

――著書の中で、ある時を機に「プロの仕事は勝つことだけではない」「画面を通じて対戦の面白さを知ってもらうこと」という考えに変わったとありました。それはなぜでしょう?

ときど なんというか、僕らがいる「eスポーツ」という世界はまだ完成していないんですよね。今はたまたま注目されてメディアやスポンサーなどいろいろな人の助力も得られていますが、もしそれがなくなったら一瞬で崩壊してしまいかねない状態だなと思っているんです。

 特に、僕がやってる格闘ゲームはeスポーツ全体の中で見れば“弱小”です。日本人に強い選手が多いので日本では目立てていますが、世界的に盛り上がっている『League of Legends』(※)などに比べると、プレーヤー数も少ないし注目度も低い。5年先には(格闘ゲームのeスポーツシーンが)なくなっている可能性だって否定できません。もしそうなったら、仮に自分が勝てたとしてもプレーヤーとして続けられないですよね。だったら、勝利は最優先ではあっても全てではないと思うんです。

 僕としては格闘ゲームをできるだけ長く続けたいし、プレーヤーでありたい。そのためには、もっと格闘ゲームを知ってもらうこと、プレーヤーの魅力を上げてファンを引き留めることが重要だと思います。

※『League of Legends』(リーグ・オブ・レジェンド):米ライアットゲームズのPC向けマルチプレーヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)型ゲーム。2019年の世界大会「World Championship」ではルイ・ヴィトンが優勝トロフィー用特注トラベルケースを製作したことでも話題になった

――長い目で、しかもワールドワイドで格闘ゲームのポジションを確立するためには選手自体の魅力を発信していかないといけないという思いですね。

ときど 選手にできるのはそれだけですよね。ゲームタイトルはメーカーのものだから、面白くするにはメーカーの方に頑張ってもらうしかない。僕は選手がタイトル作りに関わるのは反対なんです。メーカーにいいタイトルを作ってもらいたいという思いはあるけれど、そこにプレーヤーが乗り出しちゃうと競技としてフェアじゃなくなるから。

 格闘ゲームのプレーヤーには変な人が多いんですよ(笑)。でも、すごく面白い人たちです。それが今はまだなかなか一般に伝わっていません。賞金がいくらとか、日本人が頑張ってるとか、分かりやすい部分だけが紹介されるだけではなく、プレーヤーの魅力というか、本当に面白い人たちが真剣にやっているんだということがもっと伝えられればいいですよね。

「テレビで扱ってもらえたりすることはとてもありがたい」というときど選手
「テレビで扱ってもらえたりすることはとてもありがたい」というときど選手

――ときど選手自身はテレビや一般メディアへの出演なども増えて、ゲームをあまり知らない人もその姿を目にする機会が増えています。著書にはそうした人がときど選手を通じてゲームを知ることに怖さもあるとありましたが、露出が増えるときに意識されていることはありますか。

ときど やっぱり一般教養は大事ですよね。あと言葉遣いとか。個性は潰したくないなと思いますけど、どこに出ても恥ずかしくない人間にならなきゃいけないなとも思っています。

――試合の配信などでは、ふとしたときに表情を抜かれたりすることもありますよね。

ときど それも最近は意識しています。というのも、試合中の表情に注意したほうがいい、表情すら隠せないやつが勝負強いってことはありえないってアドバイスをくれた人が何人かいたんです。

 そのうちの1人はトッププレーヤーで、プロゲーマーになるずっと前からマージャンなどの勝負の世界で生きてきた人でした。そういう人の考え方ってゲームにも出るもので、すごくシビアなんですよ。その人に言われたんです。「勝負の世界では顔に出るようなやつが強いことは絶対ない」って。

 別の人には「俺は試合中の表情、ずっと見てるから」と言われました。プレーももちろんですが、試合中の表情でどう崩れたかとかここで表情にも出さないってことは修練積んでるんだなとかが分かると。やっぱり見られてるんですよね、一挙手一投足を。そう言われてから意識するようになりました。

――体も鍛えていらっしゃいますよね。それでメディアのオファーも増えたという話も著書にありました。

ときど それは思わぬ副産物でした。僕は体を鍛えた方がゲームが強くなると本気で思ってトレーニングを始めましたが、それ以外のメリットもあったなと。体つきが良くなったことでスポンサーが喜んでくれたり、写真写りがいいと言ってくれたりするのはうれしいです。