都心を中心とした通勤時間帯の電車の混雑は、現代のストレス社会を代表する問題といっても過言ではない。そんな「痛勤地獄」を解消する一助となるべく、貸し切りバスを活用した通勤シャトルバスの実証実験が2019年12月に行われた。そこで見えてきた可能性と課題とは?

実証実験で使われた貸し切りバス。ワンダートランスポートテクノロジーズが実施
実証実験で使われた貸し切りバス。ワンダートランスポートテクノロジーズが実施

 スマートフォンも手に取れないほどの大混雑で、首都圏のビジネスパーソンを悩ます「痛勤電車」。その例として挙げられることが多いのが、東急田園都市線だ。国土交通省が2019年7月に発表した東急田園都市線の混雑率は182%と、東京圏の主要区間における平均混雑率163%を大幅に上回っている。

 そんな東急田園都市線とJR東日本の南武線が交差する主要駅「溝の口駅」(川崎市)を舞台に12月18日、ある実証実験が行われた。溝の口から虎ノ門・東京駅を結ぶ、無料の通勤シャトルバスのテスト運行だ。事前予約で座席が確保された大型バスで、「痛勤電車」よりも格段にストレスフリーな移動体験を提供し、その需要を把握するのが狙いだ。

 実施主体は、貸し切りバスツアーの企画・仲介サービス「busket(バスケット)」を展開するワンダートランスポートテクノロジーズ(東京・目黒)。今回、同社は45人乗りの貸し切りバス1台を用意し、事前予約で即座に埋まった定員40人のうち、当日は28人のビジネスパーソンが乗車した。記者はそのうちの一人だ。

メールで届いた参加チケット。今回は無料の実証実験
メールで届いた参加チケット。今回は無料の実証実験
貸し切りバスの車内。参加者が予定より少なかったため、隣に人が座ることなくゆったりと過ごせた
貸し切りバスの車内。参加者が予定より少なかったため、隣に人が座ることなくゆったりと過ごせた

 集合時間の朝7時、その10分前に溝の口駅の指定場所に行くと、すでに大型バスが待機しており、スタッフの案内に従って乗車した。参加者の顔ぶれは男性77.8%、女性22.2%、年代は40代(37%)と30代(33.3%)が多く、降車地は東京駅(59.3%)に対して虎ノ門が40.7%だった。

 溝の口―虎ノ門間は電車で行くと約30分の道のり。それに対して、今回の通勤シャトルバスは余裕を見て1時間ほどで虎ノ門に着く計画を組んでいた。大混雑の電車で30分我慢するより2倍の時間がかかっても、ゆったりとした座席で快適に移動できたほうがいい。そんな魅力的な提案だ。実際、シャトルバスでの移動中、参加者は新聞を読んだり、パソコンでメールを打ったり、仮眠を取ったりと、それぞれリラックスした時間を過ごしていた。記者自身も、通勤時間を読書などにあてて有意義に使えるなら、30分の早起きは苦にならないと思えたほどだ。

 しかし、現実はそう甘くない。ほぼ定刻の7時8分に溝の口を出発したシャトルバスが、虎ノ門に到着したのは1時間30分後の8時38分。国道246号線や用賀インターチェンジから乗った首都高速道路の混雑により、計画より約30分遅れの到着だった。バス車内で過ごす時間が長いほど、これまで通勤時間にできなかった作業がはかどるともいえるが、朝の通勤で電車より1時間も余計にかかるのはさすがに許容しづらいだろう。今後の通勤シャトルバスの事業化に当たっては、移動の快適さと、そこにかけられる時間のバランスをどう見極めるか。それに応じた出発地と目的地の設定、運行ルートの選定などがポイントとなりそうだ。

実証実験の参加者アンケートの結果
実証実験の参加者アンケートの結果

 今回の実証実験の参加者アンケートでは、興味深い回答も得られた。まず、「利用したいと思う乗車価格」については、「~500円」が46.2%と最多で、「600~1000円」が34.6%で続く。仮に1000円だとしてもシャトルバスの運行コストをすべて賄うのは難しいが、快適な移動に対してユーザーが追加の費用負担を許容する意思は見て取れる。

 「利用したいと思うサービス」については、「Wi-Fi」(29.4%)、「電源」(20.6%)といった設備面に続いて、「ドリンク」(19.1%)、「朝食(軽食)」(13.2%)、「仮眠」(7.4%)などが挙がった。「車内に電源設備があれば、リモートワークのカフェ利用と同様に経費申請ができるので付けてほしいという声もあった」(ワンダートランスポートテクノロジーズの江口晋太朗プロデューサー)という。今回のような通勤シャトルバスを企業の福利厚生や、オフィスビルのサービスの一貫として運用するニーズもあるだろう。

 また、ドリンクや朝食のサービスについては、企業との広告タイアップにつなげやすい。実際、ネスレ日本がケイエム観光バスと組み、「ネスカフェ エクセラ」と人気カフェレストランの朝食メニューを提供する無料通勤バス(池袋―東京駅間)を19年12月に期間限定で走らせた事例もある。他にも車内で英会話を学べたり、プロのメークが体験できたりと、「様々な企業と協業することで、通勤シャトルバスを採算ベースに乗せつつ、ユーザーがより安価に快適に移動できる形を模索していきたい」と江口氏は話す。同社は今回の実証実験を受け、今後は有料での通勤シャトルバスの運行や、夕方の帰宅時間における需要の確認を行う構えだ。

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