半世紀たっても売り上げを伸ばすロングセラー

 カップヌードルは発売以来、カップ麺分野の首位を走り続けており、16~18年と3年連続で過去最高売り上げを更新するなど今なお高い人気を誇る。「フタを開けてお湯を注ぐだけという縦型の手軽さと、即席麺らしい香ばしさに、消費者は改めて価値を見いだしている」と白澤氏。時代の嗜好を捉え、細分化するニーズに対応する商品展開も販売に結び付いている。シリーズの中核となる定番商品に加え、短期販売商品の売り上げが全体の成長を支えている。ロングセラーを維持する強みは「老若男女、どの世代にも万遍なく食べてもらえていること」(白澤氏)だ。

細分化する嗜好に合わせたバリエーションの一部。定番の味は20~25種類。現在80カ国以上で販売するカップヌードルは、71年の発売以来、国内外の販売数が累計450億食に上る
細分化する嗜好に合わせたバリエーションの一部。定番の味は20~25種類。現在80カ国以上で販売するカップヌードルは、71年の発売以来、国内外の販売数が累計450億食に上る

心をつかむ“コト消費”で「好き」を高める

 そうした幅広いユーザーの視点に立って開発したのがTHE FORK、すなわち「カップヌードルの魅力を最大限に引き出すことを目的にデザインした専用フォーク」だ。佐藤氏は企画の動機についてこう語る。

 「カップヌードルはお湯を注ぐだけで食べられる。だからこそ待ち時間や食べる際の動作を見つめ直すことで、商品の魅力をさらに引き出せるのではと考えた」

 実際に箸やフォークで食べては課題点を見いだし、整理した結果、1本のフォークにこれほどまでこだわりを詰め込んだデザインとなった。そこにたどり着くまでに何度も試作品を作り、試食を繰り返したという。

 日清食品の最終目標は売り上げ増につながるユーザーの広がりにあるのは違いない。専用フォークに期待したのも「食べてみたい」と欲する心が動くこと。「コト消費的な楽しさの演出で、思いを高めるのが狙い。心をくすぐる展開は重要だ」と白澤氏は力を込める。

 佐藤氏は数多くの仕事で「常に小さな『!』を提供することを心掛けている」と語る。その言葉通り、小さな「!」を詰め込んだ1本のフォークは大きな話題を呼び、好評を得た。予想外の反応もあった。特に「使いやすい」「食べやすい」と高評価だったのは、訪日外国人と左利きの人だという。

 さらに思いがけないエピソードも明かしてくれた。利き手をけがした人や、老人ホームのお年寄りが使ってみると、「手首を動かさずに味噌汁の具をスイスイすくえた」「楽しそうに食事をしていた」――などの声が届いたという。「まさか世の中でそんなふうに認めてもらえるとは。我々の想像を超える話」と白澤氏も喜びを隠せない様子。

 ただカップヌードルを食べることに特化して“無駄な”こだわりを注ぎこんだ1本のフォークは、いろんな人にとって使いやすい道具にもなった。1つの企業と1人のデザイナーが小さな「!」を詰め込んだ末にたどり着いたのは、究極のユニバーサルデザインなのかもしれない。

(写真提供/デザインオフィスnendo)
(写真提供/デザインオフィスnendo)
佐藤オオキ(さとう おおき)氏
デザインオフィスnendo代表
1977年カナダ生まれ。2002年早稲田大学大学院建築学専攻修了、同年、デザインオフィスnendo設立。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」に選出され、世界的なデザイン賞で数々の「Designer of the Year」を受賞。代表的な作品は、ニューヨーク近代美術館(米)など世界中の美術館に収蔵されている。2024年に稼働予定の、フランスの高速鉄道TGV新型車両の内外装デザインを手掛ける。主な著書に「問題解決ラボ」(ダイヤモンド社)、「佐藤オオキのスピード仕事術」(幻冬舎)、「佐藤オオキのボツ本」(日経BP)、「コップってなんだっけ?」(ダイヤモンド社)などがある。最新刊は「ネンドノオンド」(日経BP)

(写真/酒井 康治)