2019年も企業、自治体はさまざまなネット炎上トラブルに見舞われた。企業が炎上のターゲットになって20年ほどがたつ。その間、各種SNSが登場したが、炎上を誘発する要因はさほど変わっていない。知っておきたい歴史と知識をクイズ形式で出題する。
「日経ビジネス」2019年12月16日号特集「謝罪の流儀」、「広報会議」2020年1月号特集「危機管理広報2020」……。ここ4~5年、両誌は12月に企業不祥事の傾向と対策、並びに謝罪会見の“採点”を特集するのが定番化している。「ダイヤモンド・オンライン」も先ごろ、「ワースト謝罪会見ランキング2019、プロが選ぶ『最も残念な謝り方』は?」という記事を掲載していた。忘年会シーズンだが、反省会も忘れずに、といったところか。
日経クロストレンドも18年10月に「2018年炎上事件簿 新型炎上の傾向と対策」を特集したが、やや時期が早かったかもしれない。そこで19年は年末最後にネット炎上対策企画をお届けする。今回は趣向を変えてクイズで学ぶスタイルだ。
それでは第1問……に入る前に、直近で起きた炎上劇について振り返っておきたい。
12月に入って炎上したのが、愛媛県のPR戦略「まじめえひめプロジェクト」のコンセプト動画「愛媛県まじめ会議」だ。「まじめえひめ」というキャッチフレーズが県庁職員の議論で決まる過程をドキュメンタリー調で面白おかしく描いた(つもりだった)。だが、4月からYouTubeや交通機関、公共施設などで公開された動画が県民に知られるにつれ、県議会議員の元に苦情が寄せられるようになり、全国キー局のワイドショーでも騒動として取り上げられるに至った。動画は現在も視聴できる。
問題になったのは、愛媛県民が真面目である論拠として、「介護・看護をしている時間 全国1位」「彼氏がいない独身女性の多さ 全国1位」を挙げている点だ。
介護・看護の時間は、総務省統計局「社会生活基本調査」の2006年と2011年の結果から算出したもの。介護・看護時間の長さを、他人を思いやる気持ちの表れと見て“まじめ”と解釈した。
だが介護時間の長さは、一概に美談にできるものではない。介護時間が長いのは、平均寿命と健康寿命の乖離(かいり)が大きいことが要因の可能性があり、そうであれば決して望ましいことではない。また、介護の専門施設に委託したくても施設の数や受け入れ態勢が不十分だったり、金銭的に厳しかったりするケースもあろう。総じて介護の仕事が降りかかってきやすい女性から不満の声が上がるのも無理からぬことだ。
もう一方の彼氏がいない独身女性の多さは、公的な統計調査ではない。P&Gが2015年3月にリリースした「春のドライブデート実態調査」の数字を使っている。クルマ用消臭芳香剤「ファブリーズ プレミアムクリップ」の販促のために実施した“お手軽アンケート企画”だ。ドライブデート経験のある20~30代独身女性に質問したもので、回答者は各県たったの30人(人口の多い10都道府県は各100人)。30人中、22人が「彼氏がいない」と回答した愛媛県と長野県が「彼氏がいない県ランキング」のトップに立ち、これを愛媛県は「おしとやかでまじめ」と解釈してアピール材料にした格好だ。当然ながら、「彼氏がいると不真面目なのか?」と批判を浴びることになった。
ちなみに都道府県別の生涯未婚率ランキング(高い順)で愛媛県の女性は10位(国立社会保障・人口問題研究所の2015年の推計値)。高いほうではあるが、まだ上に9都道府県が控えている。「n=30」のサンプル数で女性を評価するのは不真面目が過ぎたようだ。人のライフスタイルや、既婚未婚など人生の選択に関わることで笑いを取るのは慎重であるべきだろう。
では、クイズに移ろう。
(2)2000年に入った頃
(3)2005年ごろ
(4)2010年ごろ(東日本大震災前)
(5)2011年以降(東日本大震災後)
「炎上」が記事見出しになるほど一般化したのはいつ?
A1 正解(3)2005年ごろ
本記事のタイトルが「ネット炎上20年史」であることから、(1)か(2)と思われた人もいるかもしれない。今で言うネット炎上の現象は90年代から存在するが、当時は炎上という言葉ではなく、「○○祭り」などと称することが多かった。
炎上が一般的に使われるようになったのは、2005年の11月にソニーのブログプロモーション「ウォークマン体験日記」が批判を受け、新製品発売から数日で閉鎖した事件からだ。素人4人がウォークマンを使ってみた感想をリポートする内容だったが、素人とは思えない撮影テクニックを要する写真があったり、競合他社を暗にけなす記述があったりしたことが批判の的となった。
それまで炎上という言葉は、野球で投手陣がめった打ちされる場面で、「火だるま」と同義で使われていた。ちなみに2005年10月のプロ野球日本シリーズ、千葉ロッテマリーンズ対阪神タイガースは、千葉ロッテの4連勝に終わり、阪神投手陣は4試合で33失点と打ち込まれたことから連日、炎上が記事見出しになっていた。この時期に炎上という言葉が定着したのは、そんな出来事も関係している、かもしれない。
企業が見舞われた初のネット炎上事件とは?
A2 正解 1999年の東芝ビデオクレーマー事件
企業がネット上で消費者から批判を受けて謝罪に至る、その元祖となったのがこの事件。東芝製ビデオを購入した福岡市の男性A氏が、ビデオテープを再生した際に画面に出る白いノイズの修理を巡って口論となり、同社担当者から浴びた“暴言”音声を録音、自身のホームページで公開したことから、ネット上が大騒ぎになった。
「お宅さんみたいのはね、お客さんじゃないんですよ、もうクレーマーっちゅうの、お宅さんはね。じゃあ切りますよ、お宅さん業務妨害だから」
修理の内容に納得がいかないA氏がビデオデッキを社長宛てに送付するという行動に出たこともあって、通常の顧客窓口とは異なる部門が対応したことがトラブルを悪化させた。最終的に東芝は会見を開き、副社長が全面的に謝罪している(当時、若手記者だった筆者はこの会見に出席して記事を書いている)。
顧客対応を巡るトラブルは表に出にくいものだが、暴言音声をネット上に公開することで世論を味方に付けたこの事件は、企業と消費者の関係を大きく変えるエポックな出来事だった。また当時オープンして間もない巨大掲示板「2ちゃんねる」が情報共有の舞台になったことからも、この事件は今なお頻発する炎上トラブルの原型と言っていいだろう。
炎上の何が増えているのか?
A3 正解 「炎上」の検索ボリュームの推移
こちらは炎上事件の件数ではなく、炎上がGoogleでキーワード検索された量の推移を表したものだ。「Google Trends」でキーワードを入力すれば調べることができる。指定期間で最も検索が多かった時期を100として、折れ線グラフが表示される。
過去5年で調べてみると、18年暮れがピークで、アップダウンを繰り返しながらも基本的に右肩上がりで推移している。すなわち「炎上」というキーワードでネタを探し回っているユーザーが増えていることを意味する。そうした“ニーズ”にWebメディアが応えて、ちょっとした小火でも記事化することで、炎上トラブルは以前にも増して発見されやすい環境にある。
お色気動画はバズらせるのに有効か?
A4 正解 “ギリギリ”、“スレスレ”は逆効果の恐れ
電通パブリックリレーションズ(電通PR)が外部の広報、経営の専門家と連携して組織する社内研究機関「企業広報戦略研究所」が、2017年に実施した「第2回企業魅力度調査」で、どんな感情を伴うコンテンツならば企業の情報を人に伝えたくなるかを尋ねている。
拡散を誘発する感情トリガーは、男女とも「感動」「胸熱」が2トップで、次いで女性では「信じられない」「爆笑」「カワイイ」が続いていた。グラフの通り、女性のほうが他者へ伝える意欲が高い。10項目のうち最も関心が薄いのが「セクシー」だった。そして女性は「ヒドイ」と思ったものも共有する意向が強い。
インパクトがなければ注目されないという焦りから、“ちょいエロ”系動画の制作が頭をよぎることがあるかもしれない。だが、男性にとって知人女性ともSNS上でつながっている手前、お色気動画は投稿しづらく、女性は「ヒドイ」と感じればネガティブな感想を付して拡散する。お色気路線は、シェアに向かないコンテンツだと認識しておいたほうがいい。