JR秋葉原駅近くの高架下に開業した新商業施設「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」には、ソフビやカメラ、ミニ四駆など「レトロだが新鮮な魅力」を扱うマニアックな専門店が並ぶ。東京初となる蒸留所併設のクラフトジンの店も登場し、エリア開発の新しい動きがうかがえる。
こだわりを探求するのがオトナの楽しみ
2019年12月12日にオープンした「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE(シークベース アキオカ マニュファクチュア)」(以下SEEKBASE)は物販店と飲食店、および宿泊施設「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA(アン ダー レイルウェイ ホテル アキハバラ)」からなる(関連記事「まさに“線路下” 真上を山手線が走る秋葉原の『高架下ホテル』」)。
ジェイアール東日本都市開発(東京・渋谷)は長らく駐車場だった「AKI-OKA」エリア(秋葉原から御徒町の駅間)の高架下を「日本のスグレモノを楽しむ散歩道」に生まれ変わらせることを目指し、手仕事の「2k540」(10年開業)、食の「ちゃばら」(13年開業)などを次々誕生させてきた。その一環として今回開業した「SEEKBASE」は、「かつての電気街を意識した“こだわり”あふれる専門店街」との位置付けで、既存施設への回遊を促す役割も担う。
「モノが飽和状態にある今だからこそ、技術やレトロな価値にこだわり、愛着を持つ層が広がりつつある」と語るのは、同社開発事業本部 開発調査部 課長代理の葉山えりな氏。かつての“青春”を懐かしむ中高年世代だけでなく、古い物を新鮮に感じる若者まで視野に入れた運営を目指しているという。第1期としてオープンしたのは「The Tools」エリアを中心に物販9店舗と飲食2店舗。20年春には第2期の飲食エリア、和太鼓体験教室などがオープンする予定だ。
アナログな「モノ」としての魅力
イベントスペースでは「ラジカセ博士」として知られる家電蒐集家・松崎順一氏による古いラジカセの販売が期間限定(20年1月31日まで)で行われている。世界を回って家電を集め、その面白さを伝えることを生業とし、販売も行う松崎氏。ポータブルオーディオを中心に集めたレトロ家電の数は5000に上る。
そこまで松崎氏を虜(とりこ)にした理由は「デザインに多様性があるから」だ。ラジカセの機能は基本的にラジオとカセットテープで音楽などを聴くことしかない。メーカーが他社より多く売るにはひとえにデザイン勝負。当時のデザイナーたちは消費者の心をつかもうと創意工夫で火花を散らした。もともとインテリアデザイナーだった松崎氏は、「そういう(研ぎ澄まされた)状況で生まれた家電に萌(も)える」と言う。
中古のレコードやCDを販売するアール・エフ・シー(東京・渋谷)が期間限定で出店した「レコファン秋葉原バザール」では、レア盤LPから大特価CDまで1万点以上を大放出する。音楽はネットでダウンロードして購入するのが当たり前の時代に、逆にアナログな「モノ」としての魅力からレコード人気が高まっている。日本人は取り扱いが丁寧で、中古でも良好な状態のものが多く、日本のレコード会社が独自に始めた「帯」の存在も外国人に好評だという。
ケンテックスジャパン(東京・台東)は国産時計ブランド「KENTEX」の直営店を20年1月25日にオープン予定。自衛隊モデルやオートバイのライダー専用モデルなどテーマに特化した製品が特徴で、「普通の時計は置いていない」(スタッフ)のが自慢だ。
同ブランドの名を高めた防衛省公認の自衛隊モデルは、アナログであることにこだわっている。その理由は「普段の訓練時には針のないデジタル時計を使うが、式典などの正装に合う時計がないという隊員の意見を基に開発した」からだ。リュウズの配置を工夫し、文字盤には防衛省から正式に支給された陸、海、空、各部隊のエンブレムに加え、「日の丸」もあしらった。海外派遣の際に他国の部隊とのプレゼント交換に使うこともあるという。基地や駐屯地の共済組合で販売。同レディースモデルも発売した。
“昔の妙味”をリスペクトする
「まんだらけ CoCoo(こくう)」は、古い漫画やフィギュアなどを販売するまんだらけが出店する初のソフビ(※ソフトビニール人形)専門店。70年代に実際に売られていた商品を中心に、ヴィンテージの怪獣から最近のアーティスト作品まで約1万2000点のソフビを扱う。
セルロイドに代わり、加工に優れたビニールという材質で人形を作ったのは日本が最初。精巧な金型を作り商品の魅力を格段に高めたが、今では職人が減少の一途をたどり、「70年代のソフビが“手に入らないもの”として人気がある」(スタッフ)。色合いや塗装の仕方も、当時のものが好まれるという。
海外でも「sofvi」の名で呼ばれ、日本製ソフビに対するリスペクトは絶大だ。「新しいソフビを日本の技術で作りたいというアーティストがわざわざ日本に来て、日本の工場で材料をそろえ、金型を作って塗装までやる。作家さんは作品の足の裏に『Made in Japan』の刻印を入れたいようだ」とのこと。
カメラ販売の三宝カメラ(東京・目黒)が出店した「2nd BASE」の主力商品はオールドレンズやフィルムカメラだ。高画質なデジタルカメラ全盛の時代、古い設計のフィルムレンズでは性能が追いつかない。しかしその甘い描写や、“光のノイズ”ともいえるフレアやゴーストを“妙味”と捉え、あえて新しいデジカメに古いレンズを取り付けて写真を撮る人が増えているという。
生まれたときからデジカメが身近にある環境で育ったデジタル世代は、高画素化したデジタルで撮った写真にもはや新味など感じないだろう。むしろ「フィルム時代の描写は結構“映える”」と興味を持つ若者が少なくないそうだ。
少年の心のまま楽しむ
ハビコロ玩具(東京・千代田)が出店する「ハビコロ玩具すけるとん」は鉄道模型とスケールモデルの専門店。ここでは主に「ミニ四駆」の販売に力を入れている。1980年代後半、パーツを組み合わせてカスタマイズし、速さを競うミニ四駆は男の子を夢中にさせた。レースに挑戦する少年が主人公の漫画とアニメの大ヒットもあり、「当時小学生だった男子はだいたい通って来た道。でもお小遣いでは十分なパーツを買えなかった」(スタッフ)と懐かしさが募る。今なら昔ハマった親が、子供と一緒に楽しめそうだ。
ミニ四駆は速さとデザインの格好よさがポイント。速くするには主にモーターやギア、タイヤのカスタマイズが必要。車体を軽くしすぎるとコースアウトの恐れもある。単純そうだが、創意工夫の結晶なのだ。ミニ四駆の大会ほか、近ごろは酒を飲みながら“愛車”を走らせられる店もあるそうで、昔にはなかった展開が見られる。
仕事帰りに楽しみたい味
「クラフトビールの次は、クラフトスピリッツだよ」――。クラフトビールの「常陸野ネストビール」で知られる木内酒造(茨城県那珂市)は、こんなうたい文句でSEEKBASEの一画に「常陸野ブルーイング 東京蒸溜所」をオープンした。東京初となるクラフトスピリッツの蒸留設備を併設したダイニングバーだ(※クラフトスピリッツは蒸留許可申請中。20年春稼働予定)。近年、スピリッツ人気が高まりを見せている。なかでも高級感のあるクラフトジンに老舗酒造会社が相次いで新規参入している。
クラフトスピリッツとは原料や製法にこだわり、特徴的な味付けをしたアルコール度の高い蒸留酒のこと。お酒の「クラフト」は、職人が作る手作り感のある高品質なものを“技能”にたとえて、そう呼ばれる。同店では蒸留したジンをベースに、焼きユズやハーブ、昆布などを浸して香味付けしたリキュールをはじめ、自社製造のモルトウイスキー、クラフトビールなども提供。茨城県産のブランド和牛「常陸牛」やブランド豚「常陸の輝き」を使った自家製ハム、ソーセージとともに楽しめる。
(写真/酒井康治)