白馬地域の観光活性化を進める白馬観光開発(長野県北安曇郡白馬村)はインバウンド需要の高いスキー事業に着目し、2019年12月に3つの宿泊施設を開業した。近年同エリアはグリーンシーズンの集客に力を入れているが、宿泊施設の充実で富裕層獲得やメインのスキー事業のさらなる活性化を図る。
富裕層向けの宿泊施設を開設
白馬観光開発はここ数年、オールシーズンのリゾート化を目指した「白馬マウンテンビーチ」や、国内初のアドベンチャー施設「白馬つがいけWOW!」などを開業し、白馬地域の活性化を推進してきた(関連記事「異色の社長と著名Pが仕掛ける、標高1400mのビーチリゾート」)。今回、宿泊施設の強化にも乗り出した。特に狙うのは海外からの富裕層だ。
1980年の終わりから90年代初頭に起きた“スキーバブル”の崩壊後、栂池・岩岳エリアの来場者数は激しく落ち込んだ。最近はインバウンド需要の拡大で盛り返しているものの、宿泊施設の増強が追いつかず大きな課題となっていた。周辺施設の老朽化が進み、商店数も激減。外国人旅行客に対応できるスタッフや宿が乏しいうえ、5つ星クラスの高級ホテルもないことから富裕層を集客できないのが実情だ。
そこで外部事業者にオペレーターとして入ってもらい、老朽化した施設をリノベーションする形で宿泊事業の強化に着手。2019年12月13日には、白馬岩岳エリアに古民家を再利用した高級古民家リゾート施設「旅籠丸八 参番館」をオープンした。土壁にしっくいなどを塗った土蔵を生かしたメゾネットタイプ1室と、2階に3室の客室を用意しており、日本情緒あふれる内装が外国人に喜ばれそうだ。
料金は2人1室3万~4万円(税別)。設計を担当したFUNNY(東京・港)の高木真宙事業本部長によると「18年にオープンした『旅籠丸八 壱番館・弐番館』には、1週間程度宿泊する外国人旅行者もいる。宿泊客の6割は訪日外国人」とのこと。
19年12月27日には非日常的な環境で自分と向き合う「セルフリトリート」をテーマにした複合宿泊施設「haluta hakuba」が営業を開始。雑貨販売や空間プロデュースを行うハルタ(長野県上田市)がスキー客用の民宿をリノベーションし、北欧テイストの宿泊施設へと変貌させた。内装に北欧のビンテージ家具を使用し、オーガニックな食材やアメニティーもセールスポイント。客室は全8室で、健康志向の高い女性に人気が出そうだ。
気軽に泊まれるホステルも新設
特にインバウンド需要が高い栂池エリアには、19年12月26日にホステルを新設。東京の神楽坂や新宿で訪日外国人向けホステルを展開するFIKA(東京・新宿)が運営を担当し、老朽化した2軒の宿泊施設をリノベーションした。それが「UNPLAN Village Hakuba」だ。予約受け付けや客室管理、食事提供などはFIKAが担当し、英語が話せるコミュニケーション能力の高いスタッフを常駐させることで課題を克服。FIKAの福山大樹社長は「ホステル周辺には食事処や娯楽施設がなかったが、地下にディスコを改装したバーを設置することで外国人や若者が楽しめるように工夫した」と述べる。内装はポップな印象でホステルとは思えないほどオシャレだ。
国内初、富裕層向けのVIPサービスも充実
今回、「白馬岩岳スノーフィールド」のサービスも充実させた。同スキー場は白馬エリア内最大の26コースを誇り、360度のパノラマ眺望が特徴で、ウインターシーズンには約154万人が訪れる人気のエリア。19年12月21日に「HAKUBA S-CLASS ~VIP lounge & Priority pass~」がサービスを開始し、大人1日1万5000円(税別)で複数のラウンジの使用やゴンドラリフトの優先搭乗など、ファーストクラスの体験ができる(15歳以下は税別7500円、6歳以下は無料)。他にも利用者専用の駐車場や、私物やスキー用具を預けられるクロークサービス、宿泊施設からゲレンデまで送迎してもらえるピックアップサービスなども用意した。
画期的なのがラウンジだ。スキー場のレストランは混んでいる場合が多く、食事の席や休める場所を探すのが難しい。その点、HAKUBA S-CLASSのラウンジには軽食がとれて寝転べる休息スペースなどがあるため、ゆったりくつろげる。スキー好きの人はこれまでとは違ったリッチな過ごし方ができるはずだ。
これまで思い切った施策を展開してきた白馬エリア。白馬観光開発の和田寛社長は「今後もさまざまな企業と協力して、使われなくなりつつある建物をうまく改装しながら宿泊施設の強化を図りたい。外部から優秀なプレーヤーに入ってもらい、地元で新しい事業を展開したいと考えている人などをマッチングさせながら地域を活性化させていきたい」と今後の抱負を語った。
(写真/吉成早紀、写真提供/白馬観光開発)