靴下メーカー岡本(大阪市)が2018年3月に発売したフットカバー「脱げない ココピタ」の快進撃が止まらない。18年は従来モデルから230%成長し、さらに19年春夏シーズンは前年同期比660%もの伸長率を達成した。その生命線は他社がまねできない特許技術「コの字型ストッパー」にある。

靴下メーカー岡本のフットカバー「脱げない ココピタ」
靴下メーカー岡本のフットカバー「脱げない ココピタ」

「脱げにくい」ではなく「脱げない」を標榜

 フットカバーとはつま先とかかとのみを覆う靴下で、一般に甲が広く開いており、靴を履くとほとんど見えない。甲の開いたパンプスを履く女性から人気に火が付き、素足感を出したい男性にも広く支持されている。そのためユニクロや無印良品など大手もこぞってフットカバーを販売しているが、どこも「脱げやすい」という問題に直面していた。

 そこで各社とも脱げにくくするため、かかと部分にさまざまな滑り止めを施すことで対応を図った。滑りにくい素材をドット状、波状、面状にしてかかと部分に配したが、素足なら脱げにくくても、靴を履くと歩いているうちに脱げてしまう。この業界の“定説”を覆したのが「脱げない ココピタ(以下、ココピタ)」だ。

 レッグウエア専業メーカーとして2008年以降11期連続で国内靴下売り上げ全国1位(繊研新聞調べ)の岡本は、トップ企業の使命として「フットカバーは脱げてしまう」という常識を克服しようと試行錯誤を繰り返した。そこでたどり着いたヒントが摩擦力だった。フットカバーが靴を履いたときだけ脱げやすくなる理由を探るべく、靴の構造を調べたところ、以下の3点が分かった。

  1. かかと部分はかかと成形機でかかとにしっかり沿うように作り、かかとが抜けにくい構造になっている。
  2. かかと部分の両サイドが最も締め付けが強く、後方部はほとんど靴と接触していない。
  3. 足が靴の中で滑りづらいようにかかと部分の素材を変えている。その素材が靴下にフィットして靴下が靴に密着する。一方、発生する摩擦力が「足と靴下」より「靴と靴下」のほうが大きくなるため、靴下が靴に引っ張られて脱げる。

 そこで靴の滑り止め効果よりも強い効果のストッパーを開発。着用時に縦に伸びる靴下の生地伸縮の特性を最大限活用できる、「コの字型ストッパー」を完成させた。これまでのフットカバーにはない、かかとの両サイドにまでストッパーを広げた技術により、同社は特許を取得した。

特許を取得した「コの字型ストッパー」。かかとをしっかりホールドする
特許を取得した「コの字型ストッパー」。かかとをしっかりホールドする

 コの字型ストッパーはかかとをしっかりホールドするため、下から引っ張っても脱げないほどの効果を発揮する。靴下の素材や薄さによって程度が変化する脱げやすさやズレやすさは、生地段階でストッパーを付けるなど生産工程を分けることでクリアした。

 社内の着用実験や100人の社外モニターで試した結果、その効果を確信した岡本は従来の「脱げにくい」ではなく、「脱げない」を堂々と標榜して勝負に出た。

コの字型ストッパー。かかとのサイドまで滑り止めを配した
コの字型ストッパー。かかとのサイドまで滑り止めを配した

社内初の全国CMが伸長を後押し

 パッケージデザインは一目で脱げないことが分かるように、下から靴下を引っ張った画像を採用した。さらに岡本哲治社長の肝煎りで、ココピタを看板ブランドに育てることが決まった。しかし発売直後の売り上げは従来商品の1.5倍程度と、期待したほどではなかった。品質には絶対の自信があった。ヒットにつなげるには認知の徹底が課題だった。

 ココピタを開発した岡本の商品本部ナショナルブランド総括課ブランドマネジャーの大林勇士氏は、「知ってもらえば買ってもらえると確信していた」と話す。18年のテストマーケティングで、フットカバーの着用期間が長い沖縄や販売網が確立できていた福岡限定でテレビCMを流したところ、売り上げが3倍に伸びた。CM効果に手応えを覚え、19年には本格的に全国で放映を始めた。

 CMには最初に「靴下の岡本」というフレーズを入れ、インパクトを加えた。「岡本を知らずに岡本製の靴下を履いている人にも知ってもらう機会と捉えた」と大林氏は狙いを明かす。

 認知を売り上げにつなげるため、CMと同時に販路も工夫した。CMを見てすぐ買えるように、ドラッグストアなど生活圏での販売先を増やした。

ココピタを開発した岡本の商品本部ナショナルブランド総括課ブランドマネジャーの大林勇士氏
ココピタを開発した岡本の商品本部ナショナルブランド総括課ブランドマネジャーの大林勇士氏

 岡本によると関東圏のF1層(20~34歳の女性)は、テレビの視聴が週に1時間未満と極端に少ない。もともとF1層をターゲットに売り出したココピタだが、実際のボリュームゾーンは30~50代女性だという。そこで今後さらにF1層を取り込むべく、デジタル施策にも積極的に取り組む考えだ。

 大林氏によると最大の課題はシーン訴求だという。パンプスだけでなくさまざまなシーンでの使用用途を訴える。現在、女性の靴の多様性に合わせて超深履き、深履き、浅履きなどレディースで5種類を展開するココピタだが、選びづらいとの声もある。店頭では各商品の写真とお薦めの靴タイプの写真を並べ、選びやすさを訴求すると同時に複数買いを促進していく。19年の正確な売上高はまだ出ていないが、「現状は春夏がメインの商品で、その春夏だけで前年同期比660%を達成しており、年間を通して比較しても大きく成長したという結果は変わらない」(岡本)と、大躍進に自信をみせる。

19年秋冬には足底が裏起毛素材の「タイツイン」を発売。タイツの中に重ね履きすることで冷えを防ぐという新たなシーンを提案する
19年秋冬には足底が裏起毛素材の「タイツイン」を発売。タイツの中に重ね履きすることで冷えを防ぐという新たなシーンを提案する

 ココピタの快進撃を他社が黙って眺めているわけはないだろう。この先、「脱げない靴下戦争」への突入もあり得る。しかし「社の理念は『足もとから、ひとりひとりのしあわせをともにつくる』。市場が活発化すれば技術も発展していく。新しい価値を今後も作っていきたい」と大林氏。特許で守りを固めた独自技術に対する自信なのか、迎え撃つ余裕すらうかがえる。

(写真/北川聖恵、写真提供/岡本)